第四世界ノ存在戦争

なまくさ

第1章「賜学と賜術」

プロローグ

「2人とも、準備はいいな?」


 機械に囲まれた部屋の中で、計器から目を離さず1人の女が声をかける。


「問題ない」


「こっちも問題ないよ」


 それに対して、1人の男と、もう1人の女が返答する。


「分かった。それでは、実行前最終確認を行う」


 言葉と共に、目の前の機械を操作し、モニターに目を向ける。それを見ながら女は確認作業を始めた。


「当館エネルギー充填率96.7パーセント。十分量確認。目的方向障害物僅少。安全実行には及ばないが、断行要件充足。問題なし。当館顕在率94.4パーセント。準安全実行要件充足。我々への被害可能性は少ない。問題なしだ。個別的顕在率の平均値99.9パーセント。こちらは安全実行要件充足。問題なし」


 淡々と事務的に、これから実行する何かの安全性を確かめていく。


「以上、実行前最終確認終了。……総合的には安全実行にはギリギリ及ばないが、どうする?」


「どうする、って?いまさら中断するのは不可能だよ。あの星はもう人が住める段階じゃないんだからね」


 女は微笑しながら言う。


「そうだ。いまさら中断したって殺されるだけだろう。だいいち、まずお前が中断する気なんてないんだろう?」


 男はうんざりした風に言う。この男も中断する気なんてさらさらない様子だ。


「……ええ。もう引き返せない。やっと解放されることができるんだ。私たち科学者を使い潰してきたあいつらには、星に残って死んでもらう。私たちだけが、やり直すんだ」


 女は、決意とも憎悪ともとれる表情で言う。


「まあ、私たち3人だけで、他の科学者含め同胞たち全員見捨てるのは極端な選択だと思うけどねぇ」


 女は微笑しながら言う。


「……なら、お前は連れていきたいやつが誰かいたのか?技術面で言っても俺たち3人のみで問題ないし、大半の同胞を見捨てる選択を飲むやつは科学者にも少ない。……なんにしても、いまさら誰かを連れてくるのは不可能だが」


 男は問いかける。それに対して女はやはり微笑しながら言う。


「連れていきたいやつなんていないね。私は私の目的が果たせばなんでもいいんだよ。最低限の協力要員として、君たち2人を選んだんだから。やっぱり誰か連れていきたいとか言い出さなくて、よかったよ」


「……わかった。最初からそのつもりだったんだ。中断するか聞く必要なんてなかった。……それでは、計画を実行する。2人は先に保護装置に入っててくれ」


 女はそう言うと、再び機会を操作し始めた。男は黙って従い、部屋の後方へと歩き始めた。

 一方でもう1人の女は、微笑を浮かべながら問いかける。


「……そのプログラムって必要なの?別に隠さなくても従ってくれると思うけど?」


 変わらず微笑を浮かべているが、その奥には確かに疑念があるようだ。


「念には念を、だ。組み込んでおいた方が、幾分うまく従ってくれる可能性が高いんだよ。……よし。これでプログラムも完了。後は私たちが保護装置に入って、次に意識が戻るころには全て完了している。私たちも早く保護装置に入ろう」


 そう言うと操作を終わらせ、2人も男の歩いて行った部屋の後方へ向かう。


 保護装置は、いかにも機械らしいデザインだが、確かに中に入ればどんな衝撃からも保護してくれそうな密度感がある。男に続き2人の女もそれぞれ保護装置に入る。すると、大きく開いていた機械は、複雑な挙動をしながら、2人を装置の中に飲み込んでいった。


 それを機に、部屋からは人の気配は完全になくなり、機械の唸る音が響くのみとなった。



 *



 それから、2時間ほど経過した。一定の機械音のみを発していた部屋は、その部屋が内包されている館、もとい、1つの星ほどの巨大さを誇る球状の機械の塊は、激しい駆動音を上げ始めた。明らかに、これからなにか壮大なことを実行すると言わんばかりに。


 きっと、機械の塊の横にある大地からでも、その圧倒的な迫力から、何かがなされることは明確にわかるだろう。


 それから更に1時間ほど経過したとき、機械の塊は、忽然と宇宙空間から消えた。見たくなくても巨大すぎて視界から消えてくれないほどの大きさの機械の塊は、地上の誰の目にも追われることなく、突然に消えてしまった。


 そして、機械の塊のあったその場所からは、地上に向かってとてつもないほどの衝撃が降り注ぐ。それは、その星の何もかもが耐えられないであろう威力。形のあったものを、目に見えないくらいにまで擦り潰すほどの圧力で。


 このとき、3人の科学者の選択により、彼らの故郷である星からは、大地も、生命も消えてなくなった。

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