14. 思い出のもの

 あれから一週間。

 私は公爵邸から送られてきた荷物を整理していた。


 この荷物をまとめてくれたのは、私が生まれた時から公爵邸にいる衛兵さんで、壊れやすいものは丁寧に布に包まれていた。

 

「この写真は無事だったのね……」


 お義母様が私の部屋の物を壊しているところを、衛兵さんが見つけてくれていなかったら。

 止めてくれていなかったら、きっとこの写真も……。


 そんなことを想像すると、涙が溢れそうになってしまう。


 ちなみに、写真というのは風景や人物をそのまま紙に写したもので、そのための魔道具が存在している。

 貴族ならどの家にも存在していて、私も例にもれず持っている。


 そんな魔道具で写されたこの写真は、今から七年ほど前に作られたもので、私達家族がそろっている。その中で、私はお母様と手を繋いで映っている。


「こうして見ると、セレスト公爵の髪色は王族そっくりだな。写真だと黄色に見えることもあるが……」

「そうですわね。でも、王家の方よりも暗い色ですわ」

「明るいところだと分かりにくいけどね。ユフィアナ夫人は直接お会いしたことは無かったのだが、シルフィーナは母親に似たのだな」


 悲しみはもう乗り越えたはずなのに、こうして話していると少しだけ寂しさを感じてしまった。

 けれども、アルバート様がこうして興味を持ってくださるのは、悪い気分はしなかった。


「よく言われていました。髪も、お母様の色に近いですから」

「明るさは違うけど、同じ空色なのだな」

「ええ。ほとんどの方には銀髪とだけ言われますけどね」


 返事をしながら、写真を立てかける私。

 それからも思い出の詰まったものが出てきて、色々なことを思い出した。


 けれども、整理しないといけないものはそれだけでは無くて……。


「これは酷いわね……」

「どうやったらこんな風に壊れるんだ?」


 今日届いたのは私の部屋にあったもの全てだから、こんな風に無残にも壊されてしまった棚なんかも入っている。

 これは去年から部屋に置いているものだけど、思い入れは無いから処分ね……。


「これを向こうにお願いできますか?」

「はっ」


 手伝ってくれている親衛隊の方にお願いして、部屋から運び出してもらう。

 他にも絵画だったりテーブルだったり……。


 本当に大切なものは無傷だったけれど、私が自分で用意したものばかり壊されていた。

 治せそうなものは残して、残りは全て運び出してもらった。


「これで最後かな?」

「ええ。手伝ってくれてありがとうございました」

「役に立てて良かったよ」


 

 一気に物が増えてしまった部屋を見渡しながら、言葉を交わす私達。


 荷物整理は無事に終わったのだけど、今度は別の厄介事が舞い降りてきてしまった。


「シルフィーナ様。クリムソン家からお手紙が届きました」

「分かりましたわ」


 今は一番関わりたくない家の名前だけれど、無視は出来ないから手紙を受け取る私。

 その封筒に書かれていた文字はすごく見覚えのある筆跡だったから、破り捨てたくなってしまう。


 暖炉があるから捨てるのにはちょうどいいのだけれど、その気持ちを堪えて封を開けた。


「酷すぎますわ……」


 書かれていた内容に驚いて、つい声を漏らしてしまう。


「見てもいいかな?」

「ええ」


 そのままアルバート様に手渡すと、少しずつ表情が険しいものに変わっていった。

 そして……。


「破ってはいけませんわ!」

「す、すまない。怒りを堪えられないとは、失態だな……」


 彼が手紙を破ろうとしていることに気付いて、慌てて止めに入る私。

 証拠の品が粉々になる前に回収したけれど、私の手も震えていたから侍女にそのまま手渡す。


 あんな風に婚約破棄しておいて、今更謝罪したいですって?

 それに、復縁したい? レベッカを抱いておいて?

 そんなことを言えるなんて、信じられないわ……。


 もう、怒りでどうにかなってしまいそうだった。

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