第1章

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「おい! 山城山葵やましろ わさび 最後 勝てなかったんだってなー 根性ないのぅー 落ち込んでるんか? 俺の勝負パンツ 貸してやれば良かったのーぅ」


 中学最後の2学期が始まって、話し掛けてきたのは、白木屋匠しらきや たくみだ。なぜか、1年の時からずーと一緒のクラスなんだけれど、その時からフルネームで呼んでくる。というのも、親同士が仕事のつながりで親しいから、小さいころから知っていて、お前の名前だけ 呼び捨てにすると可哀そうだからという理由なんだと、訳のわからないことを、以前、聞いたことがあった。


「なんでー あんたのなんか 汚らしいぃー ・・・ しゃーないやん もう ほっといてやー 相手はそのうちウィンブルドン行くんやろからぁー」


「お前やって・・そのー・・ウィンナーぐらい食べるやろ?」


「なにゆうてんねん バカ ・・・ダッサー 親父ギャグよりひどい」


「なんやねん 落ち込んでるみたいやから 元気づけようと思ったのにー ぶさいくな顔してーぇ」


「もう ええから あっち行ってー 色々と考えごと あるんやからー」私は、まだ、あの時のことを反省していたのだ。


 私の家は京料理の仕出しをやっていて、カウンターの6席だけの予約制のお店もあった、今のお父さんで3代目ということなのだ。そして、匠の家は料理屋さんで使う桶を主に作ってお店に収めている。


 そんな間柄なので小さい頃から知っている。割と、遠慮なしに話してきたのだ。彼は、身体は大きく背も高いのだけど何にも運動クラブにも入っていないのだ。そして、自分は不器用だからという理由で、家業の跡継ぎは弟のごうにと、勝手に決めていた。


 学校が始まって、しばらくして私は何か変だなって感じ始めていた。クラスの仲のいい3人でいつもお弁当を囲んでいるんだけど・・・気のせいか・・・他の2人は笑い合ったり、話し込んでいるんだけど・・・私には、あんまり話し掛けて来ない。確かに、私はあれ以来、ふさぎ込んでいて、クラブには、もう行っていないのだけど、廊下で後輩に出会っても、頭を下げてすれ違うだけで・・・早々に黙って通り過ぎるだけなのだ。普段は、明るく話し掛けてくるんだけど・・・。


 いつも、一緒にお弁当を食べている亜里沙ありさに思い切って聞いてみた。この子も男二人に加えて4人組の私の仲間なのだ。


「ねぇ 最近 ウチのこと・・ なんか よそよそしいんやけど・・」


「そんなことないよ ・・・ それは・・ ほらっ あの大会で優勝するって みんな 思ってたから・・ 山葵に気使ってるんやわー」


「そう? そんなん 気使わんでもええヤン しゃぁーないやん 向こうがうまかっただけヤン 亜里沙もそうなん?」


「えっ えぇー まぁー・・・」


 だけど、私はなんとなく避けられているような感じだと思っていた。お弁当の時以外には近寄って来ないんだものー。


「亜里沙 それだけやないんやろー 他にも あるんちゃう? 隠さんでもええヤンかぁー ちゃんと ゆうてーなー」


「そんなんちゃうねんけどなぁー ・・・」


「あんなぁ 廊下歩いていても、女の子とかが2.3人でウチの方見て、なんかヒソヒソ話してるみたいやねん なぁ 亜里沙とウチは・・内緒にすることってないヤン 何でも、打ち明けてきたヤン」


「そうだねー あんなー ・・・ あの大会のときに・・ 山葵 やられたんやって・・ウワサ」


「やられたって?」


「そやから 男達に・・ ウチはそんなん信じてへんでーぇ だけど・・ 山葵に確かめるのも怖かってん」


「えっ えぇー そんなん・・ そんなん ウチら 仲間やろー 遠慮なしやでー」


 確かに、襲われたのは事実だ。だけど、最後までは・・・。


「亜里沙 ウチは大丈夫やったんよ 助けてくれた人がおってなっ 最後までやられたわけちゃうよー 信じて」


「あっ そうやっん 良かったー そのこと聞けて ごめんな 山葵 親友だから ウチが信じてあげないといけないのにー」


 あのことがウワサになっているのだ。みんな知らないことのはずなのに・・誰が・・。知っているとすれば、あの時に襲ってきた男達と・・・それに、音羽女学院の人・・と、彼女の彼氏だけ。


 でも、ウワサって あっという間に広まるのだ。それに、ウチは弁明する機会も無いのだ。確かに、みんなからはテニスのエースとして注目されてきたけど、あんなことで、男にやられた女として見られるようになってしまったのだ。

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