第37話 龍人降誕
スラゴラの攻撃を読み、的確にかわしていく。その巨躯ゆえに一瞬とはいかないが時間をかければ一撃を叩き込めるようにはなる。彼が振りぬいたその隙にフィークスは飛び上がり、二人からもらっていたハンマーで頭部を攻撃した。
「グオオ、、ど」あっけなく気絶するスラゴラ。図体だけで彼は戦闘を得意としていなかったのかもしれない。だがここで時間をかけるわけにはいかない。
「急ごう。レダンを止めなくちゃ」フィークスたちはルズホーネ神殿の中に進んでいった。
フィークスたちがスラゴラを気絶させている間、神殿の中では壮絶な戦いが繰り広げられていた。ネオハーツにレダンが攻撃を仕掛けたのだ。こちらも同じく体の大きさを逆手に取りネオハーツを追い詰めていく。フィークスの力を目覚めさせるための試練とは違う。ネオハーツも神殿内部を覆いつくさんばかりの魔法攻撃を仕掛け、レダンを消し飛ばそうとする。「くっ」普通の人間なら焼け焦げた灰すらも残らないような強力な魔法。さすがのレダンもよけることができない。
「我に挑むとは何のつもりだ。ただの人間ではないようだが」
「まあ、ちょいと昔いろいろあってね。後でゆっくり教えてあげるよ」龍神に対してもこんな口調をするレダン。鎧を脱いだ表情にはうっすらと笑みが浮かんでいる。戦闘を楽しむように動くレダンに追い詰められていく。ついにネオハーツは魔力をため始める。
「食らえ<スフィラゴン>!」これに対してレダンは
「モンスターの魔法だっけ?それ超級魔法だよな、ってこれまずいんじゃ」言いうが早いかネオハーツはその身からすさまじい量の魔力を放出し、神殿すら崩れんばかりの攻撃があたりを包んだ。
「うわっなんだこれ!」追いかけて神殿に入ってきていたフィークスたちすら危うい威力。
「い、いったん逃げろ!」そう言って神殿の中心から逃げるように避難した。魔法は発動したらしく、フィークスたちが逃げてきた道にも砂煙が流れ込んできた。
「今のは、」
「ネオハーツとレダンが戦って何かすごい技を出したんだ。早くいかなきゃ」幸い通路は崩れていない。フィークスたちはその奥へと進む。
フィークスがネオハーツと戦い、その手に持っている龍剣ベルエグを授かった場所、再びやってきたそこに待っていたのは衝撃の光景だった。
「レダン...!!」ボロボロになったネオハーツの上に乗りそこに座るレダン。勝敗は見ての通りだが、何が起きたのかまではフィークスたちにはわからなかった。龍神であるネオハーツにあくまで人間のレダンが完全勝利するとは何が起きたのか。
「びっくりしたよ、ここごと崩して俺を殺そうとするなんて、お前らまで死んだらどうするんだってな」
「どういうこと?」
「この龍神さん、超級魔法で辺り一帯消し飛ばそうとしたんだよ。だから俺が一発加えて威力を弱めて、魔力がほとんどないタイミングで追い詰めたら簡単にダウンしちゃったよ」
「そこまでして何がしたいんだ!いい加減答えろレダン!」強い口調で言うフィークスにレダンは
「ギルベルトをはじめとして龍帝軍の奴らは本気で自分たちがこの国を支配しようとしていた。その過程で俺とも手段が一致してな。しばらく手伝っていたんだ。けどな、俺の目的はこの国だけじゃなく世界の滅亡でな。破壊の炎の復活も俺の作戦さ。だっておかしいだろ?なんで自分が支配しようとする国を破壊するんだよ」恐ろしいことを言って乾いた笑いをするレダン。
「スラゴラさんを操ったように龍神様ですら操るのですか!」
「いいや、さすがに神様には俺の力だけじゃ不十分だ。だから操りやすいやつにこいつを入れ替えるのさ」レダンは隠し持っていた不思議な球を出した。
「それはいったい」
「あんたらが弱らせてくれたギルベルトの魂、もとい思念だな。あいつの抱えていた欲望や負の感情をこうして持ってきたんだ。こいつを使えばあーら簡単あの龍帝さんに早変わりってわけだ」
「まさか、それで」
「そうそのまさか!これをこの龍神様にぶち込んで意識も自我も置き去りな破壊衝動まみれの化け物を生み出すのさ!」
「やめろ!」フィークスが駆け出す。しかしいくらなんでもここからでは間に合わない。ルチェスやセティたちよりも早くレダンは持っているそれをネオハーツの体内にねじ込んだ。
「グギャオオオオオオ!!!!」すさまじい絶叫とともにもだえ苦しむネオハーツ。先ほどまで弱っていたにもかかわらず、そこからさらに暴れまわる。弾き飛ばされたレダンは、地に降りることなく空中で苦しむネオハーツを見ていた。
「龍神様、苦しんでる」
「入ってきたやつを追い払うために必死なんだわ!」
「頑張ってくれ!ネオハーツ!!」フィークスたちが必死で祈る中、必死にもがくネオハーツ。しかし、ついにその時が来てしまう。先ほどまで苦しみ暴れまわっていたネオハーツが急におとなしくぐったりとした。
「な、何とかなったのか?」
「いいや、よく見ろ」レダンが促すと、ネオハーツの体からすさまじい波導が放たれた。
「うわっ!」
「ははははは!龍帝の子孫だって話は半信半疑だったが適合している当たりその話は本当みたいだな!お前を信じてよかったことが今初めてできたぜギルベルト!」ゆっくりと起き上がるネオハーツ。が、すでにその姿は様変わりしていた。邪悪な黒い翼に憎しみと怒りに支配された形相。神聖さも理性も感じられないその姿は、もはや神ということもできなそうだった。そんな堕ちた龍神の姿を生み出したレダンは名をつける。
「これこそ!負の感情と欲望に支配されたかつての神の姿!その名も龍人ギルハーツ!!さぁその力でこの国も、世界ですら滅ぼし尽くせ!はーはっはっは!」
「グルルルルガアアアア!!!!!」神殿を超え、バローにまで響く大咆哮をあげるギルハーツ。広げる翼はまるで終焉の地獄のようだった。頭上の崩れかかっていた神殿の天井を口から放射した魔力で粉々に砕く。
「くっまさか外に出るつもりか!?」驚くフィークスに呆れたように語り掛けるレダン
「そりゃあそうだろ。こいつはもうお前にベルエグを預けたネオハーツじゃない。ただ周囲のすべてを憎み破壊の限りを尽くす怪物さ」ゆっくりと羽ばたきここから飛び立とうとするギルハーツ。
「させるか!」今度こそルチェスたちが攻撃して止めようとする。しかしギルハーツに命中する前に奴が纏っているバリアに弾かれてしまう。ついに神殿を抜け出しギルハーツはどこかへと飛び去ってしまった。それを見送ったレダンもフィークスたちに別れの言葉を告げる。
「さてと、もうこの世界はどうなっても知らねえや。滅んだら後でゆっくりお見舞いに来てやる。それじゃあな」またしてもレダンは空中に穴をあけそこに入っていった。すかさずルチェスが矢を射かけたが、命中するかもわからぬまま穴はふさがってしまった。
「ねえ、これ今すっごくまずいわよね、」
「ああ、俺たちだけでどうにかなるのか」
「とにかく、バローに戻りましょう。すでに被害が出ているかもしれません」
「トーマスの言う通りか、急いでここを出よう。アッジとウスタに合流するんだ!」崩れ落ちたルズホーネ神殿を後にしてフィークスたちはバローへと戻るのだった。
「龍神様、ほんとに死んじゃったのかな」ルチェスの耳が悲しそうに垂れる。
「魂が消えるなんてことはないでしょうけれど、生物の命はおろか神の命だなんて、いったいどうなるのか、」修道女のエルダにとっては神の命になんて絶対的なもの考えていなかったのだろう。これからどうすればいいのか必死で考えるフィークスたちにあるものが声をかける。
「まったく、あんなことをされるとは、何者か知らんが許せんな」
「そ、その声は!」
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