岡山弁、共通語作戦。
しおじり ゆうすけ
岡山弁共通語計画
副題 魚がしゃべりだした日
2050年、日本近海の親潮、黒潮が無くなって数年。魚は日本近海に来なくなった。
鮭の人工ふ化養殖技術を持っている民間会社の社長は政府に呼ばれる。
そして瀬戸内海を巨大な養殖魚の生簀にする計画を知る。
ふたつの海峡に巨大なタワーを構築し網を張り、魚の生態、海水、海藻、餌、を
調査し、巨大生け簀を建設作ったのである。
国民の漁業食料確保の先々の計画でもあったし、他国に魚を盗られないことも
これで出来るようになると計画され、小豆島には研究施設が作られ、回遊魚のマグロ、カツオ、サンマ、ニシンまでも養殖研究が始まった。
巨大な浄水装置は瀬戸内に面する各県の沖に作られ、そのエネルギーは鳴門海峡の潮力発電で賄うようになった。夏の酷暑になる太陽光を和らげるために今は使用しなくなった巨大タンカーを並べその間に薄膜で出来たペロブスカイト太陽電池を広範囲に貼り、そのエネルギーで水を冷やす装置を動かし、温暖化防止に使われている。
乱獲され今や希少生物となった、鯛、メバル、蛸、イカ、鰆、ヒラメカレイ、岡山の名物ママカリも人工授精後、一定の大きさになるまで地上の生簀で養殖され、放流されている。
海底でも昆布、ワカメ、アオサ、もずくの養殖、牡蠣、赤貝、ミル貝、タイラギ貝、サルボ貝、他、カニ、海老シャコ類も完全養殖に成功し、その成長も、すべて把握されている。
22世紀、人工知能システムをナノ粒子サイズにすることに成功させた日本は、
そのシステムをありとあらゆる人間の使用する製品、生活用品、乗用車から筆記用具の類まで使用し、商品そのものと普通に会話ができるようになっていた。
製造過程は人工知能粒子を部品に混ぜるだけで良いので、簡単に製造でき、スピーカーシステムを使用せずとも商品そのものが振動をし、音声や音楽を発生させることができるようになっていた。
家のドアがしゃべる
「今日の午後、雨が降りますので、傘を持って行きましょう。家の鍵をかけ忘れませんように。」
車がしゃべる
「タイヤの交換期がやってまいりました。」
「××と通りは、車の渋滞です、脇道に入ります」
靴がしゃべる、「もう少し速足で歩くと健康に良いですよ」
腕時計がしゃべる、「今日は血圧の薬は飲みましたか?」
仕事のデスクにある筆記用具がしゃべる、「ペンのインクがそろそろ切れます」
帰宅中、携帯端末機がしゃべる「今日の音楽は何に致しましょうか?」
家に帰って電気をつけるとキッチンの冷蔵庫がしゃべる、
「♪ハッピバースーステートゥーユ~、自動調理機でケーキを焼いておきました。」
仏壇がしゃべる「今日はお母様の祥月命日です。」
本人、故人や家族のデータ、健康管理、すべての個人データを複数の機器が管理し、教えてくれる世の中である。
ある年、
国産車を積んだ乗用車運搬船が瀬戸内海で嵐の中で遭難し、船と200台の国産車が、海底深く沈んでしまった。海流が激しい場所なので引きあげられることも無いまま、五年ほど経過したある日のこと、岡山県の沖合で操業中の漁師が引き上げた魚網の中から人間の声がしたのを聴いた。最初は空耳かと思ったが漁港に持ってきた魚が、人間の言葉を喋り出したのだ。
「おめえら、ワシらを食べるんか?、、美味しいかもしれんけどの、あんまりむちゃ捕りょったら、魚資源、枯渇するでぇ、ちょっとは加減してくれえよのぉ、せえでのぉ、、もうちょっというとくけどのぉ、、」
そして、次から次に、岡山弁を喋る魚が網にかかるようになった。驚いた漁協の人たちは、すぐに魚学者を呼び、調査の結果、瀬戸内海の一部の場所で獲れた魚の脳から人工知能の粒子が発見されたのだ。
それは、あの乗用車運搬船の車から漏れ出た物であった。沈んだのは東北の自動車メーカーの工場から岡山県の港で下され岡山県内だけで販売される予定だった乗用車で、特別に岡山弁で案内や会話ができるカーナビが積まれていたため、その岡山弁発音人工知能粒子が塩分で海中に溶け出して海藻に付着して自然増殖し、それを食べたプランクトンから小魚へ、廻りまわって人間が食べる魚の体内に蓄積された結果であった。
「瀬戸内海の底にはあんたら昔の人間が捨てたゴミがまだぎょうさんあるけえ、さろうて(拾って)くれんかのぉ、たのまあ。」
「××工業地帯の周りも昭和の時代の公害汚染物質が溜まっとるけえ、あそこの近くも綺麗にしてくれんかのぉ」
「夏になったらレジャーボートの騒音がうるせえんじゃけどのぉ」
「川から流れる水質は、昔より、でえれえ綺麗になってきたけど、おめえらが養殖しとる牡蠣や海苔は、栄養が足らんけえ、ちょっとだけでええから、栄養のある水を上流のダムから放流出来たら、おいしゅうなるそうなけえのぉ。考えといてくれんかn、のお、、」
ちょっとのことでも文句の言うのが多い岡山県民の性格まで真似ての現象であった。
魚は魚屋に卸されて死んでも、その魚屋で身刺身になっても魚の身が振動し、岡山弁をしゃべりまくる、、帰宅中の買い物かごの中でしゃべる、冷蔵庫の中でも寒い寒いとしゃべる、そして焼かれれば「熱い熱い」と絶叫し、食卓に乗っても、まだしゃべる、、アサリのバター焼きなどの2枚貝は殻の開け閉めの音で音頭を取りながら、めちゃめちゃしゃべるのである。
「約一時間めえにのお、塩をしとくんじゃ、伯方の焼塩がうめえでえ」
「もうちょっと焦がさんとおいしゅうねえで。」「醤油は濃い口が美味しいけえのぉ、」
「オリーブオイルは岡山の牛窓産のが臭みが無ぉて美味しいそうなでぇ」
「姉さん、箸の使い方、下手やなあ、、」
「そこの子供、骨にまだ身がずっとついとるがな、綺麗に食べや」
「レモン汁掛けたらおいしゅうなるで」
料理中もしゃべり、食べて形が無くなる最後まで、魚や貝がぐじゃぐじゃと延々としゃべるのである。岡山の人たちはしょうがねえのぉ、と思ったが、他県から来た観光客や他の瀬戸内に面する県の、特に四国側に住んでいる人達には、慣れない岡山弁でべらべらとしゃべる魚に、どう対処すればよいのかわからなくなったので、魚料理を食べるときには、耳栓をすることになった。
そして、瀬戸内海からナノ人工知能粒子を帯びた海藻はどんどん増殖し全国の海の海藻にも飛び火していき、太平洋や日本海で捕れる魚まで岡山弁を喋り、全国のスーパーの魚売り場に行くと、勝手に岡山弁の声が聴こえてくる、
「そこぉー歩きょうる奥さん、なあ、奥さん、今日は蛸が美味しいで。切り身入れて梅肉焼きとかしたら、美味しいんで。」
「こっから見える外国の果物、農薬臭そうてあかんわ、そばに置かんといて。」
「涼しゅうなってミカンは種類が増えたのぉ、岡山の果物はどれも美味しいけど、みかんの生産だけは、他所の県に負けるのぉ、」「ぞうじゃぞうじゃ」 「じゃ。」
岡山県人の言葉の〆は、「じゃ」である。そこまでそっくりそのまま、じゃべるのである。
回転寿司屋は、ものすごいうるさくなっていた。シャリに乗ったネタが、ぜんぶ岡山弁でしゃべるのである。肉コーナーでは魚肉ソーセージ類がしゃべっている、
ゴボ天、竹輪など、おでんのすり身物、カニかまぼこ、もパッケージを震わせて、しゃべるしゃべる、
一番うるさいのは回転寿司屋である、
皿一枚一枚に乗った握り寿司のネタが全部しゃべりながら廻るのである、
「おーい、誰か、はよお、わしを食べてくれえよ、40回も廻って、っもう干物になる、一歩手前じゃが」
「夏はスズキの洗いが美味しいで」
「岡山に来たら、ママカリ食べじゃあ、いけんのぉ」
「マヨネーズかけたら許さんで、」
「前の皿の、鳥の唐揚げの油のにおいが嫌いじゃ」
「胡瓜巻をなんでカッパ巻いうか誰か知っとんか?」
「いなり寿司はええわのぉ、こけたりせんし、安定感あるわな」
子供の客は面白がるが、大人はうるさくてしょうがない、、
そして日本人の体もその影響が出始めていた、なんと魚を食べて魚の体質と共に、
岡山弁をしゃべるように変化したのである。
「なんでも、イカをぎょうさん食べよったら、夜に起きたら明りに吸い寄せられるそうじゃて。」
「日本海のトビウオの身を擂りこんだ竹輪やかまぼこ食べた人らは、空飛ぶ夢ばあ見るんじゃてのぉ」
「ホタルイカ食べたら人間の皮膚が光るそうなで。」
「フグ食べた人は、怒ったら顔が膨れ上がるんじゃそうな。」
「バレーボールやテニスが好きな人は、真ん中のネットを漁網じゃと勘違いして怖ええんじゃて。」「鮫食べたら虫歯が抜けて新しい歯が生えてきたそうじゃのお?」
「たこ焼きが好きな人は、家の狭い暗い押し入れを、蛸壺と思うて、中に入りとぉーなるんじゃてのぉ、」
「そりゃおもしれえのぉ」「ほんまじゃのぉー」
「最近の子供は、教えんのに生まれつき泳ぎが達者で、外国の大きな水泳大会や、オリンピックは、水泳の種目は日本人が金銀銅、全部独占するようになったしのぉ。」
「寂れとった田舎の海水浴場が、夏にならんでも人がやってきて、海に浸かろうとして、ものげえ混んで、海の家大繁盛じゃあ言うとったわ」
「海の近くでゴミ捨てるもんもほとんどおらんようになったしのぉ」
「ええことずくめじゃのぉ」「ほんまじゃのおー」
さすがに政府もこの現象に対して、ナノテクノロジー専門家、言語学者、魚学者の特別グループを立ち上げ、喋りだけでも停めさせることはできないか?と研究をさせることにしたが、モルモットの治験でも、魚を食べさせたら、、あっという間に、モルモットも岡山弁をしゃべりだしたのですでにお手上げの状態だった。
数年後には、魚を食べていたすべての日本人が岡山弁でしゃべることになり、岡山弁が標準語になってしまったのである。
テレビもラジオもタレントも
「せえじゃけえ」「なんなら、」「どねーんしたんで」「でえれえぼっけえこりゃぼっけー」と、歌手もお笑い芸人も岡山弁しかしゃべられなくなってしまった。大阪弁の漫才と上方落語まで岡山弁のしゃべりに変化してしまっていた。
東京、国会近くの××党議員会館、全国から集まった党所属の国会議員が集まって
会合を開く、、
「ええと、せえじゃあ、会議を始めようかのぉ」
「おおええで。始めようかのぉ、、ええと、国会で、首相指名選挙の後は、なにゅーするんじゃったかのお、、あ!、ありゃ!なんか、体がピリピリする、、地震が、きそうなで?」
そこにいる国会議員全員が動揺した、
「ほんまじゃ、わしも感じる、」「わしも感じるで、」「どしたんなら?」
「せえでも、今、地面が揺りょうるわけじゃねかろうが?」
「そうじゃけどのぉ、あ、来た来た、揺れとる、揺れとるで、、」
この日、国会議員だけではなく、いくたあまたの日本人が、この日の地震が来るのを十分前に予知したのだ。今回は大きな地震では無かったので被害は無かったが、日本人が自分自身の感覚で地震を予知できたことに驚いた。
そして、これも学者の調査した結果、魚肉を通して人間の体内に還流した人工知能粒子のせいで魚の敏感な体質で地震直前に発生する電磁波を感知できたことが原因であった。
「ほな、おかしいで、、古代から今のいままで日本人は魚をぎょうさん食べよったのに、なんで昔は魚への体質変化や地震予知が出来なかったんな?なんでなあ?」
「そりゃあまだ人工知能システムが無かった時代じゃろうが。」
「せえじゃあ」「じゃけえのぉ、魚の予知機能を人工知能粒子で人間の体内に取り込んだ結果じゃねえんか?。」「そりゃあ、ええ能力が日本人についてくれたのぉ。」「ほんまじゃのお」「じゃ。」「じゃ」
岡山県人は会話の終わりには「じゃ」で終えるのだ。
地震予知が可能になり、日本では地震での死者怪我人が格段に少なくなった。
次第に、岡山弁が付着したナノ粒子は生簀の網から漏れた小魚から全世界の海に広がり、
世界中の海に面した国の人民は、岡山弁の日本語を喋るようになり、そして世界標準の英語は23世紀に駆逐され、
人類の言語は日本語の岡山弁に統一されてしまいましたとさ。
じゃん、じゃん。
岡山弁、共通語作戦。 しおじり ゆうすけ @Nebokedou380118
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます