7. 部活動と佐伯さん
8月に入りさらに暑い日が続いている。
私、西本遥は陸上部の練習のために自転車で学校へと向かっている。
まだ9時前だけどすでに気温は30度近くに達していて、今日はまた一段と暑くなりそうだなと感じる。
私は深呼吸をして、気合を入れるために「頑張るぞ」と呟き、ペダルをさらに強く漕いだ。
私、佐伯奏はまるで砂漠のようなグラウンドを見つめながら、クーラーのかかったこの保健室にいる自分に少しだけ罪悪感を感じる。
時計の針は午前9時を過ぎたところ。
グラウンドにはぞくぞくと運動部の生徒が集まってきて、各自ミーティングや準備運動をしている。
校内では吹奏楽部の生徒たちが奏でる音色が響いていて、
自然とテンションが上がる。
なぜ私が保健室に来ているかというと、通院や体調不良で休んだことが原因の足りない出席日数を補うための補習授業を、夏休みの間定期的にここでひらいているからだ。
私は先生からもらった世界史のプリントの問題とにらめっこしながら、時折窓の外を見る。
広いグラウンドの保健室側では西本さんが所属する陸上部が練習していて、私は彼女の走る姿につい見とれてしまう。
(だめだ。課題のプリントに集中しないと。)
そうして、私は再びプリントに視線を落とす。
1時間くらいが経っただろうか。補習の課題がひと段落し休憩していると、廊下から聞いたことのある声が聞こえた。
なんだろうと思っていると、ガラガラと保健室のドアが開く。
そこには部活の練習着を着た西本さんが、同じ部活の友達であろう生徒に肩を貸していた。
「失礼します。先生、この子部活中に足がつっちゃったみたいで。」
そう言って2人が入ってくる。
西本さんは奥にいる私に気づいたみたいで、私は彼女と一瞬だけ目があった。
「あら、大丈夫?暑いし熱中症かな?とりあえずそこのいすに座ってね。」
先生は2人を入口付近の椅子に座らせて、
棚から湿布をとりだし、飲み物と氷と一緒にその子に渡す。
熱中症であろう生徒は少しぐったりしているが意識はあり、足を伸ばしながらもらったスポーツドリンクをぐびぐび飲んでいる。
「遥、ありがとね。ここまで連れてきて。」
「全然大丈夫だよ。私も少し休憩したかったし。」
「おお、練習大好きな遥がサボり~?珍しいねえ。」
「そんなことないって。さすがに今日は暑すぎでしょ。」
「それな~。」
「てか、凛。昨日絶対夜更かししたでしょ。明日は暑いんだから早く寝なさいってあんなに言ったのに。」
「いやいや~昨日たまたま面白いドラマ見つけて、イッキ見しちゃって~。」
そんな会話を、私は遠くの机で課題を取り組むふりをして聞いていた。
西本さんが私以外の生徒と話しているのが少し新鮮で、同時に複雑な気持ちになった。
2人はお互いを下の名前で呼び合っていて、とても仲がよさげだった。
私は西本さんのことをトクベツに感じていて、家によんだり楽しく話せる唯一の友達だった。
でも、彼女にとって私はたくさんいる友達の中の一部でしかなく、私なんかよりも仲がよくて付き合いが長い友達はたくさんいる。
そんな当たり前なことに私は改めて気づかされた。
これは「嫉妬」だと私は強く感じた。
私は再度視線を落とし、英語の課題に取り掛かろうとしたが全く頭に入ってこなかった。
ペンを持つ手には自然と力が入り、
気づいた時には折れたシャーペンの芯がそこらじゅうに転がっていた。
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