第5話 転職と言えば神殿だよね

 鞄を持ってお店を出る。

 お店には現在外出中の札をかけておいた。


『おお、細かいな……』

『というか、やっぱり街はそのまんまなのな』

『ああ、これで公式じゃなかったらびっくりだよ』


「どういうこと?」


 思わず、聞いてしまったけど、ここ外だった。

 周りには誰もいなかったからいいけど、変な目で見られるところだった。


『一応NPCには聞こえないし、配信画面も見えないはずだが』

『このアリスちゃんの設定だとわからんなぁ』

『そもそもアリスちゃんがNPCな件について』


 ゲーム上だとNPCには放送には無反応らしいけど、私の場合はわからない。

 とりあえず、慎重に小声で喋ることにしよう。

 配信画面は、きっと見えないでしょう。そもそも同じようなの出してる人見たことないし。


「それで、公式じゃなかったらびっくりってどういうこと?」


 さっきの疑問を小声で聞き返してみる。


『そりゃ、街がほぼそのまんまだしな』

『あれを本気で再現するとかやばすぎる』


『もしかしたら、VWOのアリスちゃんちだけ再現したクリエイティブワールドかと思ってたけど、そうじゃなさそうだね』


「クリエイティブワールドって?」


 また聞き慣れない単語が出てきた。


『VWOには個人が自由にいじれるワールドがあってな、そこで建築とかできたりするんよ』

『そうそう、お城とか建ててる人もいたよな』

『アリスのアトリエを作ってる配信はよく見るな』

『アリスのアトリエ作成はクリエイターならまずやる、俺もやった』


 なるほど、要するに自分だけの街を作れるような感じかな?

 なんか友達がドはまりしてたなぁ。


『そうそう、それでNPCとかも配置したゲーム内ゲームみたいのも作れるんだけど、それかと思ってた』


「へぇ、そんなことできるんだ、楽しそう」


 知らぬ間に凄い時代になったもんだね。


『その反応だと、公開の予定はないかー』

『アリスちゃんが生きてるころのワールドを完全再現とか、需要ありまくりなのにな』

『待て、このままアリスちゃんが生き残れば公開される可能性も!?』

『それだっ!』


「いや、そもそも、私、そのクリエイティブワールドとかもわからないんだけど?」


 なんていう私のつぶやきはスルーされ、しかし、視聴者は俄然やる気をだしたようだった。



 そういえば、


「私は今、適当に歩いているんだけど、転職ってどこでできるの?」


 アトリエを出てからなんとなく、歩いていたけど、そもそも目的は転職できるか確かめる予定だったはず。


『転職と言えば、○ーマ神殿』

『竜の紋章やめい』

『道合ってるよ、そのまま冒険者ギルドに向かえばOK』


 なんか、ベタなボケもあったけど、冒険者ギルドという言葉に納得した。


「なるほど、冒険者ギルドね。了解了解」


 冒険者ギルドだったら、行ったこともある。

 アリスの記憶でだけど。

 なんかアリスの記憶と前世時代の記憶が混ざり合ってよくわからなくなってるね。

 今はそのうち慣れるだろうと思っておくしかないけど。

 ○ーマ神殿ならぬ冒険者ギルドは私のアトリエからさほど遠くない位置にある。

 歩いて5分ほど。

 私のアトリエが南の商業エリアにあるのに対して、冒険者ギルドは街の中心街にある感じだ。


「何度見ても大きいよね」


 冒険者ギルドを見上げる、3階建ての建物を、見上げると首が痛くなりそうだ。


『ここの受付に言えば職業入手できはず』

『ミナリアさん探そうぜ』


 ミナリアさんね、多分いるはずだけど。

 ミナリアさんは私もお世話になっている受付嬢さんだ。

 初級ポーションしか納品できない私にも優しく接してくれるお姉さんみたいな存在。

 あ、いた、こっち見た、笑顔にドキッとする。


『ミナリアさん、相変わらず美人だな』

『最近、会いに行ってないなぁ』


 手招きするミナリアさんに釣られて前に行く。


「いらっしゃい、アリスちゃん、納品かしら?」


「あ、いえ、今日は聞きたいことがあってですね、転職について聞きたいんですけど」


 私が、そう言うと、ミナリアさんは、首をかしげる。


「転職? アリスちゃん、引っ越しでもするのかしら?」


 しかし、引っ越し? なんでいきなり?


「あ、いえ、引っ越しはしないですけど、錬金術師以外の仕事がしたくなって。ここでできるって聞いたんですけど」


「うーん、えっとアリスちゃん? 確かにここでは住民の転職も受け付けてるけど、書類上の手続きでしかないわよ?」


 頬に手を当てて、あらやだ、みたいな感じ。


「書類上? ってことは実際に変わるわけじゃないってことですか?」


「そうね、紙に書いたらいきなり職が、変わるなんて変な話でしょ?」


 うん、それはそうだよね……

 紙に魔法使いだ、なんて書いても、自称魔法使いでしかないよね。

 それで、魔法が覚えらるようになるなんて、ゲームだけの話か。


『テラ正論www』

『そんなところまでリアルに作らんでも』


 あ、いや、一応ゲームの中? なんだっけ? もうわけわかんないや。


「ってことは私は錬金術師以外にはなれないってことですか?」

「そうね、一応冒険者ギルドで仕事の斡旋とかはできるけど、それで職業が変わるわけじゃないわ」


 仕事の斡旋?


『要するにクエストかな?』

『魔物を倒してこいとかアイテム集めてこいとかそういうやつ』

『中には、商店の手伝いとかもあったからそういうやつかな』


 なるほど、仕事は受けられるけど、それで職業が変わるわけじゃないってのはわかった。


「あ、でも、転職できる特別な職業はあるわよ、アリスちゃんの知り合いにもいるでしょ?」


「えっ?」


 あ、もしかして、


「ダルスのことですか?」


「ええ、そうね、あなたの同期のダルスくんは旅人だから色々とできるはずよ」


 旅人なるほど、つまりプレイヤーは国から認められた旅人って設定なのかな?


「でも、アリスちゃんは錬金術師だから、旅人みたいにはいかないわよ。旅人は国から認められた特別な人しかなれないから」


 あー、やっぱりそうだよね……

 あの自称勇者、そんな役割持ってるならもっとちゃんとしろと。

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