第3話 懲らしめる

「今から軍議に出る。エイシャスはくれぐれもここから出るな」


「はい」

 殊勝な声でそう返事をするが、彼がいなくなればエイシャスはすぐにテントを抜け出した。


 テントの前には見張りがいたが、隊長のテントに忍び込もうと言うものは居ないだろう。


 その者達には悪いが、エイシャスはそっと抜け出した。


 魔法で姿を消し、ひと気のないところでそれを解く。


 隊長及び上官たちが話し合いをしているので、兵たちは訓練をしたり、雑談をしている。


 エイシャスは迷わず女性騎士のいるテントに向かった。ウォンから聞いた話が胸に引っかかっており、エイシャスはどうしても心配だったのだ。


 他の地域で小競り合いが起きており、今回の防衛線はやや兵力不足だ。その為傭兵ギルドから紹介してもらったもの達がいる。


 腕は立つが、粗暴で、尚且つ国の金払いに不満があるそうだ。


(普通は全額先払いでしょうけれど、一部は出来高払いになってるのよね)

 国の方針はわかるし、こちらとしては念の為の同行に必要以上のお金を払いたくない。


 それがどうやら不服のようだ。


(前払いで同行の代金までは支払っているし、戦いがあればその分を払うと言っているのに、何が不満なのかしら)

 払わないと言ったわけでもなく、前金も多めに渡している。


 それでも信用ならないのだろう。


「だからと言って不満のはけ口をこちらにされても困るのよね」

 エイシャスは勢いよく女性騎士のいるテントを開けた。


「なっ?!」

 今まさに事に及ぼうとしていた傭兵たちを見て白皙の美貌に怒りが灯る。


 抵抗できないように猿轡をされ、手足を縛られている彼女たちの顔には恐怖の色が浮かび、服もはだけている。


 在りし日の自分に経験を思い出し、苦い顔になった。


「何をしているの?」

 嫌悪のにじむ声を自分でも感じながら足を進める。


 素早い動きで一部の者がテントの入口に回り、開け放たれた入り口を閉められ、逃げ道を塞がれる。


「お人形さんがわざわざ来てくれて手間が省けたよ」

 男達の下卑た声と笑いを無視し、女性騎士達を見る。


「怪我はない? 大丈夫?」

 だがその声掛けにもふいっと目を背けられた。


 彼女たちはエイシャスを嫌悪している。


 ヴェイツの慰み者として来たと思っていて、一緒に戦うものとは認識していない。


 嫌われても仕方ないと、男達に目をやる。


「一番の上玉だ。こんな男勝りなのとはわけが違うな」

 彼女たちには悪いが、当然だ。


 エイシャスはお金を得るようになって、自身の美貌を磨いた。


 自分の為というよりもヴェイツの為に。

 彼の隣に立つのにふさわしい女性になりたかった。


 だから肌を焼かないように気を付け、化粧も欠かさない。


 ヴェイツに好かれるためならば、女性騎士に嫌われたって構わないのだから。


「ならば、彼女たちに手を出さずにこの戦いが終わるまで我慢して頂戴」

 じりじりと寄ってくる男達を見ながら、エイシャスはため息をついた。


 女性騎士の事は好きではないが、この者達になにかあればヴェイツの責任になる。


 だが、何もしていないのに叩き出すことも出来ないからこうして現行犯で捕まえに来たのだ。

 軍議をしていて強い者達がいなくなる今ならチャンスだと思ったのだろう。


「そっちが俺達を侮ったからだろう? なんだよ同行って。戦いがなかったら払わないって、俺達は戦いに来たんだ。ただの賑やかしじゃないんだぞ」


「戦わずにお金を得られるのは良い事ではないの?」


「傭兵というものは戦うものだ、戦わないなんて物足りない」

 なるほど。世の中には戦いを好むものも居るのか。


 そんなにも戦いたいのならばぜひ出てもらおう。


「ならばこの後前線に出てもらうわ。死んだら報酬なしだけどいいかしら。あと」


「彼女たちに対する賠償金は払ってもらうわよ。不満があるならばヴェイツ様に言ってもらえば良かったのだもの。こんな事をする必要はなかったはずだわ」

 いくら不満があり気が昂ったとしても、許されるものではない。


「そうしたらあんたを譲ってもらえるのか?」

 男の手がエイシャスに迫る。


「……ここでは人目があるから。ついてきて」

 今度からは人手不足でも傭兵なんて雇わないように進言しよう。


 男達に触れられるより前に胸元をはだけさせる。


 期待に満ちた顔に嫌悪が走るが我慢だ。


 誘導するようにエイシャスは外へと出た、ヴェイツ達の話し合いははまだ終わっていないようだ。


 エイシャスはため息をつきながら人気のない方へと誘っていく。いかにして懲らしめてやろう。

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