閑話32 夜LINE㉒【青葉昴・渚留衣】
――九月末日、午後十一時頃。
青葉
『るいるーい』
なぎ
『なに。るいるい言うな』
青葉
『相変わらず返事はえぇな』
青葉
『俺のこと好き過ぎるだろ』
なぎ
『そうだね』
青葉
『え』
なぎ
『校庭に生えてる雑草の次くらいには好きかな』
青葉
『雑草魂!!』
なぎ
『で、用は?』
なぎ
『だいたい想像つくけど』
青葉
『お、マジ?』
なぎ
『脚本関係でしょ』
青葉
『大正解♡』
青葉
『るいるいも俺のことよく分かってきたじゃないの!』
なぎ
『うざ』
青葉
『うざはやめよう???』
青葉
『そんなわけで、ほい』
※【送信】ワードファイル
青葉
『俺としてはこれがほぼ完成形だな』
なぎ
『最後まで書いたの?』
青葉
『とりあえずはな。あとは微調整を繰り返してーって感じ』
青葉
『結構勢いで書いた部分もあるから、そのあたりはお前が冷静に見て欲しい』
なぎ
『分かった。見る』
青葉
『なんかやってたら、その後でもいいぞ』
なぎ
『大丈夫。こっちのほうが優先度高い』
青葉
『おー、そうか』
なぎ
『そ。時間もらうから適当に待ってて』
青葉
『りょーかい、ゲームの動画でも見て待ってるわ』
なぎ
『そうして』
なぎ
『あ、それならおすすめの動画ある』
なぎ
『格ゲーの壊れキャラの解説動画。面白い』
青葉
『おぉ、それは期待』
なぎ
『あんたでも楽しめると思うからこの後URL送る』
青葉
『よろよろ』
なぎ
『じゃ、また』
青葉
『へいー』
× × ×
――二十分後。
青葉
『え、こんなアホみたいな調整なのに大会に出せんの?』
青葉
『なんで数発攻撃を当てるだけで簡単に逆転できんの?』
青葉
『難しいから強いはまだしも、簡単で強いはダメだと思うんだ俺』
青葉
『てかこのビジュアルで壊れキャラはダメだろ。もっと見た目はネタに振るとかだなぁ』
なぎ
『あんたさ』
青葉
『お、るいるい』
なぎ
『るいるい言うな』
なぎ
『わたし真面目に読んでたんだけど。なんであんた、ずっとメッセージ送ってくるの』
青葉
『どうせならリアルタイムで俺の反応送ってやろうかなって』
なぎ
『鬱陶しい』
青葉
『とか言って~! 動画について話したくてうずうずしてんじゃないのぉ~!?』
なぎ
『黙秘権行使』
青葉
『それ答えを言ってるようなもんじゃねぇか』
なぎ
『うるさい』
青葉
『で、その様子だと読み終わったのか?』
なぎ
『終わった』
青葉
『どうだったよ。青葉昴氏の渾身の作品』
なぎ
『正直に言うけど』
青葉
『いいぞそれで。むしろ気を遣った感想なんてお前に望んでない』
青葉
『バッサリ言ってくれや』
なぎ
『面白かった』
青葉
『おっと?』
なぎ
『素直に面白いって思った。読んでて飽きなかったし』
なぎ
『多分、朝陽君や月ノ瀬さんをどう活かすかっていうのをすごく考えたんだと思う』
なぎ
『なんか、うん』
なぎ
『あんたの能力の高さを改めて思い知らされた感じ』
青葉
『渚、明日は雨降りながら雪降りながら雷が落ちてくるから気を付けろ』
なぎ
『どんな天変地異。絶対馬鹿にしてるでしょ』
青葉
『してねぇよ。予想外の反応に戸惑いを隠せないナリ』
なぎ
『素直に言っただけなんだけど』
青葉
『素直とは一番かけ離れたヤツだろうがお前』
なぎ
『は?』
青葉
『なんでもないですすみません』
なぎ
『ただ』
青葉
『なんだ?』
なぎ
『最後の主人公とヒロインのシーン。ほら、ヒロインが自分の想いを伝えるところ』
青葉
『あーうん』
なぎ
『ここは変に凝らないでいいと思う』
青葉
『ほう?』
なぎ
『ヒロインの性格設定的に、ここはアレコレ考えるよりズバッと伝えるだろうし』
なぎ
『そのほうが流れにも合ってるし、演じる月ノ瀬さんのタイプ的にも魅力をより活かせると思う』
青葉
『なるほど』
青葉
『たしかにお前の言う通りだわ。そっちの方向で調整してみる』
なぎ
『ん。大きく気になったのはそこ。あと何個か細かいところあるけど、改めて読み直してから伝える』
青葉
『分かった。すげー助かるわ』
なぎ
『そう?』
青葉
『そうです。お前が口出してくれなかったら、全然違うものになってただろうしな。助かるぜ』
なぎ
『どういたしまして』
青葉
『伊達に普段からラノベ読んでねぇな。流石はるいるい師匠』
なぎ
『師匠言うな。るいるい言うな』
なぎ
『わたしはただ思ったことを伝えただけだから』
なぎ
『実際に考えて、書いて、一つ作品を作ったのはあんたの実力でしょ』
青葉
『ま、そうだな☆ 俺様最強☆』
なぎ
『調子乗り過ぎ』
青葉
『でも本当に、お前が補助役で良かったと今では思ってるぜ』
なぎ
『へぇ』
青葉
『そこは最初に言い出した蓮見たちに感謝だな』
なぎ
『急に言われたときはどうなるかと思ってたけど……』
なぎ
『……まぁ、うん。役に立てたのならなにより』
青葉
『とはいえ、本番はこれからだからな! 引き続きよろしくな渚助手!』
なぎ
『はいはい』
なぎ
『あ、そうだ』
青葉
『お、デートの誘い? 俺の予定はいつだってフリーだぜ?』
なぎ
『心底どうでもいい』
青葉
『心底???』
なぎ
『タイトルは決まってるの?』
青葉
『あータイトルなぁ』
青葉
『なんとなく決まってる』
なぎ
『変なタイトルにして台無しにするのはやめてよね』
青葉
『お前は俺をなんだと思ってるんだ』
なぎ
『人間……?』
青葉
『なんでハテナマーク付けた? そんな不安そうに言わなくても、俺はたしかに人間なんですけど?』
なぎ
『それとさ』
青葉
『今度はなんだよ』
なぎ
『なんでこの話にしたの』
青葉
『なんで、とは』
なぎ
『具体的には言えないんだけど、この作品からは……なんか』
なぎ
『強い意志を感じるっていうか、あんたが伝えたいものをすごく感じるっていうか』
なぎ
『ごめん、文字にできない』
青葉
『ほうほう……。んー、お前にはいろいろ手伝ってもらったしなぁ』
青葉
『お前が感じたことは間違ってねぇよ。俺が残したいもの、伝えたいもの、感じたもの、そういったものを全部ぶち込んだ』
なぎ
『そうなんだ』
なぎ
『わたしでも、いろいろ感じたから』
青葉
『おうよ。あとはこれを演じる司たち次第だな』
なぎ
『だね』
青葉
『最後まで頼むぜ、るいるい』
なぎ
『最後?』
青葉
『汐里祭が終わるまでってことだよ』
なぎ
『あ、うん』
なぎ
『一瞬変な意味かと思った』
青葉
『変な意味?』
なぎ
『こっちの話』
青葉
『そーかい。とりあえず週明けにでも、タイトル含めた完成データを学校に持ってくわ』
なぎ
『おけ』
なぎ
『ほかなにかある?』
青葉
『ないな。お前は?』
なぎ
『ない』
青葉
『じゃあ本日は解散ということで』
青葉
『るいるいが送ってくれた動画の続きでも見ながら寝るわ』
なぎ
『ぜひ観て。明日感想待ってる』
青葉
『はいよ』
なぎ
『脚本の気になったところはこのあと送る。時間かかるかもだから寝てていいよ』
青葉
『へーい』
なぎ
『じゃ、一旦おつ』
なぎ
『とりあえずおやすも』
青葉
『もー』
× × ×
「よしっ……」
スマホを机の上の置き、ノートパソコンのキーボードを打ち込んでいく。
カタカタと無機質な音が部屋に響き渡っていた。
モニターに表示しているのは、先ほどまで渚と話していた演劇の脚本で……。
指摘された部分を、自分なりに調整していっていた。
主役に祭り上げた司にやり返される形で、一方的に指名された脚本担当だけど……。
やってみれば、意外と楽しいと思える部分もあった。
もちろん素人だから専門的な部分なんて全然分からないし、この話を観た人が面白いと思ってくれる保障なんてない。
ただ、俺が書きたいように書いた一つの作品だから。
それでも……渚に面白いと言ってもらえたことで、素直に嬉しい気持ちがあった。誰だって褒められて悪い気はしない。
渚はわざわざ俺に対して気を遣った嘘を言うヤツじゃないし、普段からお世辞すら言わない。いつも思ったことをズバッと伝えてくる。
そういった意味では、補助役が渚で良かったのだろう。
――なんて、ダラダラ調整を行っていると……スマホがブブっと震えた。
チラッと画面を確認してみると、渚から数件メッセージが飛んできていた。
恐らく脚本についてだろうから、あとでまとめて見てみるとしよう。
マウスホイールを回し、一番最初のページにまで戻る。
そのページには台詞等は書いておらず、ただ『タイトル名はここ!』とだけ書かれている。
いいタイトル名を思いついたら記入しようと思って、すっかりこのまま放置していた。
渚からも聞かれたし……そろそろ正式にタイトルを付けるとするか。
この作品を考え、書き上げながら……頭に浮かんだ一つの名を俺は入力していく。
たった一人の最高の親友に送る、最低な親友が作り上げたモノ――
傷つきながらも、自分以外の者のために手を差し伸べ続けた
本当の笑顔を知らなかった少年が、さまざまな出会いを通じて真実の笑顔を取り戻していく話。
俺がお前に送る、ただ一つの
さぁ、いよいよ始めよう。
この物語の最終章を。
『
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