第4話 大太刀小熊
「ひゃ、何するのよ!」
サラちゃんはアクアキャットになめられて、怒り出す。
「それは愛情表現だから」
そう言ってもサラちゃんはぷんすかと怒っている。
やっぱり動物が苦手らしい。
こんな子をバイトに雇うなんてお母さんは何を考えているのだろう。
「もういや!」
サラはわたしの後ろに回り込むと、アクアキャットが「どうしたの?」と言いたげな顔を向けてくる。
「もうサラちゃん、そんなに怖がらないでよ。アーちゃんも悲しそうだよ?」
「むむむ。そんなに人間っぽいのが逆に怖いの!」
サラちゃんは引きつった顔で応じる。
「もう、アクアキャットはわたしが世話をするから、
「蜘蛛雲?」
わたしが外に出て周りに浮かぶ白い綿を指さす。
「あれ。蜘蛛のように糸を吐いて雲を作っているのよ。あれにはアンチマテリアルコードが書きとめてあって、反重力装置を生み出しているって」
「????」
よく分からないと言った顔でこちらを見やるサラちゃん。
「ようするに綿を纏った生き物ってこと。光合成を行っているから、基本的には水をあげるだけでいいの。できる?」
「ま、まあ……それくらいなら」
怖ず怖ずと前に出るサラちゃん。
わたしが外にある水撒き用のホースを手にする。
「これで水をあげて。近寄ってくるから無理はしなくて大丈夫だよ」
「う、うん……!」
はにかみ、ホースを手にするサラちゃん。
「さてと。ロビンくん。だいまおーくんのお食事は?」
「できています。でも刺身って贅沢ですね」
そうだいまおーは生のお魚が大好き。
わたしでもお刺身は食べたことがないというのに。
「きゃっ!! 助けて!!」
サラちゃんが声を上げてこちらに駆け寄ってくる。
「ど、どうしたの!? サラちゃん」
外を指さす様子を見て、外に出てみると、ホースが暴れうなっている。その水を浴びた蜘蛛雲がひしめき合っている。
「栓を閉めないから」
わたしは慌てて栓を閉めると、サラちゃんはホッと胸を撫で下ろす。
「ご、ごめんなさい。あたし……」
「いいって。初日だもの。失敗くらいするよ」
「そう言ってもらえるとありがたいけど……」
「じゃあ、わたしはだいまおーくんに食事を上げるから」
その後ろ姿をじっと見つめていたサラちゃんが、ボソッと呟く。
「仕事のできるアリスちゃん、まじ格好いい……!」
照れるなぁ。
でも嬉しい。
わたしはだいまおーくんにお刺身を差し出すと、口でついばむ。
《うん。おいしい!》
《良かった!》
わたしは嬉しくなり、つい微笑む。
それにしてもロビンくんとサラちゃん、あまり仲良くしていないんだよね。
まるで他に好きな人がいるみたいに。
まあ、わたしの勘違いだと思うんだけど。
きっと恥ずかしくて二人とも話せないんだよね。
じゃあ、わたしが応援しなくちゃ!
「ロビンくん。サラちゃんと一緒にピクシーの食事を用意して」
「はい。アリスさん」
素直なロビンくんはサラちゃんに声をかけて、奥にある厨房に向かう。
厨房では食べ物を食べやすい大きさにカットしたり、栄養剤を仕込んだりする。
ちなみにここでは〝エサ〟と言わずに〝食事〟という。お母さんのこだわりだ。
エサと言った瞬間から、それは動物として扱うから。お母さんの目指すペットは家族なのだ。
まあ、言い方一つで何も変わらないとは思うけど。
《だいまおーくん、おいしい?》
《すごくおいしい!!》
コクコクと赤べこのように頷くだいまおーくん。
《それは良かった》
微笑ましく食事を見届けると、次の子に移る。
ペットショップの一番大変なことは、動物たちのお世話にある。そしてそれは商品でもあるということ。
別れもある。
だから、わたしたちは頑張ってお世話をして、本当に欲している人に届ける役割がある。
わたしが
「いらっしゃいませー!」
「こんにちは!」
子どもとその両親らしき人物だ。
「どんな子をお探しですか?」
わたしは笑みを浮かべて尋ねる。
「そうね。やっぱりお世話しやすい子がいいわね」
「あー。予算はこのくらいで」
パパさんが困ったように笑みを浮かべて2000エメラルドと伝えてくる。
「わぁ~。あの子かわいい!」
お子さんがだいまおーくんに駆け寄る。
「ドラゴンはちょっと」
パパとママが渋った顔を見せてくる。
食費も高いし、初心者が飼うとすぐに皮膚病や風邪を引かせてしまう、難しい子なのだ。
「格好いいなー」
そんなことなど梅雨知らない子どもは無邪気に眺めている。
「ほら。アクアキャットだ。こっちの方が良くないか?」
パパさんが誘導している。
「ペットを飼うのは初めてですか?」
「いや、前に飼っていましたよ」
ママさんがにっこりと笑みを浮かべる。
「そうなんですね。何を飼っていたか、聞いてもよろしいですか?」
「マグマウルフです。可愛かったですよ」
「マグマウルフ! 可愛いですよね。背中の噴火口からときおり灰をだすので
、掃除が大変なんですよね」
「そう! 特に繁殖期の頃がひどくて」
これならうちの子を預けても良さそうだ。
中にはあまり世話をしない人もいるから。
もし自然に捨てるような人であれば、当店としてはお引き取りを願うところだけど……。
生態系を壊すだけでなく、近隣住民にも迷惑をかける。それはあってはならないことだから。
「アクアキャットなんてどうです? 飼いやすいですし、お値段も勉強しますよ?」
「うーん。でもこの子が……」
子どもさんが不服そうな顔をしている。
「珍しいペットがいいもん。僕の相棒になるんだから」
「でもね。ペットって一緒にいて幸せにさせてくれるんだよ? どの子も個性があって、珍しさだけが全てじゃないんだ」
わたしはその子に目線を合わせて言う。
「ん」
「ペットは家族になる子。だから大切に選んであげて、ね?」
「……うん」
賢い子なのか、すぐに理解してくれたみたい。
そうでなくては困る。
やはり子どもが飼うとどうしても親御さんの負担が大きくなる。
あとはこの子が好きになった動物と巡り会えるといいのだけど。
「セイスイインコとか、
ママが周りを見て呟く。
「僕、この子がいい!」
そう言って
「いいんじゃないか?」
パパさんも乗り気だ。
「今なら3000エメラルドのところを2600エメラルドにまけますよ?」
「うーん。少し予算オーバーだが、いいぞ。飼っておいで」
「うん!!」
子どもが大喜びで頷く。
見ていて微笑ましい。
裏から見守っていたロビンくんとサラちゃんも嬉しそうにしている。
「エサとか、トイレとかはどうしたらいいのかしら?」
ママさんが現実的なことを言う。
「トイレは一度タオルに尿を染みこませると、そのタオルの上でするようになりますよ」
賢い子だ。この家庭にお任せしても問題ないだろう。
「お食事は、市販のドッグフードで構いません。でも、水でふやかしてあげると、胃に優しくなります。あとは適度に遊んであげたり、散歩をしてくだい」
その他、注意事項をまとめた書類を手渡す。
「受け渡しまでに少し時間がかかります。それまでに読んでおいてください」
「あら、ありがとう」
会計を済ませると、その親子連れは帰っていった。
二日後に受け取りとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます