第9話

 夜、ミユキと通話をして帰宅時のミナミと遭遇したことなどを話した。


『カズヒト、やっぱり明日からはわたしと一緒に登校しましょう』


 ミナミともし遭遇した場合の防護壁の役を買って出てくれるそうだ。危ないことは止めてくれたまえ。


「俺が自転車でミユキの家に直接行くよ。ミユキの家に自転車置かせてもらえるか?」


『かまわないよ。お母さんにも言っておくよ。でもそうすると毎回うちまで自転車を取りに来るようだよ?』


「下校もミユキと一緒に帰ればいいんじゃないのか?」


『………うん』


 ミユキを虫除けにするのは申し訳ないが、俺としては少しでも単独行動は避けたいと思っている。接触機会は減らしたいのでね。

 また部活にも委員会にも所属していない俺はただの帰宅部だし、ミユキも一応は図書文芸部に所属しているがいわゆる幽霊部員だから一緒に帰るの自体問題はないだろう。


「それで、さっき話した通りあいつには話が通じないんだが、どうすればいいと思う?」


『わたしもミナミがそこまでイカれているとは思ってもみなかったな。浮気しておいて本気なのはあなただから問題はないって思考でしょ? ないわ……』


「だろ? それに反省とか後ろめたさっていうのも一切感じていないみたいなんだ」


『部屋でおはなし、だっけ? ちょっと怖いよね』


「正直、話の通じない相手にどう接すればいいのか俺にはノウハウがないんだ」


『わたしだってそんなものないわよ』


「だよな……」


『だよ』


 堂々巡り。






 翌朝。自室の窓越し、カーテンの端を捲り斜向いの家に向かって右端にある部屋を伺ってみる。そこがミナミの自室だ。

 朝日が反射して見づらいが、窓辺からうちの玄関をじっと見つめているあいつの姿が確認できた。


 俺が家から出たところをチェックして接触を図ろうって魂胆に違いない。


 拠って今日も勝手口から慎重に脱出することにする。

 自転車は昨夜のうちに裏手にある駐車場隅に移動してある。


 俺は基本徒歩で駅に向かっているので、当然ミナミもそう考えるはず。裏をかくまではいかなくとも自転車は想定していないだろう。


 出発前、もう一度自室からミナミの部屋を覗くと相変わらずうちの玄関を監視しているミナミの姿がそこにあった。


 ふとあいつの視線がこちらを向く。俺は驚いて身を屈める。


(覗いているのがバレたか?)


 もう一度細心の注意をしてカーテンの隙間からそっと覗いてみたが、あいつの視線は再びうちの玄関に戻っていた。


(なんなんだよ。スパイ映画でもないのにどうして俺がここまで神経すり減らさないとならない?)


 俺は深い溜息を一つ吐いてからミユキの家に急いだ。

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