第10話 アイアンメイデン

「3機ともデザート乾燥地帯仕様に変更済だわい、安心せい」

 

 真っ白な口髭を蓄えた背の低い老人が油塗れの皮手袋を外し、分厚いレンズのゴーグルを額へと押し上げた。


「すまねぇなロク爺。助かるぜ」


「いいか、今のコイツは採掘ラッシュ時代の作業用トル―パではないからのぉ気を付けて扱うんじゃぞ? 」


 トルーパーとは搭乗型の人型重機の事を指し、採掘場等で主に使われていた工業重機の事である。その後の惑星間の侵略戦争時代下に大幅な進歩を遂げた機体がこのIron Maidenアイアンメイデンと呼ばれ、戦闘用トルーパー人型重装機兵へと変貌を遂げた。最初の頭文字をとり通称IMアイエムと呼ばれる。


型式A・IM-TY0012

陸戦改desertデザートタイプシュバリエ

全高4015mm

基本乾燥重量7915kg

装甲厚7~32mm

4408-Ⅱ反重力熱魔力フレアオーラ小型変換ホバー推進エンジン。

巡航走行速度42.0㌔ブースターバーニア使用時の瞬間速度120㌔

魔力オーラ変換KR-CC液熱総量198リガッメトル

標準魔力オーラユニット交換時間120h

主武装ショルダーブリッドランチャー、ハンド50mmバルガン砲、レーザーロングブレード、電磁シールド他。


スティルトタイプ=小型軽量で潜入に特化した機体。ジャミング機能と光学迷彩等を備え、ラビットと呼ばれる逆間接の脚を持つ。重装備では無く機動力を重視している。


シュヴァリエタイプ=陸戦型で多くの武器を扱える機体。ブレードとガンを標準で装備し、ユニットを追加装備する事であらゆる火器に対応出来る。


アーマードタイプ=装甲が厚く防御に特化した機体。盾とブレードアックスと中距離ロケットランチャーを標準で装備する。


スナイプタイプ=狙撃に特化した機体。装甲は薄いがロングレンジからの高出力レーザーレールガンは中型の宇宙機ならば1発で撃墜出来る能力を誇る。 


「こちらシルミド。各班無線状況を確認――― 」


「1班ギャラッシュ。クリアっす――― 」


「2班バックス。問題ねぇ――― 」


「えっとぉアチキは3班か…… ジュレーヌ行けるよ」


「各班長はIMアイエムでホバーバギーを援護し対象を牽制。あの化け物はパワーともにIMなんて非じゃねぇからな、闘おうなんて思うなよ。時間を掛けて弱らせる事に集中しろ‼ 」



「「「Hoo'up了解――― 」」」



「オイてめぇギャラッシュ‼ 酒に溺れて遅れて来たくせに、歩兵じゃなくてIMに乗れるなんざテメェのセンスに感謝すんだな」


「かかかっ勘弁してくだせぇバックスの旦那。あそこの店のエールがキンキンに冷えてましてね、クソみてぇに旨いんすよぉ」


「キンキンのエールがクソみてぇにだと⁉ 魔力オーラで冷やしてるって事か? そんなの飲んだ事ねぇぞ? クソだって飲んだ事ねぇぞ‼ 」


「最近は魔力オーラを他のエネルギーに変換出来るシステムが普及し始めましたからねぇ、昔と随分変わったっす。このIMだって確かそうっすよ。それとそこの店員の女の子が色っぺぇのなんのって、俺の鱗をツルツルテカテカしててアンドロイドみたいでクールでカッコイイなんてぬかしやがるもんで、つい通っちまって」


 ジュレーヌはくだらない男達の話に耳を傾け乍ら、砂煙を上げ追従してくる眼下のホバーバギーを見詰め、少しおもんばかっていた。するとシルミドからの個別無線が、まるでジュレーヌの心配事を見透かした様に届く―――


「悪いなジュレーヌ。今大丈夫か? 」


「何だいシルミド」


「お前の班は後方支援だ。だからギムリーを入れた、悪く思わねぇでくれ」


「分かってるよ、バカみたいに飛び出させなきゃいいんだろ? 」


「あぁ理解が早くて助かるぜ」


「今襲われてる船はどうするんだい? 」


 ジュレーヌは腕を捲ると、各インジケーターに不具合が無いか確認作業を進め、大きく開けた胸のジッパーを勢いよく上げた。


「俺達が到着した時点でやっこさん達が持ちこたえているようならば援護に入る。だが生存が絶望的と判断した時は…… 」


「分かった――― アンタに従う」


「シルミドから各班長へ間も無くポイント手前上空に差し掛かる。降下準備をしろ」



「「「Hoo'up了解――― 」」」



「本体ブレインAIへ、こちらシルミド」


≪ハイ。コチラブレインどうぞキャプテン――― ≫


「間も無くポイント上空だ、エアルプターの高度を落としてIMとの連結を解除。その後帰還させろ」


≪カシコマリマシタ≫


「それと各メンバーに全員のバイタルライフゲージをシールドに表示し共有」


≪スデニセッテイズミです。セントウジにてキリカワリマス≫


「了解――― 」


 シルミドは更に加速を貪るように、ガツンとバギーのアクセルを踏み込むと砂丘の波を飛び越えて行く。霞んだ空に激しい閃光が垣間見え、差し迫る現状に身震いを起こすと、感づかれぬよう夜空に大声をちりばめた―――


「見えて来たぞ、お前ら作戦開始だ、気合を入れろ‼ 」

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