第3話

 どうやって自宅にたどり着いたのか全く覚えがない。繁華街の駅から最寄りの駅。その駅から自宅まで。一時間は優にかかるのだけど一切の記憶がない。

 途中吐き気を催して、駅のトイレに駆け込んだような気もしなくもないが霞がかかったようにはっきりしない。


 玄関を開けて家に入る。もうなんの気力もないのでそのまま寝てしまおうとするが、妹のヒトミに捉まってしまう。


「兄ちゃん、どうしたの? 顔真っ白だし、足元も覚束いてないよ」


「……。ん? あ、ああ。ちょっとな」


「お母さーん。お兄ちゃんが変だよ! ちょっと来てぇ~」


「なになに? どうしたの? まあ、ホント。お父さんもちょっと来て!」


 母さんが来たところ辺りで足腰に力が入らなくなって、床にへたり込んでしまう。そのせいで父さんまで呼ばれて、そのままリビングに連れて行かれてしまった。


「兄ちゃん、ほんとうにどうしたの?」


 兄思いの妹は心の底から心配してくれているようで、このまま黙っているのも申し訳なく感じるほど。


 どのみち近々バレてしまうのだから、先に話してしまっても構わないだろう。ミナミの家とは家族ぐるみでそれなりに交流があるから。




 俺は今日取った行動とその結果見てしまったモノをすべて洗いざらい家族に話す。


 一度は冷静になれたけれど、やはり心身に及ぼされた影響は計りしれず、俺は家族の前で馬鹿みたいに泣きじゃくった。


「あのクソアマ! お兄ちゃんのことなんだと思ってんだ! ぶん殴って来る!」


「あそこの家とは今後絶縁だ! 一切合切の関わりを断て!」


「カズヒトのことを虚仮こけにするとはあの小娘、許せないわっ」


 家族はそれぞれ怒りをあらわにし、今にも玄関を飛び出して斜向かいの家に殴り込みに行きそうな勢い。


「み、みんな。ありがとう。俺は大丈夫。今の段階でミナミがあんな女だって知れて良かったんだよ。もう大丈夫、本当だから。殴り込みとか止めてよね」


 家族の怒り方が凄すぎて俺のほうが落ち着いてしまった。でも家族の愛に俺は救われたと、とても感謝している。




 夕飯は食べる気力がなかった。


 でもいらないって言うと、ヒトミが「あたしが兄ちゃんに食べさせてあげるよ」なんて言ってくるので無理やりなんとか自分で食べた。


 腹が膨らむと気持ちも落ち着くもので、やっと人心地付いたような気分になった。おせっかいだけどヒトミには感謝だ。


「兄ちゃん、今日は一緒に寝よう」


「は? やだよ。なんで高一の兄と中二の妹が一緒に寝るんだ? そんな奴いないだろ」


「人は人。うちはうちだよ。ほら寝よう」


 妹に甘やかされるのも落ち着かない。どうにか躱したのに朝目覚めたら隣でヒトミが寝ていた。落ち着かない。

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