11. 助けてもらえる人

「……私、月のものが来なくなってしまいましたの」

「えっと、それって……」


 答えに困って、言葉を濁す私。

 レベッカの立場に立って考えると、下手なことは言えないから返す言葉が見つからなかった。


 貴族たる者、基本的には結婚前に子を成すことは許されていない。

 私とアルバート様のように寿命が短いなどの理由があれば話は別なのだけれど、レベッカはガークレオン様との正式な婚約に向けて話を進めている最中。


 だから、仮に間違いを犯してしまっていたら、事が大きくなる前に対処しなくてはならない。

 けれども、その対処が出来るのはお父様だけなのだから、相談する相手は私ではないはずなのよね。


 一瞬そんな風に考えたけれど、そのお父様がこのところ王宮で働きづめで相談出来ないことに気付いてしまった。

 相談出来る相手はお義母様と私しかいなかったのね……。


 そういうことなら、お義母様よりも貴族社会に詳しい私に相談が来たことも理解できる。


 平民として過ごしてきて貴族の常識が欠けていても、相談相手を違えていないことは褒めてもいいと思った。

 本音を言えば、この問題を今すぐに投げ出したいのだけれど……。


 そうしてしまえば公爵家の汚点が増えて、私の評判にも影響してしまうから。これ以上は評判を下げたくない私は頭を抱えた。


「今までのことは申し訳ないと思っているわ。本当にごめんなさい。

 謝って許されるとは思っていないけど、今は助けてほしいの。後から何でもするから……」

「今は貴女の問題が最優先よ。思うところはあるけれど、結果的には落ち着いたのだから、貴女次第で許してもいいと思っているわ。

 それで、お相手誰なのかしら? ガークレオン様?」

「はい……」


 そう言って、俯くレベッカ。

 ショックを受けている様子を見ていたら、問い詰める気になんてならなかった。


「シルフィーナ様、少し意見を言ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、お願いするわ」

「では……。レベッカ様は初めてのことで戸惑っていると思いますが、まだ子を授かったと決まった訳ではありません。子を授かっていなくても、月のものが遅れることはあり得ます。

 悩むのは、悪阻が来てからでも良いのではないでしょうか?」


 騎士さんからの提案に許可を出すと、そんな風に説明をしてくれた。

 私にも思い当たることがあったから納得したのだけれど、判断を急いでいた私もまだまだ未熟だと思った。


 でも、既成事実が出来てしまったということは問題だから、ガークレオン様を問い詰める必要があるのよね……。

 正直、私には難しい上に、レベッカには絶対に無理だと思う。


 家格差があるから、親衛隊の方に頼むことも難しい。

 私の友人に頼むのは、家の汚点を広めることになるから、これも難しい。


「そうね。レベッカはつらいかもしれないけれど、あまり急いでも良い結果は得られないものね。少し、様子見をしましょう。

 それまでに、私はガークレオン様を問い詰めることにするわ」


 ……だから、どうにかしてガークレオン様の弱みを見つけてから問い詰めることに決めた。

 ガークレオン様は私に隠し事をしているような仕草もあったから、何かしら出てくると思うのよね……。


「今まで酷いことをしてしまって、ごめんさなさい。それなのに、助けてくれてありがとうございます……」

「言葉は受け取っておくわ。でも、まだ許していないから、勘違いはしないで欲しいわ」

「分かりました……」


 あの時、お気に入りの髪飾りが壊れてしまったのよね……。

 根には持っていないけれど、簡単に許せそうになかったから、念押しする私。


 それからしばらくはレベッカが落ち着くまで待ってから、彼女の部屋を後にした。

 ちなみに、同室していた騎士さん達やレベッカにはお父様以外に他言しないように約束したので、このことを話せるのは私だけになった。


「お待たせしました」

「シルフィーナの身に何もなくて良かったよ。その様子だと、相談というのは本当だったんだね。僕の手が必要になったら、いつでも声をかけて欲しい」

「ありがとうございます。困った時は頼りにしてますね」


 そんなことを話しながらエントランスへと向かう私達。

 うっかり階段で足を滑らせてしまって軽い騒ぎになってしまったけれど、アルバート様が支えてくれたから倒れずに済んだ。


「足元、滑るみたいだから気を付けてね」

「ありがとうございます」


 彼と手をつないで残りの階段を降りていく。

 帰りはお義母様に邪魔されることはなかったから、少しだけ気分が軽くなった気がした。

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