第13話 打ち明ける時

「じゃあねー、唯南、気を付けて帰るんだよ」

「オーケー」



友達と飲みに行った私は、ほろ酔い気分だった。


でもちょっと酔っ払いに近い私は、記憶や意識はハッキリしているも多少フラフラ気味な中、街中を帰る。



「えーと……電話、電話」




バックから携帯を取り出そうとした、その時─────




スルッと携帯が手元から離れ地面に落下。




「あっ!」



そして拾おうとした時、スッと私の携帯に手が別の方向から伸びて来ては携帯を拾ってもらう。




「すみません。ありがとう……」



スッ

携帯をスッと私に渡す事なく引っ込めた。




「…えっ…?あの…」



視線の先には、一人の知らない男の人。




「あの…携帯…」

「君、可愛いね!飲みに行かない?」

「えっ?…すみません…私は…もう……」


「そうなの?でも…それだけじゃないっしょ?結婚してるからもあるでしょ?」


「…それは…」


「見た感じ、ほろ酔いっぽいし…一人行動って事は旦那さんと上手くいってないとか?」




ギクッ


「別に、そういうわけじゃ…」

「ふーん…」



「とにかく携帯返してくれませんか?」

「交換条件!一杯付き合ってよ」

「無理です!私は、もう帰らなきゃいけませんので」


「一杯くらい良いじゃん!付き合わなきゃ携帯(これ)は返さないよ」




「……………………」



《何なの!?小さな子供(ガキ)じゃあるまいし》



「どうするの?」

「…分かりました…一杯だけなら」



そして私は付き合う事にした。


私は初対面でありながら、男の人と行く事にした。



「あの携帯返してもらっていいですか?」


「携帯?あー、店に行ってから、一杯付き合ってくれるまでは駄目」





「…………………」






おしゃれなバーに行き、カウンターに肩を並べて座る。




「あの!いい加減、携帯返して下さい」

「お酒、飲んでないじゃん!」



《コイツ……》




私は一気に一杯飲み干す。



「ほら!携帯っ!」

「話をしながら味わって飲もうよ」

「私は帰るんです!第一、一杯……」




フラッと体全体が揺れる。


まるで貧血を起こしたような、めまいのような感覚だ。






《アレ…凄い体が……》




一杯しか飲んでないのに?


この一杯の度数が高いのかは定かではない。



私は、そのまま眠りについた。




そして、ふと目を覚ます。




「…ここは…?…えっ…?ホテル…!?」



バッと起き上がる私。


私は部屋を飛び出そうと出入口に向かうもシャワールームが開いた



「あれ?もう目が覚めちゃったの?」


「か、帰るっ!」


「良いじゃん!今からが楽しみなのに」


「わ、私は、そんなつもりで……」





グイッと腕を掴まれたかと思ったら、ベッドに押さえつけられ私の上に股がった。




「や、やだ!は、離してっ!!」

「どうせ旦那とヤってるんでしょ?」

「…そんなの…!」



荒々しく洋服を脱がされ、



「やだ!辞めっ……!」




唇を塞がれ肌が露になる。




ドカッ



「……っ!」





暴れ、抵抗する私の足が、どうやら偶然に運良く股間に当たったようだ。




私は隙を狙い逃げる事にしたが、すぐに掴まるも、何とか部屋を抜け出す事に成功した。




「はあ…はあ…」




無我夢中で逃げたのもあってか、息が荒く呼吸が乱れている。





と、その時────




「…唯…南…?」

「……圭…吾…?」



私は駆け寄り胸に飛び込もうと数歩行くも私の視界にもう一人の人影が飛び込んだ。



《…えっ…!?…》





圭吾の上司の彼女・幸村さなえだ。




「………………」




彼女はスッと見せ付けるように、圭吾の腕に自分の腕を絡めた。





「おい…ちょっ…!」


と、焦るような困った様子にも伺える圭吾の表情。




「あら?唯南さん。…まあ…!ちょっと!その格好どうされたの?」




「えっ…?」





私は意味が分からず、自分の姿に目を向ける。



ホテルを飛び出して来た事に気付き、下着や肌が露になっている自分の姿に恥ずかしく慌てて洋服を直し始める。





そこへ─────




「唯南さんっ!」




背後から声がし振り返る視線の先には─────





「……斗…」



突然、抱きしめられた。



ドキッ



「…えっ…?…ちょ、ちょっと!斗弥君!待っ…!」




抱きしめた体を離すと、私の格好を見ては、すぐに私に洋服を羽織らせた。



ドキン




「…斗……弥…?」


「えっ?…うわっ!圭兄ぃぃっっ!?えっ!?待って!!隣の女誰なん!?」


「あら?もしかして弟さん?やっぱり、お兄さんがイケメンだと弟さんもイケメンね?初めまして、私、お兄さんの上司の……」


「上司ぃぃっ!?いやいや、職場では、そうやけど、どう見ても深い関係なんちゃうん?腕組んでるやん!」


「あら?そう見える?案外、2人も、そういう関係なのかしら?」


「ちゃうで!家族やけど?ちゅーか……そんな事より唯南さん大丈夫か?」


「えっ?…あ…うん…」


「途中まで見掛けてんけど、見失のうてん!めっちゃ心配したで!?」





《嘘…私の事…》




「もう寿命縮むから勘弁して~」

「…ごめん…」


「帰るで!」

「あ…うん…」

「ほな俺達は先に帰るわ!」




グイッと私の手を掴み2人の前から去り始める私達。



「あっ!そうや!」



振り返ると2人に視線を向ける。




「なあ!圭兄!」

「何だ?」


「…2人は、どういう関係か知らんけど、もし本当に深い関係やったら…うちら以外の家族に、どう説明するん?」


「えっ…?」


「俺は唯南さんの事、24時間見て来てんけど、誰よりも唯南さんの事を知ってると思うてる」


「…斗…弥…」


「今、唯南さんの中に誰がいてるか知らんけど…唯南さんを更に傷つけたりするんやったら…婚約破棄した方がええんちゃう?」


「何言って…」




私の手を掴んでいた手を離し、圭吾に歩み寄ると、圭吾の胸ぐらを掴んだ。




「ちょ、ちょっと!斗…」


「…唯南さんが、どんだけ悩んでるか知らんやろ?」




ドキン



《斗…弥…君…》




「いつしか唯南さんは幸せって顔せんくもなったし!笑顔かてなくなった!今の唯南さんを苦しめてんのは、圭兄や!婚約して夫婦に亀裂入り始めてんねん!」




バッと離すと私の方に歩み寄ると再び手を掴んだ。




ドキン


そして振り返ると



「これ以上…唯南さんの悩んでる姿なんて見たくあらへん!何も変わらへんかったり傷つけるんやったら1日も早く解放してやれや!圭兄が引き止めたままなら唯南さんは変わらへん!解放せーへん限り唯南さんは戻らへんで?」



そう言い放つと掴んだ手を変え、帰り始める。





「…斗弥…君…」


「…唯南さんは…今の関係を圭兄と続けても幸せになれへん!だったら俺が…唯南さんを…」




「………………」




言葉を詰まらせる斗弥君。




「……斗弥…君?」




掴んだ手をバッと離すと足を止める私達。




「何でもない!」

「何でもないって…」

「ホンマに何でもない!」



「………………」



照れてる様な恥ずかしい様な表情で斗弥君が赤くなっている様な気がした。


暗くて良く見えないけど私は触れないでいた。



「…ありがとう…」

「…別に家族やし」

「…そうだね。家族だからね」




私は歩き始める。



「………斗弥君?」




足を止め振り返ると同時に、グイッと引き寄せられ抱きしめられた。



ドキン



「…斗…」


「…家族とか先生とか…俺ん中では…それだけやない…俺は…別の唯南さんがいてる…」




バッと抱きしめられた体を斗弥君は離すと、何も言わず黙って歩き始める。




「ちょっと!斗弥君!待っ…きゃあっ!」



何かにつまづき転びそうになる。



「うわっ!何してん…」





ドサッ


背後から抱きしめられるような感じになり、スッポリ斗弥君の胸の中におさまってしまう。




ドキッ




「なあ!目開いてますか~?」



ムカッ


「…開いて…」




ドキッ


至近距離にある斗弥君の顔に胸が大きく跳ねる。



「ち、近っ!」

「何がやねん!しゃーないやん!」



バッとお互い離れる。


「帰るで!」

「う、うん…」



スッと私の手を繋ぐ。



「ちょ、ちょっと…誰かに見られたら…」

「その時は、その時や」

「あのねー」



私達は騒ぎつつも夜の街を帰る事にした。




「そういや…さっきの上司の女性(ひと)誰なん?例の浮気相手か?もしくは愛人?」


「えっ…? いや…愛人って…」


「じゃあ!圭兄の浮気相手やな?」


「…どうかな…?」


「いやいや、隠すだけ無駄なんちゃう? あの状況見りゃ分かるわ!」


「…そっか…」


「で?本当の所どうなん?」


「…それは…」



私は話す事にした。



「やっぱり、そうなんや」



そして、彼女と会った事もある事も全て打ち明けた。


















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