第4話 夜の女王
「目標、成層圏下部の対流圏界面付近まで上昇し巡行。イオン濃度をホログラムパネルで表示。外気温-2°より凍結防止フィールドを展開」
≪了――― ≫
≪機体上昇角により
「頼む――― 」
≪告――― 危険な
「振幅を自動計測し上昇角を再演算。抜け道を探せ、空中分解だけは勘弁だ」
≪了――― ≫
「剛性が弱い割に容量の大きな物を詰め込み過ぎたな、バランスを取るのも冷や汗ものだ。あのジジイめ」
≪現在時速467㌔で上昇中。上昇角修正。高電磁波規定量確認。エネルギーガンマ熱量に転換――― オーグメンターにより再度加速します≫
「了解――― 」
≪重力加速度が約14.3秒間8Gを越えると予測され、ブラックアウトを引き起こす可能性があります。
「あぁ任せたよ。優しく頼む」
≪オーグメンター再度加速を承認。エネルギー噴射を開始します≫
≪アフターバーナー起動5秒前4・3・2…… ≫
―――
ビリビリと操舵室が激しく縦揺れを起こす。
「みぎゃぁぁぁ~ 」
「ぐおぉぉぉ―― 」
≪残り21.8秒で予定巡行高度11800mに到達致します≫
容赦の無い加速度は加減を知らず、操舵室の縦揺れは更に激しさを増す。船体が軋み悲鳴を上げると、頭上の計器類が小さなショートを起こし、それを切っ掛けに火花が散ると、照明がチカチカと切れ掛かる。
―――堪らず叫ぶ様に指示を飛ばす―――
「よっ予定高度到達までにっ減速をかかっ開始。オーバードライヴを併用しエンジン出力を20%低下。じゅっ巡航速度1200㌔を維持ぃ―― 」
≪了――― ≫
≪巡行高度到達。外気温は-56°巡行速度は1200㌔を維持、及びこのまま水平飛行に移行します≫
「はぁはぁ…… ふうぅ…… あっ有難う。ご苦労様」
機内が
「すまんマザー。やっぱり…… ダメだったようだな。すっかり夜喰いに…… 追い付かれちまった。どうやら此処までのよう…… だか…… ら…… 後は…… 頼む」
そう言い残すと少女はマザーに全てを託し床に倒れ込んだ。
≪マスター⁉ ≫
するとどうだろうか…… 暫くするとまるで何事も無かったかの様に少女はまた目の前でムクリと起き上がってみせた―――
≪マスター大丈夫ですか? ≫
―――うっんん―――
「アイタタタッ…… やっと出れた――― 」
≪マスター⁉ あのっ⁉ マスター⁉ ≫
「ああんもうッ、マスターマスターってッ るっさいわねぇ‼ あたしはミューよッ⁉ 変な名前で呼ばないでよッ。うわッ⁉ ダッサ何このセンスの欠片も無い格好…… しかも臭いし最悪なんだけど。げッ⁉ ど~でもいいけどさぁドクロ好きなのって普通チビッ子よね? 」
【メタモルフォーゼ】
変身や変化という意味指す。生物学では、昆虫等が成虫になる過程で姿や形等の形態を変える事を
人格だけでは無く身体能力や趣味嗜好に至るまで違いが顕著に表れ、この自称『ミュー』に限って言うならば、夜間視力の向上と膨大な
「ねぇ聞いてんのアンタ――― 」
≪あっハイ…… ≫
「しかしアンタもバルザもやってくれたわねッ」
≪何の事でしょう――― ≫
「とぼけるんじゃないわよッ! こんなオンボロの船にいいように金掛けさせた癖にさぁ。しかも聞きなさいよッ。汚ったないオヤジにアタシの身体をペロペロさせやがったのよッあの馬鹿は、信じられるぅ?」
≪はぁ…… ≫
「マジぶっころよッ、ねぇそう思わない? ぶっころしかないわよね? どうやればアイツを
≪そっそれは――― ≫
「先ずはこの臭い服を捨てなきゃねッ」
ゴーグルを投げつけ、革製のパンツとブーツをダスターシュートに投げ入れる。男物のパンツを履いている自分に気が付くと半狂乱で破り捨てた。
「何でこんなもん履いてんだよッ‼ ふざけやがって‼ 玉が蒸れんだっつぅのッ」
全てを脱ぎ捨てあっと言う間に全裸になると、操舵室の
「あぁ~ん⁉ 何だてめぇ~ あに見てんだよ殺すぞ」
≪まっマスターその生物は…… ≫
「
すると天井付近から光を放つホログラムがゆっくりと回転し、何かが形を具現化させながら降りて来た。そしてその物体が掌に収まる頃には、重厚な銃へとその姿を変えていた。
「知ってるよッ、アタシだって馬鹿じゃないからねッ、ナニ人の股間ばっか見てるのよ。スケベな駄犬ね」
銃口がモフモフへと差し向けられると、堪らずコテンと震えながら腹を見せる―――
≪それは犬ではありません≫
「これッ、エイリアンって言う犬種でしょ? 」
≪それを言うならポメラリアンですね≫
「同じぢゃん‼ 何が違うのよッ、
≪いや犬では…… ≫
「まぁそんなことはどうでもいいわ」
キャプテンシートに腰を沈め、先程と同様に
「あのさぁ、もしアンタがさぁ、バザーだっけ?名前」
≪マザーです…… ≫
「ばざー 」
≪motherです≫
「母親⁉ 」
≪産んでません≫
「アタシどっから出て来たのッ? 」
≪産んでませんってば≫
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