第5話 森の中

「あー、腹へったー。ケンタ食いてー」

 食いしん坊の郁ちゃんはお腹がすいてきたようだ。疲れたのか、スコップを放り投げて、草の上に仰向けに寝転んでいる。

「見つからなかったわね~」

 弘子ちゃんが残念そうに言った。気づくと日が落ちて辺りは暗くなっている。

4人は時が経つのを忘れて、夢中で森の土を掘り起こしていた。


「そろそろ帰ろうぜ。おい、家の方向はどっちだ?」

 森の中は街灯もなく、薄暗かった。わずかに木々の葉の隙間から月明かりが差し込んでいた。

「迷ったんじゃないかな」

 まに太くんは不安な気持ちになってきた。みんなまだ携帯を持たせてもらっていなかった。


「僕は地図を持ってきたよ」

 出来芝くんが背負っていたリュックの中から地図を取り出した。地図以外にも本がぎっしりと詰め込まれているのが見えた。

「おい、暗闇で見えねえじゃねえかよ!」

 郁ちゃんが文句を言った。そもそも地図を見ても、ここがどこだか分からないのだ。


「大丈夫!私、方向音痴だから迷うと思って、歩いてきたところの木の枝にクリップをつけてきたの。それを辿れば帰れるわ」

 弘子ちゃんは、いつもたくさんの文具を持ち歩いていた。

「それも真っ暗だから見えないだろ?」

「それがね、そのクリップは暗いところで光るのよ」

 好きな文具が役に立って弘子ちゃんは誇らしげだった。


 みんなで近くの木を見て回ったけれど、光るクリップは見つからなかった。

「それ、蓄光じゃなくて蛍光クリップだったんじゃないかな。蛍光は光らないよ」

「ええっ!」

 弘子ちゃんは驚いて出来芝くんに尋ねた。

「『ちっこう』と『けいこう』って何が違うの?」

「蓄光は光をたくわえて暗いところでも光るけど、蛍光は光を当てないと駄目なんだ。月明りが届かない木の枝につけていたら光らないよ」


 本も文具も、好きでもいっぱい持っていても、使えないと駄目なんだな。まに太くんはぼんやりと思った。大きくなったら、なにになるかまだ分からないけれど、本も文具もちゃんと使える大人になろう。


 まに太くんはリュックの中からブッコローを取り出した。

「ブッコロー、お願い!帰れなくなっちゃったよ、助けて!」

「しょうがないナー」

 やれやれ、といった調子でブッコローは空を見上げた。

「この時間に月はこっちに出ているから、TCK(大井競馬場)はあっちだな。そうすると、こっちの方向に行けば帰れるよ」

 ブッコローがしめした方向に、みんなは歩き出した。


「道だ!」

 森を抜けて、見覚えのある道路へたどり着いた。街灯が明るく道路を照らしていた。

「ありがとう!ブッコロー。これで帰れるよ!…ブッコロー?」

 ブッコローは動かなくなっていた。

「壊れちゃったの?」

 弘子ちゃんは心配そうに、まに太くんに尋ねた。

「『働いたら負け』って言っていたから、働いて壊れちゃったのかも」

 まに太くんは大事そうにブッコローをリュックにしまった。

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