36. 騎士団side 責任

 エレノアが鞭で打たれている頃、パレッツ王国の王都には騎士団の小隊が戻って来ていた。

 彼らに与えられた任務は、精霊の愛し子を攫った罪人を王城にある牢まで送り届けることだ。


 その罪人ガークレオン・クリムソンは、長身の身には小さすぎる箱に押し込められた状態で運ばれている。

 こうなってしまった理由は、この小隊が精霊の愛し子の救出を最優先として行動していたからだ。


 だから馬車なんて用意されておらず、罪人を運ぶためにと商会から借りた荷物用の馬車を利用していた。

 しかしその馬車には天蓋はついておらず、罪人が容易に逃げ出せないようにと箱に入れて運ぶことになったのだった。



 箱の中に入れられたガークレオンは恐怖で震えていた。

 偶然にも、自身がシルフィーナにしていたことと同じ状況なのだが、完全にパニックに陥っている。


(ここは何処だ? 棘が痛い……。足がしびれた……早く出してくれ。

 怖い、誰か助けてくれ……)


 ちなみに、本来は貴族の罪人はこのような運ばれ方はしない。この状況を生み出したのは、騎士団の独断であった。


(こんなことになるんだったら、大人しく諦めればよかった……)


 ガタガタと馬車の音だけが聞こえる中、落ち着こうと眠ろうとしても恐怖で寝れず。

 王城に着いて貴人牢に運ばれる時のガークレオンは、すっかり憔悴していた。




 一方で、アルバート王子の護衛の任に就いていた騎士団の部隊は、王都から馬車で半日ほどの場所を移動していた。

 呪いが解けて正気に戻った彼らだったが、責任感から自死を選ぼうとする者が出るなどの混乱に陥っていた。


「俺はなんてことを……。この罪はこの命をもって……!」

「待て、早まるな! 陛下も殿下も、そのような謝罪は望まない!

 俺達に出来るのは、しっかりと罰を受けて誠心誠意尽くすことだけだ。死んで罰から逃れることは無礼になるぞ!」


 周囲の者達が静止に入ることで、幸いにも死人が出ることは無かったものの、葬儀のような重い空気が漂うことになってしまった。


 しかし、彼らは命を絶たなくて良かったと思うことになる。



 王都に帰還し、自らの過ちを報告したこの部隊は全員、光の防御魔法を習得するという常人なら不可能に近い命令をされた。

 しかし、彼らは全員が貴族出身だった。今まで魔法の習得から逃げていただけで、光魔法を扱う素質もあった。


 だから、彼らは文字通り死ぬ気で魔法の習得に励むことになる。

 魔法の勉強が大嫌いな彼らにとって、この命令は地獄のようなものなのだ。


「もう嫌だ!」

「陛下への忠誠はその程度か!?」

「いえ、やり遂げて見せます!」


 しかし、全員が責任を感じていたから、地獄のような命令でもこなそうとしていた。




 この部隊が魔法も剣も振るえる精鋭へと成長し、パレッツ王国の安泰に貢献するのはまた別のお話。

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