第3話 貴方は誰?
大きな珍しい巨木。周囲にはたくさんの草花が幻想的に彩り。
その根元に、月明かりに照らされ気持ちよさそうに眠る男性の姿が。
あの漆黒に煌めく髪色は……龍人族!
どうしよう。勢いよく走っていたせいで、急に止まることもできず気がつけば龍人族の男性のすぐ側まで近寄っていた。
「綺麗な黒……」
月明かりに照らされた髪色があまりにも綺麗で、気持ちが声に出る。
「ほう? お褒めいただき光栄だな」
「わっ!?」
男性の閉じていた目がパチリと開いた。
琥珀色した瞳は宝石のように輝き、私を凝視する。
驚きすぎて足下がふらつき、龍人の膝の上に乗っかるように転げてしまう。
「んん? これはまた積極的な
「ちちっ! 違っ! すすっすみません!」
私は飛び退くように男性から離れる。そんな姿を龍人族の男性は声をあげて楽しそうに笑う。むう……馬鹿にして。
すみませんね。男性に慣れてなくて。
「こんな場所で女子に会うとはの? 何しに来たのだ?」
龍人族の男性が不思議そうに首を傾げて私を見る。
冷静にその姿をよく見ると、ものすごく美しい美丈夫。龍宮殿に来て会った龍人族の人はみんな綺麗だったけれど、この人は格別。こんなにも綺麗な男性を見たのは生まれて初めてかもしれない。そう思うと余計に緊張し顔が強張ってしまう。
「我は質問しておる。その答えは?」
言葉に詰まり、何も話さない私に痺れを切らした男性が答えよと煽る。
ややっやばい。怒らせて、失礼があっちゃいけない。
だって目の前にいるこの人は、私達人族の何倍も偉い龍人族なのだから。
「あっ……そそのっ。この場所には特別な薬草がたくさん生い茂っていて、その薬草を集めに来ました」
「この雑草を?」
横に生えていた薬草を千切り、じっと見つめる。
貴重な薬草を雑草と言われ、私の薬草好きスイッチが入り。
「雑草じゃないんですよ! 龍人族の人たちは薬草を必要としないから貴重な薬草までも雑草と言いますが。これは私達人族の世界では、金子をたくさん積んでも惜しくない、喉から手が出るほどに欲しい貴重な薬草なんですよ!」
気がつくと、大好きな薬草について熱く語っていた。
「ほう……なるほどのう。雑草が貴重か。我ら龍人は、怪我や状態異常となってもすぐに回復するからのう。そんなふうに考えた事がなかった。その知識は命短し人族ならではじゃのう」
そう言って龍人族の男性は微笑んだ。
「まっ眩しい……」
「んん? 何と言った?」
「あっ何でもないです!」
危ない危ない。心の声がまたダダ漏れちゃっていた。気をつけないと。
「ではこれも貴重な薬草なのか?」
龍人族の男性が、先ほど千切った薬草を私に見せる。
「もちろん! これは麻痺を治す薬草です。その横に生えている薬草は、傷跡が綺麗になり肌も綺麗に蘇るという女性から人気の薬草ですし……こちらの葉先がトゲトゲのは毒を治してくれます……あっ」
「んん? どうしたのじゃ? なぜ話をやめる?」
つい調子に乗って
「えっ? だってこんな話、面白くないでしょう?」
「そうか? 我は面白いぞ? そのように我に話す女子なぞ、過去におらんかったからのう」
「そっそうですか……」
話が面白いと言われ、嬉しくて赤面してしまう。
こんな偏執的で
そもそもこの人は、こんな時間にこの場所で眠るとか……一体何をしていたのだろう?
「そのう……あなたはなぜここで寝ていたのですか?」
「我か? この
そう話しながら優しく大木を撫でる。
え。今この大木と話をすると言った?
龍人族は木の気持ちまで分かるの?
「貴方は木とお話ができるのですか!? なんて羨ましい! 私もこの草木とお話ができればと、何度想像したことか!」
「ふははっ。我のこの能力が羨ましいとな? では特別に教えてやろう。この樹はの? わがままでのう。自分が好きな者しかこの場所に招かんのだ。お主の事は好きだと樹が言っておる。この場所に生える雑草もお主だから特別に分けてやったとも言うておる」
「ふぇ!?」
この特別な場所は運良く見つけたんじゃなかったの? 樹さんが招いてくれたからここに入る事ができたの!? 貴重な薬草を入手できたのも樹さんのおかげだったなんて。
「樹さん。ありがとうございます」
私はそう言って大木の樹を抱きしめた。
「ほう……。珍しいのう。樹が喜んでおる。そなたに特別な葉をくれてやると言うておるぞ」
「え?」
樹の木から一枚の黄金に煌めく葉が私の所に舞い落ちてきた。
「それはの? どんな万病も怪我も治す特別な葉。死にかけておってもの」
「そっ……そんな貴重な葉を!? ありがとうございます」
貴重な葉を胸にしまうと、何度も樹に向かってお辞儀した。そんな私の姿を龍人族の男性は「其方はやはり面白い」と言って笑っていた。
何だか解せない。
「其方に興味がわいたぞ。箱庭に住む住人か?」
「えっ……はっはい。二百五棟に住んでいます」
思わず住んでいる棟まで答えてしまった。そこまで聞いてないと思うのに。
「二百五棟か……ふむ。また月明かりが眩しい日に会おうぞ」
そう言うと、美しい漆黒の龍の姿に変身した龍人族の男性は空に消えていった。
「綺麗……」
何だか夢を見ているような時間だった。
「まさか夢じゃないよね?」
私は胸にしまった黄金の葉を再び確認し、夢じゃなかったと安堵するのだった。
★★★
読んで頂きありがとうございます。
翠蘭たちのお話を皆様がちゃんと楽しんで頂けると嬉しいです。
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