第六話 神は滞る


◆◆◆

 

 全然友だちとかできないんだけど!?

 おかしくない? 入学してもう1週間経ったんだけど?


 頬杖をついたまま目だけ動かし教室を見回すと、クラスメイトたちがめいめいに休み時間を過ごしている様子が見てとれた。

 その中には当然雑談している子たちだっている。


 1週間も経てばぎこちなさも薄れ始め、さも楽しそうに談笑しているクラスメイトの何と羨ましいことか。

 混ぜて混ぜてと間に入っていける積極性など持ち合わせていないし、そんな勇気があれば、私だって今頃だれかとキャッキャとイチャイチャできているだろうて。


 視線の端では、子日ねのひちゃんが同室らしい今丑いまうしさんと何やら話していた。

 いやよく見るとちゃんと会話できてるのかあれ?うなづいてるのかと思ったけど、今丑さんただうつらうつらしてるだけだぞ。


 ちなみに2人が同室なことは、数日前に、もしかしたらを期待して子日ちゃんの部屋の前を何往復かしたときに得た情報です。

 そんな情報以外には何の収穫もないまましょぼくれて部屋に逃げ帰ったのも、記憶に新しい苦い思い出だよ。


 後で部屋で振り返った時に、あまりに気持ち悪いストーカームーブだと気づいてその日しかやってないけど。

 自分がされて嫌なことはするべきではないしね。


 そもそも何がおかしいって、せっかく仲良くなれるきっかけを得たと思ったのに、避けられてんじゃないかってくらいにこれまで子日ちゃんとの接触がなかったんだけど。


 頑張って話しかけようとしたら逃げるようにどっか行っちゃうし、寮の食堂でも一度もみかけることはなかった。

 同年代の子と裸の付き合いなんかしたことないので、羞恥心から寮の大浴場を使わず、自室の風呂しか使わないのも反省すべきかもしれないけども。


 そんなこんなで悲しいことにいつも通り、ひとりぼっちで授業開始のチャイムが鳴るのを待ったのだった。


◇◇◇


 お昼休みを迎え、私はお弁当を持って教室を出た。


 寮の食堂では2日前までに希望を出せば、私たちのご飯を作ってくれている多少お年を召したお姉様方がお弁当を用意してくれる。

 もっぱら私はお昼ごはんはお弁当に頼り切りにしているけれど、他にも寮の食堂まで食べに帰ったり、登校時に少し遠回りしてコンビニで調達することも可能っぽい。


 ちなみに教室の自分の席では食べません。だって惨めだからです。

 仲良し青春タイムを過ごしているクラスメイトに混じってのボッチ飯とか耐えられないもの。


 だからお昼休みになるや否や、いつもお弁当を引っ掴んでいの一番に教室から逃げ出しているのである。


 けど最近は、足早に教室から出て行く理由が他にもちゃんとある。


 私は少し遠回りをして、自動販売機で最近気に入っているほうじ茶を購入した後、最近のお気に入りの場所に向かった。


 お気に入りの場所、そこはもちろん例のベンチである。


 中庭にある、子日ちゃんとの思い出の場所。

 子日ちゃんと私がいつか親友になったとき、こんなこともあったねと一番最初に思い出すことに多分なるだろう、あの例のベンチである。


 ベンチなんぞはお弁当と違って事前予約などできるはずもないので、誰も使ってないことを願いつつもたどり着いたその場所には、残念ながら今日は先約がいるようだった。


 これは……どないしよ。


 他の場所を探すのも面倒くさいし、まったく私と子日ちゃんのベンチを勝手に使ってるのは誰だよと、せめて顔だけでも見ようと思ったときにようやく気づいたけれど。

 くだんの先約さんはベンチで上半身だけ寝転がせて眠っているようだった。


 ちらーっと顔を覗き込むと。

 はたしてそこで眠っていたのは、同じクラスの今丑さんだった。


◆◆◆

 

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