12歳の敗北

one minute life

第1話 第一志望

 病み上がりの登校だった。

 予定した受験の全ての日程を終えた京也は、発熱で3日程床に伏していたのである。


「おお、池田、久しぶり!やっと来たか」


 教室に入って来た京也にいち早く声を掛けたのは、誠と弘和だった。


「おう…」


 京也は敢えていつもと変わらぬ素ぶりを見せた。


「受かったんだって?」

 

 クラスには担任の篠田から話があったのである。


「まあな」


「さすが、池田。うちのクラスで第一志望に受かったのは池田だけだってさ」


「あ、そうなの」


「みんな、もう先週から来てるよ」


 中学受験組で最も遅くまで休んでいたのは、京也である。

 開栄と教附、應普を受験した哲史が先週から来ているということは、やはり滑り止めの市原しか受からなかったのだろう、京也はそう悟った。

 

 一時限目が終わり、廊下を歩いている哲史を京也は呼び止めた。


「おう、久しぶり。今年の開栄は、算数と国語が簡単だったんだって?」


 京也は哲史を労う気持ちで、既に発表されていた進学教室の講評結果を確認した。


「んー、算数はすごく簡単だったよ、ホント簡単でさ、でも国語があんまりできなかった」


 哲史はいつもの評論家のような口振りだった。彼は元々国語が得意というタイプでなかったから、自分の得意とする算数で落ちたのではないと、気持ちの整理がついていたのだろう。


「そっか」


 京也は、ついでに市原に行くのか聞こうかとも思ったが、興味はなかった。それより、自分だったら得意の国語もできて、受ければ開栄に合格できたのに…そんな確信に支配されていた。

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