第5話 真の姿
龍王様の謁見があるとの噂話から、あっという間に一週間が経った。
噂話は
それを聞き。
私たちが住むお屋敷は、日増しに騒がしくなって行く。
龍王様の目に少しでも止まって欲しいと、みんな着飾る事に必死なのだ。
と言っても私たち平民は、龍宮殿に入る時に用意してくれた衣装以外持ってないので、これと言ってする事は何もない。
あるとしたら、化粧や髪結で綺麗に見せることくらいだろうか?
「
私の横であーでもないこーでもないと、目立つ化粧を模索している
「う〜ん……。化粧をした所で、選ばれる訳がないと思ってるからかな?」
「そんなことないよ! 選ばれるかもしれないじゃん! 私が龍王様なら間違いなく翠蘭を選ぶもん」
「それはありがと。でも私は良いよ」
「浅黒い焼けた肌だって、この白粉を塗ったら綺麗に見えるよ? 塗ってあげようか?」
明々が白粉を片手に近寄ってきた。
「わっ? 大丈夫だよ。私は良いから明々のお化粧をしよ? 私こう見えてもお化粧上手いんだよ?」
「ええ? 翠蘭が化粧上手いって? 普段全く化粧してないのに? そんなの信じられないよ」
「本当だって! ほらっ、してあげるから」
私は明々から白粉を奪い取り化粧をしようとするも。
「良いよ〜っだ。またねぇ」
全く信用がないのか、逃げられてしまった。
「本当に
部屋のソファーに座り、ふと過去を思い出す。
この記憶を過去と言って良いものか?
詳しくは分からないが、私には生まれる前の記憶がある。
前世の記憶と言うやつらしい。
名前も覚えてないし、顔すら思い出せない。
でも明確に覚えているのは科学と言う機械が発達していて、平民差別のない平和な国だったと言う事。
そこで私は歴女というオタクだった。
オタクの正確な意味も正直怪しいが、歴史をこよなく愛する変わった女だった様に思う。
仕事は他人の顔に化粧をするお仕事をしていた。だからこそ、もっと良い化粧の仕方があるのにと思ってしまうのだ。
だってだって!
この世界の化粧は、前世の時代の一昔前の遅れた化粧だから。
これでもかと白粉を塗りたくり、真っ赤な紅を引く。凹凸もないのっぺらとした化粧。どうしても前世の記憶が引きずって、この化粧をする気が起きない。
そんな化粧をするのなら、すっぴんの方が何倍もいい。
「さてと湯浴みをするか」
着ていた衣類を脱ぎ捨て、部屋の奥に隠してある浴槽に、特製の薬湯をためていく。
「もう良いかな?」
薬湯がたまった湯船にドボンと入る。
「ふわぁぁぁ気持ち良い」
この薬湯で体や髪を洗い流す。
「ふぁ〜さっぱりした」
ずっと厚塗りの化粧をしていたから、毛穴が息をしているようだ。
「本当はこんな化粧したくないんだけどな」
月明かりに照らされ、陶器のように白い肌が露わになる。
同時に燃える炎のような真紅の赤髪も。
本当の私は浅黒い肌でもないし、赤褐色の髪色でもない。
お父さんの髪色は金色、お母さんの髪色は茶色、なのに私の髪色は燃える赤。
この髪色と肌の色はどうやら、素晴らしい導術使いだったご先祖様の髪色と同じなのだとか。だから私が生まれた時、『この子は凄い導術使いになる』と思っていたとおばあちゃんが前に話してくれた。
だけど『その姿は田舎のこの村じゃ目立つから』と、父や母それにおばあちゃんにまで言われ、ずっと姿を偽り目立たなく生きてきた。
結局、龍宮殿に入ることになってしまったけれど。
さっきの薬湯を作るのだって、
龍王国ではその特殊な技術を、龍術というらしいけど。
私ができる導術も、村に住む者ならみんなできる事。
風を操る事が出来たり、火を付けたりと村での生活に役に立てていた。
私の場合は水を操る導術に優れていて、私は無限に水を作り出せるのだ。だからこんな贅沢な使い方をしている。
優れた水の導術使いで、おけ一杯にする程度の水しか出せない。
なので……これも秘密にしなさいと、おばあちゃんから注意された。
今思えば、私の住んでいた村は特殊だったのかも知れない。
なぜなら龍宮殿に来て、導術を使える人にあった事がないからだ。
私は村を出た事がなかったから、それが凄いなんて思ってもなかった。
だから仲良しの明々でさえ導術のことは知らない。
いづれこのことを説明する日が来るのかも知れないけれど。
「……わぁ」
窓からさす神々しい月明かりが私を照らす。
「今日は……月が明るい」
……ふと『また月明かりが眩しい日に会おうぞ』そう言われた名前も知らない龍人の事を思い出し、頬が熱くなる。
薬草も補充したいし……別に……会いたいわけじゃないんだよ。
うん。そう。薬草が欲しいし……樹の木さんにも会いたいし……それに、約束してるわけじゃないし……。
独り言をブツブツいいながら自分で自分を納得させる。
「よし。樹の木さんに会いに行こう」
せっかくおとした化粧をもう一回するのが嫌だったけれど、こればっかりは仕方ない。この姿を見せる訳にはいけないのだから。
私は再び、薬草を煎じて髪と体の色を変えるのだった。
そして早る気持ちを抑え、あの場所に走って行った。
『ほう……また会えたの』
「あ……っ」
樹の木の下で……私を見つけた龍人は、この前と同じように私に向かって美しく笑った。
★★★★★
読んで頂きありがとうございます。
この作品は私にとっては初めての作風にチャレンジしており、読者様がちゃんと楽しんで頂けてるのかと、不安で更新するたびに毎回ドキドキしております。
お話を読んで少しでも面白い続きが読みたいと思って頂けたなら、★評価やコメントなどで教えて頂けると、今後の指針となり凄く凄く執筆の励みになります。よろしくお願い致します。
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