第12話 監獄

 ―――此奴の体液が弾丸を溶かしている?……


「クソッそう言う事ねッこのバケモンがぁ」


 船との距離を確保する為、ホバーサイクルを躍らせながら狂気に満ちた弾丸を撃ちこむ。ようやく大きく回り込み、速度を緩めた時だった。見えない触手が砂の中から突如姿を現しホバーサイクルのエンジンを貫通した。


「ぬっ⁉ 」


 危険を察知し飛び降りるとほぼ同時に、爆音を撒き散らしサイクルは木端微塵に吹き飛ばされ爆風によりミューは砂丘に転がった―――


「クッ‼ きゃはははははッ――― 攻撃がしょっぺぇ~んだよ、包茎みてぇなづらしやがって雑魚がッ」


≪マスター‼ ≫


「大丈夫よ。こんな攻撃何ともないッ」

 

 身体をくぐらせトリガーに仕事を託す。弾丸の数だけ白い煙がバケモノの傷口に立ちめ、終着点の想像出来ない攻防に悪夢が影を踏む。強がりの表情にも焦りがはしり、小さな体で銃の反動を必死で抑えすがり付く。この振り払われそうな振動だけが唯一の生命線だと言う事はミューにも良く分っていた。


「女覚えてから掛かってきなさいよ‼ 皮被りッ それとも今ここで女を教えてやってもいいわよ? キャハハッ」奮い立たせた強がりは、心に余裕を作り恐怖を掻き消してくれる。

 

 ―――お互い一歩も引けない状況で、

次の手立てが見つからない―――


 そして恐れていた状況は静かにやって来た。ガララと弾切れの合図と共に銃の火炎が止まる。無情にも願い叶わず天はミューを見放しバケモノを選んだ。差し迫る無数の触手が高速で襲い掛かる。

 

「ギャシャアァァァァ――― 」


「チッ――― 」

 

 ―――次の瞬間。


 無数の触手は認識出来ない何かに阻害されガガンと弾かれた。


 「シャアァァァァ⁉ 」


 ―――生体魔力オーラシールド―――


 膨大な魔力オーラを持つ者だけが条件反射で錬成可能な防御壁シールドである。しかしその強度は生命力と比例するとされ、生命力は身体の大きさと同義とされる。従って身体の大きな者はより強固な防御壁となり、小さき者はそれなりとなる。其れ故、身体の小さなミューにとってのこのシールドは、只のの場しのぎの防御でしかなかった。


―――このままじゃらちが明かないわねッ……

(あと2~3回攻撃を食らえばシールドもこれ以上もたない)


「仕方ないッ…… 」


 役目を終え、只の鉄屑と成り果てた銃を投げ捨てると、腰に差した蝙蝠こうもりの彫り物がされた禍々まがまがしいステッキを砂に突き刺し、彫り物を外すとたなうらに乗せ天にかかげた。ボソリと言魂に魔力を添えると、程無く夜空にとなえ唄を捧げた。


 קגומה カーゴーメ――― 

―――קגומהカーゴめー 我、讃えつかまつる。 


 となえ唄に導かれ天空が歪む。バケモノの頭上斜め上にぽっかりと空洞が現れると、空を埋め尽くす程の闇落ちした影のみの蝙蝠の群れが永遠と飛び出し、円を描く様にバケモノの頭上を旋回する―――


 החלק הפנימיカーゴノナーカノ של הסל הואトーリーは―――

―――מתי ומתיイーツイーツデーヤーる

 

 暫くすると不気味に空を埋めた蝙蝠の大群は、唄に呼応するようにまるで巨大な牢の形状へとその姿を変え、ゆっくりとバケモノを包み込み監獄へと収監する。

 

 לאסקה אין איסורよーアーけーノばーンに―――

―――הגפן הייתה חלקלקתツーるトかーメがス~べっタ


 何か良からぬ身の危険を察知したバケモノは、唄を阻止しようと手数を増やし猛攻撃を開始する。しかし既に閉じ込められた空間からは全ての攻撃が無効化され、伸ばした数え切れない触手全てが一瞬にして-273.15 ℃の絶対零度ツルで凍り付き砕け散ると、続けて地獄の業火カメが醜い身体を包み込む。監獄はツルカメが統べる世界。


「ギュアァァァァ」


 絶叫と共に体液を撒き散らし暴れまわる。影の存在である蝙蝠達には、銃弾をも溶かす体液すら効き目がない。ミューの双眸そうぼうから放たれる灼熱に似た虹彩こうさいは燃え滾ると一気に魔力オーラを引き上げ、最後の審判の時へといざなった。監獄が一斉に解き放たれ、一瞬にしてバケモノの背後に蝙蝠達が大鎌を携えた巨大な死神の影を形成する―――


 ―――מיהו הגב?ウシロノショウメンだ~アレ―――


 空を覆う程の巨大な死神は、それを切っ掛けとし、影に潜む大鎌を振り下ろす。断罪の時を刻むと、怪物の首を狩りに掛かった。

 

 ―――処断せよ―――


 不帰ノ魔呪術かえらずのまじゅじゅつ――― 

―――灼零牢獄爆しゃくれいろうごくばく 

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