第16話 絶望の淵で

 低空で砂を巻き上げながら驚異的な速さで迫り来る飛翔体ひしょうたいは、光の矢へとその姿を変える。弾頭は徐々に回転を始め更に加速すると、雲を引き、雷鳴と共に瞳の端に光った輝きは、瞬き1つの間に目標を簡単にズガンと貫いた―――

 

 膨張した空気が巨大な球体を形成し一瞬にして花開く―――

―――ドッゴアァァァァン―――

 

 闇夜が刹那にして閃光に照らされ人影を伸ばす。想像を絶する爆風が全ての五感を奪い天を貫いた。打ち上げられた多くの砂が、まるで雨のように降り注ぐ中、漸く埃が沈み込むと、空がその光景を出迎える。あらわに為りつつある姿を前に、その場の全員が固唾を飲んで勝利の女神の微笑みを待った。


「「やったか⁉ やったのか⁉ 」」


 ざわつく無線を他所にシルミドは、冷静にブレインに確認を求めた。


「ブレイン状況報告」


≪チャクダンをカクニンおよびセイタイハンノウをカンチ。センメツニイタッテおりません≫


「だろうな――― 」


 埃がうれいを伴い舞い散ると、最悪の予想が的中した。バケモノは薄い暗緑色あんりょくしょくに鈍く光放つ防護壁シールドを身体全体に形成し、その攻撃を無効化して見せた。


 ―――魔力持ち―――


「やはり生体魔力オーラシールドか」


「なっ魔力オーラだと? シルミドこりゃあ」


 風見鶏のフテマが声を震わせ驚愕する。当然だ、狂獣インセインわれるバケモノには魔力を持ったものは現在観測された記録はない。その事を冷静に鑑みると……


「まさかとは思っていたが此処まで俺の予想通りだと、飽きれて物が言えねぇよ。俺達は最初から勝手に勘違いしていた、狂獣インセインだってな。決め付けてたんだ、都合のいいように、何の確証も無ぇのにな。多分此奴こいつは討伐危険度、序列リスク3位の超獣エクシードだ」


「なっ何だって⁉ 」


「そのようだねぇ」


 初めて見る漆黒のIMから軽い口調が響いた。機体には銀河連邦より与えられた正規の賞金稼ぎハンターで有る事を示す5つの星のマークが刻まれてる。


「―――――⁉ 」


「遅れてきて言うのもアレなんだけどぉ、僕も自分の籤運くじうんの悪さにびっくりしちゃったョ。あれは間違いなく超獣エクシードだョ」


「コレは俺達がどうこう出来るレベルじゃねぇ。バックス、カレッツァ帝国軍に援軍要請だ」


「だがシルミド、幾ら俺達が要請した所で幽霊船の賞金稼ぎゴーストハンターの戯言なんざぁ聞いてくれねぇよ」


「かまわん兄上の名前を使え――― 」


「なっ⁉ 」


「このままじゃみんないずれ死ぬぞ」


「あ~とっ揉めてる所悪いんだけどぉ、援軍要請は僕がさっきしたから大丈夫だョ。それよりもほらっ‼ ヤバそうなのが来るよぉ」


 数え切れない程の触手がバケモノの身体から飛び出すとその先端を上空へと向ける。一斉にレーザーを放射すると、その光は放物線を描き地上へと拡散しレーザーの雨を降らせた。


 ―――数台のIMが貫かれ各所で爆発音がこだまする―――


 無線が多くの断末魔を脳に押し込む……


「クソッ‼ 」


「まだだよ‼ 次が来る――― 気ぃ抜いちゃダメだ」


 巨大な口が高熱で渦を巻く。強烈な魔力オーラが増幅すると、ビリビリを肌をねぶり出す。周りの空気を竜巻の如く吸い込むと、次にバケモノは身体を一瞬らせた。


≪キャプテン――― 魔法センスデス‼ カイヒを――― ≫

 

「「射線から緊急退避、急げえぇぇぇぇ――― 」」


 ―――誰かが叫んだ刹那。

地獄行きの列車が到着する―――

 

 キュインと地表を簡単に割って見せると、一瞬で熱線が目の前を横切る。全てをブクブクと泡立つ溶解熱で飲み込むと、逃げ遅れた者は形も無く溶かされ、遅れて来た衝撃波が全てを薙ぎ払い鼓膜を破る。空にれた残光は遥か彼方で雲を裂き、初動でブレた光源が城下にまで届くと、街の高台に鎮座する古城の上部をかすめ吹き飛ばした―――


 ―――割られた地表からレールが現れ

地獄への片道切符は今切られた―――


 圧倒的なその脅威を知らしめた熱線は、合同部隊の半分を一瞬で灰燼かいじんすと、大勢の死神が夜空で微笑み、理解する間も与えず仲間を連れ去った。

 

「なっ――― 」


「「被害…… 況…… 認‼ 応答し…… ろ――― 」」


 放たれた光線により無線が磁場で狂い途切れる。オープンチャンネルが叫び声の残響で耳を劈くと、ヘルメット内部のバイタルゲージ生命反応がレッドを示し数名の行動不能死亡を告げた。


≪キャプテン――― ≫


「嘘だろ―― ライアン‼ジェフ‼ガラン‼ おい応答しろ‼ 応答しろ――― ふざけんな‼ 応答しろおぉぉぉぉ――――― 」

 

 ―――嗚呼あああぁぁぁぁぁ―――

 

「クソックソッちくしょー、あぁジェフ!ガキはどうすんだ? おい! ガラン!誰が俺を叱ってくれるんだよ、頼むよ。ライアン!心配要らねぇって笑ってたじゃねぇかよ…… 何でだ何でだ…‥‥ 俺を置いて行くな…… 俺を置いて行かないでくれ」


 ―――俺のせいだ、全部俺の判断ミスだ……


 ソレはずるずると穴倉から這い出すと地面が直下で縦揺れを引き起こす。余りの激震に僅かに生き残った其々それぞれが腰を砂に打ち付けると、漸く全体像を表した。最早人如きではどうする事も出来ない絶対強者。


 討伐危険度序列リスク3位


 ―――超獣エクシード

砂游長蟲ピュークアンドラ―――


 見上げる程にとぐろを巻いた不気味な長蟲は、目撃情報よりも遥かに巨大であり、シルミドは初めて闘わずして敗北を知った。


「ぶっ殺してやるぞ。今からテメェをぶっ殺してやる」


「シ…… ルミ……ド…… 」


「―――――⁉ 」

 

 途切れた無線から声が漏れた。慌てて罅割ひびわれたヘルメットのシールドを叩くと乱れた映像がゲージを示す。






 そこには残り僅かなジュレーヌのバイタルゲージが表示された―――

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