第10話

「おはよう、ミユキ」

「おはよう、カズヒト」


「おはようございます。小母さん」

「おはよう。ひさしぶりね、カズヒトくん」


 ミユキの家に着くとミユキとミユキんちの小母さんが玄関から出てきた。

 小母さんと会うのは中学二年生のとき以来なのでかなりご無沙汰してしまったようだ。


「カズヒトくんちょっと痩せたかしら?」

「ええ、最近色々有りまして痩せたかも知れませんね」


「そうなの? 気をつけてね。今度またゆっくりと遊びに来てくれたら嬉しいわ」

「ええ、近々寄らせてもらいます」


 ミユキんちの小母さんは社交的でおしゃべり好きなのか、話しだしたら止まらない。


「ねぇ、お母さん! もう学校に行くんだから静かにしてよねっ!」

「はいはい。もう、せっかちね。こんな子だけどカズヒトくん、よろしくね?」


「あ、はい。じゃ、自転車置かせてもらいます」

「敷地だけは広いからいくらでも使ってね。いってらっしゃ~い」


 ミユキの家は古くから地元に根づいた家で、敷地だけでも俺の家の倍以上はある。


「行こ、カズヒト」

「ああ」


 二人並んで駅に向かう。


「小母さん、朝から元気だな」

「もう、恥ずかしい」


「そんなことないだろ? バイタリティあっていいお母さんじゃないのか?」

「まあそうだけどね……」


 まだ二日だけだけど、なんだか久しぶりにあの女の話以外で会話が弾んだような気がする。

 この程度のことでホッとしているようでは、思っている以上に俺は神経をすり減らしているのかもしれない。



 ピピピピピッ♫


「ん? 電話」

「だれ?」


「あ、ああ。ヒトミ……もしもし、どうした?」


 まだ家にいるヒトミから電話がかかってきた。


『兄ちゃん? さっきあの女がうちを訪ねてきたよ。兄ちゃんと一緒に学校行こうって』


「で?」


『お母さんが「あなたと一緒に登校させるつもりはありません。あなたは一人で登校してください」みたいなこと言って追い払ったよ。暫く渋っていたみたいだけど』


「じゃあ、今頃駅に向かって移動している頃か?」


『だね。ちょっと前のことだからまだ駅には着かないと思うけど、注意してね』


「ああ、こっちはもう改札抜けたところだから会うことはないと思う。ありがとうな」


『うん、じゃあ気をつけて』


 昨夜警察を呼ぶとまで警告したのに今朝にはもう無視か。そもそもやはり理解していないのか?


「ミナミのこと?」

「ああ、うん。さっきうちに誘いに来たって」

「……これって思っている以上に慎重に対処しないとマズいかもね」


 急行電車がホームに滑り込んできた。

 俺たちはことの重大さを見誤っているのではないかと無言になる。

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