何故か不登校の俺に毎週プリントを届けに来る人気者のツンデレさん。ツンツンすぎるけど最高にいい人だしデレると可愛すぎるんだが

本町かまくら

第1話 金曜日の15時



 金曜日。

 

 愉快なアラームに目が覚めスマホを手に取る。


「もう十五時か……」


 別に今日は夏休みでもないただの平日。

 加えてニートだったり大学生というわけでもなく、俺は高校生だ。


 ……つまり、不登校である。


「ふはぁ、ご飯食べるか」


 朝飯兼昼飯を食べようと一階に降りる。

 ちょうどそのときインターホンが鳴った。


「もしかして、昨日頼んだ漫画の新刊が届いたのかもな」


 ウキウキしながら快く応じる。


「はーい」


『私、沢城だけど』


 宅配業者の人が名乗るなんて珍しい。

 と思っていたがどうやら違うようだ。


「は、はい?」


『ここ五十嵐小太郎いがらしこたろうの家であってる?』


「あってますけど……あなたは?」


『私はクラスメイトの沢城真奈さわしろまなよ。プリントを届けに来たの。だから開けてもらえる?」


「さ、沢城⁈」


 俺は彼女を知っていた。


 まだ学校に通っていたころ名前を小耳に挟んでいたのだ。

 それも容姿がかなり優れていて可愛いとかなんとか。


『は・や・く・あ・け・て』


「は、はいっ!」


 急いで開けるとそこには想像を超えるほどの美少女がいた。


 金色の長い髪が風に攫われふわりと揺れる。

 まるで映画のワンシーンのようだった。


「き、綺麗だ……」


「え、何? よく聞こえなかったんだけど」


「い、いやっ、なんでもないです……」


 思わず心の声が漏れてしまった。

 聞こえていなくてよかったが。


「それで、今週配られたプリントを持ってきたの」


「あ、ありがとう」


 プリントの束を沢城から受け取る。


「数学は来週試験があって、英語は単語テストがあってこのページからこのページまでが範囲ね。あと……」


「あ、あの! ……俺、学校行くつもりないからプリントだけもらえれば」


「あ?」


「な、なんでもないです……」


 俺が聞いていた可愛らしいイメージと全然違う。

 いや、確かに可愛いんだけど。


「それで、これは……」


 その後、一つ一つのプリントをかなり丁寧に解説された。

 終始ムスッとしていたがあまりにも細かく説明してくれたので不思議と嫌な気はしなかった。


「あと、何か質問はある?」


「ええっと……なんで俺にプリントを届けに来てくれたんだ?」


「べ、別に届けたくて来てるわけじゃないから! 自意識過剰もほどほどにして!」


「俺何も言ってないんだけど……」


 かーっと顔を赤くした沢城がぷいっとそっぽを向く。


「ただ家が近くて先生にお願いされたからしただけで、それ以外には何もないから! ぷいっ!」


「そ、そうなんだ。ありがとうございます……」


「ほんと、感謝してよね!」


 俺の発言がお気に召さなかっただろうか。

 ぷりぷりと怒っている。


「ってことで、もう用事はないから」


「は、はい……」


「じゃっ」


 その場を立ち去ろうとする沢城。

 しかし何か思い出したのか立ち止まって俺の方を見る。


「……五十嵐、その様子だと今起きたの?」


「そ、そうですけど」


 沢城が鬼の形相で距離を詰めてくる。


「あのね、生活習慣っていうのはすごく大事なの。そんな生活リズムじゃ病気になる。だから徐々に整えて朝日を浴びる事。そしたらその不健康そうな顔もいくらかマシになるわ。今すぐそうして」


「は、はいっ!」


 思わず背筋が伸びてそう返事してしまう。


「よろしい。じゃあ、さようなら」


「さ、さようなら……」


 今度こそ沢城が帰っていく。

 

「一体何だったんだ、あれは」


 人気者の美少女がわざわざ俺の家にプリントを届けに来た。

 沢城の言う通り仕方なく来たに違いないのに少し浮かれてる自分に気が付く。


「バカかよ俺」


 絶対に次なんてないのに。

 全く、これだから童貞は。


「……飯食お」


 ドアを閉めいつもの日常に戻った。







 一週間後。


「プリント届けに来たんだけど」


「……嘘だろ」


 ドアの前には、今日も不機嫌そうな沢城がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る