29. 戻るために

「助けに来てくださって、ありがとうございます」


 あの後、落ち着いたて地面に戻った私はアルバート様にお礼を口にした。


「守り切れなくて済まなかった」

「アルバート様は悪くないですわ……」


 彼は私が攫われた時に近くに居られなかった。

 こうなってしまうことを防げたのは親衛隊だけ。


 だから、アルバート様に感謝はしても咎めることなんて出来ない。

 そう思っているのだけど……。


「だが、もっと早く異変に気付いていれば……」

「私は無事だったのですから、あまり気に病まないでください」


 彼は責任を感じているみたいだったけれど、今は笑顔を見たいから、そんな言葉をかける私。


 その間にも、騎士団の方々は私の拉致に関わった人達を拘束していた。

 ちなみにまだ氷は解けていなくて、アルバート様の護衛は全く身動き出来ていなかった。


 首謀者のガークレオン様は護衛よりも厳重に拘束されていて、簡単には抜け出せなさそうだった。


「報告いたします。関わったと思われる者を全員拘束しました。一旦、この近くにある騎士団の詰め所に運んでから、王都に移送する予定です」

「分かった」

「殿下達は先に王都に戻られますか?」


 騎士さんに声をかけられると、申し訳なさそうな表情を消して普段の表情に戻ったアルバート様。

 私もそうだけど、本当に感情を消すのが上手なのよね……。


 でも、よく見ていれば本心は分かるから、万能でもないのだけど。


「ああ。ここでシルフィーナを休ませることも出来ないからな。負担をかけてしまうが、致し方ない」

「私はずっと寝ていただけなので、大丈夫ですわ。でも、お腹が空いてしまったので何か食べてから行きたいです……」

「分かった。向こうに少し歩けばレストランがあるけど、どうしたい?」

「そこでお願いしますわ」


 アルバート様の問いかけに頷く私。


 向かった先のレストランは、ここを通りかかる貴族御用達のレストランだったみたいで、アルバート様がいても驚かれることは無かった。

 私達が案内された席は個室になっているから、護衛は個室の外で待つことになった。


「騎士団の方の食事はどうされているのですか?」

「基本的に食べ歩きが出来るものを食べているよ。その方が、いつ襲撃があってもすぐに動けるからね」

「そうなのですね」


 それからすぐに料理が運ばれてきて、久しぶり……とは言っても、体感では一日も経っていないけれど……その料理を満喫することが出来た。

 そんな時、アルバート様がこんなことを口にした。


「申し訳ないんだけど、今回は追いつくことを優先したから馬車を用意できていないんだ。馬車よりも騎馬の方が早いからね。

 だから馬に乗ってもらおうと思っているんだけど、ドレスだと不自由があると思うから着替えて欲しいんだ」


 そう言って、女性の騎士さんが着ていたものと同じデザインの服を取り出すアルバート様。

 荷物が大きいから不思議に思っていたのだけれど、私のための着替えを用意してくれていたのね……。


「分かりましたわ。でも、ここで着替えても大丈夫でしょうか?」

「店の人に許可をもらったから大丈夫だ。防具は馬に乗せたままだから、後で付けてもらうね」

「防具もあるのですね……」


 馬車に守られないで移動することになるから、当然と言えば当然なのだけど……絶対に私には似合わないわ。


「僕は外で待ってるから、着替え終わったら出てきてね」

「はい」


 私が頷くと、アルバート様はそのまま個室から出て行った。

 そのまま用意されていた服に着替えていく。


 今まで着ていたドレスは飾り気の少ないものだから、そのまま軽く畳んでから袋にしまった。

 折り目が付いてしまうかもしれないけれど、このドレスはそれほど高くはないから躊躇はしなかった。


 ちなみに、上着もズボンもサイズはぴったりだった。

 王宮でドレスを仕立ててもらう時にサイズを測ってもらっていたから、その時の記録を使ったのだと思う。


 それとも、私のために最初から用意していたのかしら?


「お待たせしました」

「早かったね。サイズは大丈夫かな?」

「ええ。この服はいつ用意したのですか?」

「シルフィーナが王宮に来てから一週間くらいしてからかな。何かあっても馬で逃げられるように、用意していたんだ。馬術も教える予定だったからね」

「そうでしたのね」


 お父様も言っていたけれど、急いで逃げる必要がある時は馬車なんて使えないのよね……。

 だから、逃げ切れるようにと私も馬術を学ばされていた。


 逃げることが一番の護身術だと、よく言われていたわ。


「もちろん今から教えるから、安心してほしい」

「馬術は学んだことがありますから、大丈夫ですわ」

「そうだったのか。それなら安心して乗せられるよ」


 そんな言葉を交わしながらレストランを後にする私達。


 この後は、私のために用意していたという馬に乗って王都を目指すことになった。

 鎧は重いけれど、祝祭の時に着るドレスよりは軽かったから、この移動を辛いとは思わなかった。

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