6. 幕間① ~佐伯さんは家に友達を呼びたい~
「お母さん、今度友達を家に連れてきてもいい?」
その一言を親に伝えるのに少しだけ勇気が必要だった。
小学生の時はたびたび入院と退院を繰り返して、なかなか学校には通えていなっかったし。
中学生の時は病院に行く回数も少し減って登校することができたけれど、クラスにはあまりなじめなかった。
私はほとんどの時間を保健室で過ごすことになった。
だから家に友達を連れてくることなんてなかった。
高校に入っても私は保健室登校を続けた。
たまに検査入院することもあったし、クラスメイトに変に気をつかわれるのが嫌だった。
そうやって心配してくれるクラスメイト達は優しいってことは分かってる。
だからこそ、それを拒んで保健室に閉じこもっている自分に自己嫌悪してしまう。
そんな時に出会った西本さんは少し違った。
定期的に保健室に来る子だったけれど、最初は話しかけることすらできなかった。
だって西本さんは放課後の部活中、私が保健室からいつも目で追っていた生徒だったから。
スタイルがよくて、とてもかわいくて、陸上部の中でも中心的な存在で。
きっとクラスでも人気者なんだなあ。私とは住む世界が違う人なんだなってずっと思ってた。
それでも保健室の先生から彼女の腹痛のことをきいて、話しかけてみようと思った。
西本さんは全然住む世界が違う人じゃなかった。
そうやってこの病気を理由にして、周りの人間を遠ざけていたのは自分自身だった。
私は彼女と友達として真剣に向き合ってみようと思ったのだ。
「奏が友達を連れてくるなんて珍しいね?どんな子なの?」
お母さんはなんだか嬉しそうだった。
「学校の友達なんだ。今度私に勉強を教えてくれるの。」
「そうなの。じゃあなんかお礼しないとね。」
「うん。あのさ、お母さんが昔よく作ってくれたアップルパイの作り方教えて。」
料理やお菓子作りは好きだったけれど、家族以外の誰かのために作ったことはなかった。
私は西本さんにおいしいっていってもらうために何度も練習した。
誰かのために何かを作ることがこんなに楽しいことなんて私は知らなかった。
西本さんのためにアップルパイを焼く練習をしている時間は私の一番楽しい時間になっていた。
今日も我が家のキッチンでは甘い香りが広がっています。
次は西本さんのために何を作ろうかな。
~続~
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