羽切アリの犯罪

しおじり ゆうすけ

   同じ男への復讐のために、、

中学校の同窓会が開かれた。 20年ぶりなので、今は35歳である。

結婚した女性は子育てが忙しく、女性の姿はまばらであるが中には赤ちゃんを抱いていたり子供を連れてきたりして会場は、賑やかである。

その会場の片隅、独身の男女が話しをしている。

昔、付き合ったことがある男女で、両方とも親の引っ越しで別れたのだ。 まさか会えるとは思っても見なかった、この会を開催してくれ、案内状を送ってくれた幹事に感謝し、そして再開をとても喜んだ。


男は日本と南米の昆虫の研究をしている大学の教授である。

一年のほとんどは、ブラジルのアマゾン川沿岸のマナウスで暮らしている。

女は銀行員。 就職した直ぐバブルの崩壊を経験し、そして、今は、合併を繰り返し銀行名が変った巨大銀行の中で閑職だが仕事をしている。


二次会の誘いは断り、二人はすぐさま別のお店に二人だけで行き、今の現状を語り合った。


高校生活はどうだった?大学は?そして今の現状は?と一晩語り合い、そして男が宿泊していたホテルの部屋で愛し合った。

「今の勤めてる銀行の支店長の名前を教えてあげる、小乃村、剛。」

男は吐き捨てるような声で罵った。

「あ、、ああ、つよし、、久しぶりに聴いたなあ、あの野郎かっ」

「そう、貴方を虐めてた男よ、」

「ま、学年でも一番嫌われてたがな」

「ほかのいじめっ子と党を組んで、頭のいいあなたを虐めてたの憶えてる。あいつね、平成の銀行合併で別の銀行から私の銀行に支店長でやってきたのよ、まあ、いい意味では出世だけど、こっちからみたら、都合のいい左遷ね。でも来た時は驚いたわ。」

「で、同じ中学校出身だと気付いた?」

「気付くわけないわよ。あんな頭が悪い奴が。親のコネではいった都市銀行にいたそうよ、ただ、こんな地方都市にやってきたのはやっぱり性格が悪かったせいだったわ。あいつだけは絶対許せない、私が一年も通ってとってきた会社の融資の仕事を、簡単に取り上げて自分の手柄として銀行の上に持って行ったの、本当にひどい、周りの仲間が慰めてくれなかったら私死んでたかもしれないわ。」

「ああ、あいつらしいな。」

「他にも裏で何かやってるわ、きちんと本店の許可な自分の知ってるうさんくさそうな会社に融資したり、お年寄りの定期預金を解約させてどこか別の口座に移していることを私の同僚が見つけたのだけど、それを警察に知らせる前に同僚の弱みを見つけて同僚を別の県外の支店に異動させたわ、ほんと酷いって噂で、でも訴えるすべがなかったの、そういうところだけは凄く賢いのよ。」

「俺はな、あいつの家の近所で家族が仲良くしましょうと近づいてきて付き合っていたら、あいつの母親が俺をダシにして自分の息子がなんでも凄いと自慢するために

俺を使ったんだ、何かあればうちの子は俺より出来てるわ、自転車乗るのも掛け算もこっちのほうが早くできたのよ、となんでもかんでもな、まあよかったのは一度も同じクラスにならなかったことと、俺のほうが頭賢いと向こうの親が気付いて

付き合わなくなってくれたことさ。ほかの奴らから聞いた話じゃ、先生に取り入っておべっかばっかり言い、その影で自分より力や頭の弱い同級生を虐めてたそうだ。」

そうでしょね、やっつけたいわ、同じく。別の学校から聞いた話ではね、高校で美人の同級生に振られて、その女性のあることないこと噂してそれを悲観して転校しちゃった話があるの。」

「あいつのやりそうなことだな、、ふふ、 なにか今の時点であいつの弱みはねえか?そうか罪を擦り付けることとか出来ないか?」

「うん、これから考えましょ、あなたのほうが頭良いから。こっちも銀行自体には恨みはあるの、あいつをなんとかやっつけてここだけの話、銀行から大金をせしめて、どこかあなたと二人だけで暮らしたいわ。」

「おもしろい!一緒になるだけじゃなく、同じことを達成する事に心血を注ぐ、素晴らしい。、俺も君には悪いが、あの元の名前を変える前の銀行には研究資金の融資を断られたことがある。少なからず恨みはある。よしわかった。すぐに考えよう。いいアイデアをひらめいた。」


男が銀行の隣にある公園に、南米から持ってきた特殊な木の種を植えたのはそのすぐ後である。日本も最近の温暖化気候により、ジャングルの木の成長は早くなった。あっと言う間に大木になっていった。その成長を近くに借りたマンションから自分たちの子供が育つように見守る男と女。


男は南米のアリの研究を自宅でしていた。

その専門は葉切りアリだった。

「土がやっと手に入ったんだ。同じような土を沖縄で見つけた。アリの研究用でも大量の土はブラジルから運び入れることが出来ない、検疫所が通してくれなかったが、これで一安心だ。あとは紙幣の匂いを憶えさせる。紙幣の原料のコウゾとミツマタ、の匂いと、紙幣のインクの匂いだ、これを葉切りアリ、3代前から匂いを憶えさせていくのに5年はかかる。インクも特殊だから一般には売ってないが、

大学の分析所で解析した結果、インク原料は手に入りそうだ、

紙幣が新品だと、紙質は硬くインクの香りがきつい、そのほうが良い、古い紙幣になると手垢の匂いが付いているからな、犬以外の野生動物や昆虫は、人間の匂いは嫌いだ。」

男は元々の研究はこうであった、ひとつの葉切りアリの種の中の

葉の切るアリよりも運ぶ役目のアリを選別する、そしてそれを大量に育て街に話す、人間は、その運ぶアリのフェロモンを食品のパッケージやペットボトルに製造時に付着させておくことで、アリがゴミを見つけて広い運ばせるという自然界が人間の出したごみの掃除に使えないかと研究をしていたのだ。

しかし、企業との研究は行き詰った。ゴミになる前の商品を製造する前段階からフェロモンを付けることが難しかった。

それはあきらめ、他のことに葉切りアリで何かできないだろうか、と思案していた最中だった。同級生との出会いが、未来を変えた。自分たちの復讐のため、さっそく計画を練った。

男は、女から今現在の銀行のシステムを詳しく聞いている。

バブル崩壊後に日本中の銀行は銀行員の不正を監視するため、金融庁の命令で銀行員の仕事を監視カメラですべて記録されるようになっている、

男は、これを利用することにする。

女は総務の仕事をしていた、そこで、銀行内部の空調設備を壊しその工事発注をする。そして、業者に別の細いトンネルを作るように促した。

それは、後に有線LAN、つまり今のインターネットを使用する金融機関情報の工事が行われていて、それだと嘘をつきそっちの工事を率先させた。

そして、その工事の回線の間に一本の釣り糸、透明なテグスを貼り付けて残しておき、その縄に結んで、あとからケーブルを敷けるようにしておいた。

大金庫の中まで、監視カメラを入れる工事と偽り、一万円札が縦にして通れる高さがある細いパイプを取り付けさせた。支店長はバカだからわからない。


  4年後


 本社に帰りそうにもない支店長はまだ居続けている。普通金融機関は3,4年単位で支店長や営業マン外回りの行員は顧客との不正を防止するために異動をするのが決まりなのだが、この支店長は、それが無かった、しかし噂では来年に新しい支店長が来るようである。時間が迫って来ていた、

銀行の窓からは4年前に男が植えた南米の木が、大きく繁っているが見えている、その伸びた先はこちらの銀行ビルの外壁に数メートルの距離になっている。

そして復讐計画を開始した。

まず女は、退職届を出した。あと一か月先に退職する。

理由は何でもよかった。家族のため、とだけ書き、了承された。

長い間ご苦労さま、と同僚と部下たちが集まって、パーティをする、

そこでも支店長への悪口は同僚から聞いた。

パーティをしている間、女は男から聞いた計画を頭の中で反芻している、

「羽切りアリのフェロモンは、水分でマイクロカプセルの中に入れていてすでにパイプの中に入れている、一か月後に湿気で崩壊し、その直後に作戦決行である。

しかし、いくら深夜にこの計画を実行するとしても、他人に地面をはい回る紙幣の行列を見られることは厳禁である、その行列を観られないようにするために大きな木を利用する、ビルと伸びた枝の先端とを深夜にドローン操縦でケーブルで結び、そのケーブルを伝わすようにした。その近くの数本の街灯の電線を切り、夜、点かないようにし、人間の夜目では観られないような高さにケーブルを張る、

男はレンタカーを借り、銀行の近くに寄せるだけ寄せ、計画を実行することにするのだが、長時間の違法駐車はパトカーの見回りなどで怪しまれる可能性もある。

ヨーロッパの古い銀行襲撃映画の様に道路工事の車に見せかけるようなことは無理だ。どうするか、そこで、陽動作戦を実行する。

昼間、変装して、狙った銀行とは別の銀行系列のATMを使用し、煙が出るだけ、の時限式発火装置をテーブルの下にとりつけて帰ったのだ。

発火装置は使い捨てライターの中のガスを抜き、強酸性の液体を入れ、テーブルの裏に粘着テープで貼りつけ、それが徐々にプラスチックを溶かして床に落ちて煙が出るだけの簡素なものである。 それを自分の銀行より10キロ離れた銀行のATMで連続三度繰り返し、そして、そのATM系列の銀行の親会社に脅しの電話を入れる。

「今度は、××支店を襲う」と。

銀行は警察に報告し、警察は全力を挙げてその銀行を監視するようになるだろう。

一週間経った。 

銀行から見えている警察の派出所は深夜あまり人通りが少なくなるこの場所ではいつもいつも警官が必要ではない。ドアは開いているが夜になって机の上に小さな立て看板がみえるようになった。「御用の方はテーブルの上の電話をお取りください」、つまり警官が居なくなる。 

警官たちは陽動作戦で10キロ先の銀行の周りに集中しているであろう。

男のほうは、そこで大量の葉切りアリを土の巣ごと入れた箱を車に載せ、金耀夜から土日、五月の連休中の深夜午後11時から車の中に土ごと運んで待機させる。南米のアリが活発に動ける季節である。

あとは台風や大雨が来ない様に祈るだけ。金曜日の仕事帰りに決行。 

女は銀行勤務最後の日、支店長が出向で居ない隙に、退職の記念写真だといい大金庫の中に数人で入った。その数分の隙に先に同僚を出させ、その隙に、大金の詰まれている帯封と新紙幣を包んだビニールをカッターナイフで破っておき、

すでに溶けているだろう大金庫に通じている穴の開いている壁に、ハキリアリのフェロモンをアリの誘導路になるように撒いていく。

男の携帯電話が鳴った。女からの合図である。

男は細い路地につけた車にいったん入りアリの箱のふたを開けた。

ドローンを操縦し、木の枝とそこから伸びるケーブルにアリのフェロモンを吹き付けていく、ぞろぞろと車から出ていくアリたち。木に登って行き、ケーブルを伝ってビルに侵入を始めた。アリの進行速度はけっこう速い、

千匹が一往復するだけで一千万円が強奪できる計画である。 

男が丁寧に育てた数千匹のアリたち、自分の子の様に可愛がったアリたちが、銀行のパイプの中からフェロモンにひかれて入って行く、、一時間も経たないうちに銀行の壁の穴に開けたパイプの出口から出てくるアリが外のケーブルの上に見えてきた、紙幣だ、紙幣だ、一枚ずつ、ぴんと立てて動いていく紙幣の道が、車のサイドミラーに映る、、男は計画通りにうまく行ったことに身震いしている、

木から車の天井のサンルーフからぞろぞろ動いて車内に入っていく紙幣、アリの巣の中には、何もしていない女王アリが混ざっている、このアリがいることで巣に帰還が出来るのだ、新しい土のはいっている巨大な箱の中に運ばれて、その穴の中に紙幣を落とすところを、男と女は、用意しておいた小さなハキリアリの元々から好きだった木の葉とすり替える、これも幾度となく練習したことである。 

その木箱の木も何年も前に公園に植えておいたブラジルのジャングルに生えている葉切りアリ好物の葉が生える木である。

ジャングルの中ではこの木の葉を巣の中にもって入り、食料にするのではなく巣の土の中で菌を植えて発酵させキノコを育てるのだ。

だから、どんな木の葉でもよいと言うわけではない。蚕が桑の葉しか食べないように、コアラが、ユーカリの葉しか食べないように、と同じである。

男はアリの研究だけで人生を賭けたようなもので、研究時はなんの儲けも無かったが、今、その集大成がそこに見えてきている、

研究の集大成で復讐を行えればそれは本望である。

そして男と女の計画はうまく行き、連休中の3日間、午後9時から早朝までに羽切りアリ50回の往復をさせ、大金庫の中のすべての一万円札、5億円の強奪に成功し

警察と金融庁、銀行本店には支店長の判を使った隠し預金の通帳や

支店長命で偽造した裏帳簿、あることない事の悪事を書いた手紙を入れて郵送しておいた。当局が詳しく調べればそれは嘘だとわかるだろうが、あの支店長のほんとうの悪事を調べてくれるに違いない。

、、

三年後、沖縄の離島で、葉切りアリが外来種として見つかったことが小さな記事になった。

その離島には数人の使用人がいる綺麗な別荘があり、その男と女は優雅に余生を暮らしている。


表札は、表から見えないところに”leafcutter ant”という表札を付けている。


                       終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

羽切アリの犯罪 しおじり ゆうすけ @Nebokedou380118

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ