彼女が大親友にNTRれた僕は学園一のカリスマ美少女へ嫌われているけど毎日軽い気持ちで好きだよと言い続けた結果、暫く会ってなかったら有無を言わさずベロチューされた 

神達万丞(かんだちばんしょう)

第一部

第一幕「春 毎日好きと言われ続けてもただ気持ち悪いだけ」

第1話 人はそれをベロチューと呼ぶ

 長くも短かった夏休みは終わり。久しぶりの登校。

 学生たちにとって一年で最も喜怒哀楽にとんだシーズン、自由と夢の時間は終わりを告げ、ハイテンションだったマインドの振り幅がゼロに戻る。

 それを人はニ学期始業式と呼ぶ。


 毎日うちへ遊びに来ていたお隣さんの友人エーが登校中ウザ絡み、学園長の全然役に立たないくだらない昔話を右から左へ聞き流し、始業式は終わりみんな銘々に懐かしい牢屋という名の教室へと帰っていく。

 まだ親友達とネトゲーやっていた影響であくびが止まらない。


 まあ、それはいいのだが、僕、性は黒田、名は勘九郎、フルネーム黒田勘九郎(クロダカンクロウ)だけは、状況がいまいち理解が追いつかないでいた。 

 皆いなくなり静まり返った一階渡り廊下。遠くの教室群から和気あいあいとしたトークが、夏の余波として風と共に流れてくる。


 先程から真正面に少女がものすごい形相でわたくしめを凝視というか獲物狩る鷹の如く仁王立ちしていらっしゃった。

 表情の温度を計れるのなら摂氏にまで到達してそうな冷ややかな顔が恐怖にかられる。


 僕のクラスメイトで名前は加藤統星(カトウスバル)。

 中高一貫校、埼玉私立白河桜華学園一のカリスマアイドルにして七大美少女(別名賤ヶ岳七本槍)の一人。  

 サラサラの黒いロングヘアに大きな瞳、きめ細やかな白い肌、長いまつげ、女子が羨む二重まぶた、光沢のある柔らかそうな厚い唇。

 昔は色を抜いた髪やイヤリングとか流行に敏感でファッショナブルだったが、彼氏の趣味趣向に合わせて、今は抑えめとてもシンプルな格好をしていた。


 僕とは同じ図書委員以外接点がないはずなんだが、 その行く手を思いっきり遮断。

 最近は相談に乗ってもらえるが、別段すごい仲良しでもないし、友達と表現するには図々しい気もする。第一こんな脱力系陰キャ男子高校生なんか雑草程度にしか認識してないだろう。

 夏休み中は毎日バイト先の喫茶店でコーヒー飲んでいたが接触は皆無だしね。しょっちゅう僕の大親友で加藤さんの彼氏である石田大和(イシダダイワ)と楽しそうな一時を見せびらかされましたわー。


「やあ、加藤さんおはよう、お久しぶりだね」

「おはよう黒田君。お久しぶり、元気そうで良かったよ」


 挨拶のキャッチボール、久しぶりに決まる。

 何気ない挨拶。そう、いつも通りだ。一ヶ月前と何も変わらない。おかしいと言えば、常日ごろから絶やさなかった快活な笑顔が消失していることだけ。余裕が感じられないというか、鬼気迫る勢いだ。


「じゃあ 加藤さん僕は教室戻るね。また放課後に——」

「ごめんね、通さないよ黒田君」


 僕の進行方向を速やかにブロック。加藤さんに袖を掴まれる。 


「ええ……? か、加藤さん?」


 加藤さんは僕をそのまま引っ張るように抱き寄せて、「…………あむ」唇と唇を重なり合わした。それどころかベロまで強行突入。主である僕の舌と押し相撲まで演じる。そのままこねくり回されてブレンバスターに移行する勢いだ。

 何これ? 一体全体どういうこと?


 ゼロ距離で吸入する加藤さんのとても優しい甘い甘い体臭が僕の頭をおかしくする。彼女が使っている柑橘系歯磨き粉の味が僕のミント系歯磨き粉と程よくブレンド。口内が隅々まで犯されている。気持ちよくて気持ちよくて意識が深く深く遠のいていく。

 ——そして僕は見事に堕ちた…………。



 半年前、四月。進級してまた巡る新しい春、 クラス替え行われメモリーも一新された。

 好きだったあの子を過去のものとして迎えるにはあまりにも穏やかな気候だが、全てをリセットしてしまった僕としてはどうでもいいこと。


 それはいいのだが、僕は学園女子達から嫌われている。

 元彼女から手酷い裏切りにあったのだが、 僕の方が全面的に悪いと学園で総スカンを食らっている。これでもアフターケアには万全の体制で挑んでいるつもりだったのだが。

 ただ元カノの顔を見るとゲロ吐いてしまうので認識しないようにしているだけ。

 いつものように机の上には元カノの弁当がこれみよがしに置いてあるが机の中にしまう。僕が手を付けることはない。


「勘九郎、今日はバイトあるのか?」

「いや、僕は非番だよ。たまには勉強しないとね。大学も視野に入れているからさ」

「へー、大学行くつもりなんだカンタはー。てっきり料理学校かそのまま料理系に就職かと思っていたよ。ね、ホクト?」 

「そうだね。黒田君は料理の腕プロ級だから」


 昼休み。白河桜華名物、ラジオ番組風放送部の朗読を聴きながら穏やかなひとときを過ごす。

 食事をとりながらいつもの教室での何気ない会話。僕にはこれが全てだ。

 しかしながらクラスの注目度は高い。カースト上位が数人いるからだ。僕の大親友、イケメンで元プレイボーイの石田大和(イシダダイワ)にボーイッシュな陸上部のエース糟屋陽輪(カスヤヒノワ)、それに友人エーと僕の四人。特にヒノワと友人エーは戦国武将の名前にちなんで賤ヶ岳七本槍と評される美少女なので醸し出すオーラが別物だ。

 なおこのクラスには僕とは接点はないがもう一人七本槍がいる。加藤統星(カトウスバル)、学園一のカリスマアイドルで陽キャラ。学年一の学力を持った優等生で誰とでも仲良くなれる元気系美少女。住んでいる世界が違うので、そのまま関わり合いにならないで卒業まで行きそうだ。


 一見まともなリア充グループだが一番まともじゃない。彼女を寝取って僕を飛び降りるまで追い込んだダイワ、親が死んだ日に男と寝ている動画送りつけ僕を裏切った最低女、ダイワの元セフレで見てみぬふりをしたヒノワ、そして無関心、無干渉、人間関係とかどうでも良くなった僕。

 関係図にすると三角関係と蚊帳の外。

 ちなみにこの歪な痛い空間に入ってきたい奴らはいないので、顔見知りする僕としてはこのまま番犬代わりにはなってもらいたいものだ。

 今でもダイワを巡ってヒノワと友人エーは女同士の醜い心理戦に興じているかも。知らんけど。

 

「勘九郎の弁当美味そうだな。ハンバーグくれ」

「自信作だよ。趣味だからね」

「羨ましいな。カンタこれ貰うようずらの玉子」

「…………美味しそう」


 愛情より友情、恋の恨みより幼馴染みの情愛。僕達は物心つく前から一緒にいた家族。自分より大切な半身達。だから許した。

 でも、全て精算して過去のことになっているが、割り切れないことだってある。若気の至りで片付けるにはまだ早い年齢。それが思春期、僕の青春なり。

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