私の文房具見~つけた♪

鳳来寺小道

世界No.000

「はい!本日のユーチューブの撮影は以上です。お疲れ様でした」

ユーチューブを撮影しているスタッフの声が営業を終えた店内に響き渡った。

「ブッコロー、お疲れ様でした」

「あ、ザキさん、お疲れ様でした」

隣にいるのは、以前テレビの企画で“文房具王になりそこねた女”でお馴染みの有隣堂文房具バイヤーの岡崎弘子(おかざきひろこ)さんだ。

俺は、気軽に「ザキさん」と呼ばせてもらっている。

ユーチューブチャンネルでは、時々隣に座ってもらって

楽しいトークをさせてもらっている。

他にも“有隣堂のユーチューブを裏で牛耳る女”の広報・マーケティング部の渡邉郁(わたなべいく)さんや、“文房具の仕入れの全権を握る男”問仁田亮治(まにたりょうじ)さんもいる。

「ブッコローは、今日も飛んで帰るの?」

突然、ザキさんが、こんな質問を俺にしてきた。

結構長い間一緒に働いて来たが、こんなことを言われたのは初めてだった。

「そりゃそうですよ。ザキさんと違ってミミズクは、塒まで一飛びですよ。しかし、未だに中の人はどんな人?なんて言われているみたいですが、本人がしゃべっているのに気づかれないものなんですね」

「そりゃそうよ。黒子が操っているように見せているし、中の人がしゃべっているような映像がたくさん流れているもの」

「いつ気づかれるかヒヤヒヤものですよ。じゃあ帰りますね」

社員たちは、動画撮影後も片付けだったり、反省会だったり、まだまだ仕事があるようだが

俺は、いつものように裏口を出て、夜の空へ飛び立った。

一部の人間にしか教えていないが、動画撮影時には、マスコットキャラクターのように見た目を変えているが、普段はどこからどう見ても本物のミミズクにしか見えない姿をしている。

というか、ミミズクが本来の姿である。

時々、街中(まちなか)を飛んでいる時に、「あ、フクロウだ」と言われることは、時々あるが

「あ、ミミズクだ」なんて言われた記憶は全くない。

「人間だったら、あっちのネオン街の方に飲みにでも行くのに、また真っ暗な塒へ帰るのか~」

俺はそんなことを考えながらネオン街に背を向け飛んでいた。

「ドン!」

突然、大きな音が頭に響いた。

「いてててて」

俺は羽で頭をさすりながら、状況を把握しようとした。地面に落ちたのはすぐにわかったが、何にぶつかったのか皆目見当がつかいない。

「くっそ~カラスのやつか、それとも 鷹かワシか・・・電柱にぶつかるほど低空飛行でもないし」

色々なことが頭を巡っていたが、頭は痛いし、体も痛い

もう一度、痛い頭を羽でさすろうとして気づいた。

「あれ?何だこの5本の指は」

自分の目には誰かわからない5本の指が映っていた。

「ん?誰だよ!」

大きな声で叫んでしまったが、そこには誰もいない。

咄嗟に逃げなきゃと思い羽を動かそうとすると、自分の目に映る指が動く。

「え?いやいやいやいや、誰よ?俺?」

あまりの驚きに状況を把握する余裕は全くなかったが、目に映る体や足が自分の物だという認識できるようになった。

住宅街ではあったが、ちょうど自分を映すのにピッタリのショーウィンドウがある店を見つけ恐る恐るその前まで歩いていった。

時間は、夜の11時を過ぎていたが、街頭のおかげでなんとかガラスに映った自分の姿を見ることができた。

「え?スーツ?なんで?」

そこには見慣れない顔の人間が、スーツを着て立っていた。

「いや、どういうこと?」

出てくる言葉と言えば、こんな言葉ばかりだ。

とにかく自分を落ち着けるために近くの公園のベンチに座り、あれこれ考えた。

こんな見た目になってしまっては、自分の塒に帰るわけにもいかない。

妻や子供が何て言うだろうか。そもそも、塒には飛べないと行くことができない。

今日は、この公園のベンチで一夜を明かすことにした。

「考えても仕方ない。とにかく今は寝よう」

酔っぱらったサラリーマンが終電を逃した時のように俺は公園のベンチに横たわった。

自然の中で寝るなんてことは、なんの問題もない。いつものことだ。

次の日は、眩しい朝日に起こされた。

朝が来れば元に戻っているのではないかと淡い期待を抱いたが、見た目は人間、中身はミミズクなのは変わりがなかった。

しかし、この先どうしたらいいものか。

塒に帰ることもできないし、そもそも帰れたところで、妻や子供がどんなリアクションをするのだろうか。

匂いや雰囲気を嗅ぎ取ってくれて「パパ~」と寄って来てくれるのだろうか。

たぶん、それはあり得ない「人間だ!!!!」と思って逃げられてしまう。

「ほんといったい、なんだよ。この状況は」

昨日から発する言葉は、こんなものばかりだ。

俺が助けを求められる場所は、ひとつしかなかった・・・有隣堂に行くしかない

俺は、店が開店する頃を見計らって伊勢佐木町本店に足を運んだ。

裏口から入ってもいいが、この見た目だ。

「さすがにそれはまずい」と俺の第六感が言うので

開店後に正面から客として入店することにした。

「さて、来てみたものの、どうするかな~、いてくれザキさん・・・いた!」

ザキさんは、棚の前でしゃがみ込んで文房具を並べている最中だった。

ザキさんとは普段からよく話をしているので、だいたいのスケジュールは把握している。

とは言え、100%ではないから少々焦ったが、いてくれて助かった。

しかし、突然人間の姿をした俺が話かけて、どんな反応をされるか。

でも、話かけるしかない。俺は、恐る恐るザキさんに近づき声をかけた。

「ザキさん」

「はい?」

しゃがみ込んだままの状態で俺を見ながらザキさんが答えた。

「あの、俺ブッコローです」

ザキさんの目は完全に死んでいる。これはまずいと思った。

そりゃそうだ。普段から“しゃべるミミズク”に驚かないとはいえ自分の目の前にいる人間が

「俺、ブッコローです」なんて言い出したらこんな反応をすることは無理もない。

「どちら様ですか?」いつものおっとりした口調でザキさんが答えた。

「だから、ブッコローです」

「え?」

そりゃそうだ。ザキさんの反応が正しい。

こんなにザキさんの目線を怖いと感じたことはない。

「だから、ブッコローです」

「警察呼びますよ」

はいはい、きました。お決まりの台詞、予想通りの展開だ。

ドラマや映画でしか見ないシーンを自分自身が経験するとは思ってもみなかった。

警察を呼ばれて、手錠をかけられて、「ブッコローちゃん、さよならね」なんて声をかけられるのだろうか。

いやいや、そうなってもらっては困る。

この最悪の状況を打破するために俺はここに来たのだ。

俺は、とにかくザキさんと俺しか知らないようなことを、思いつく限りザキさんに話した。

「ほんとにブッコローなの?」

「だから、そうだって言ってるじゃないですか」

なんとかザキさんには、自分がブッコローであることをわかってもらえた。

「よかった~ザキさんありがとう」

「まさか、本当に・・・・」ザキさんは何かを言いかけた。

「本当に?」俺は聞き返した。

「いや、そうじゃなくて、どうしてそんなことになったの?(笑)」

ザキさんは笑いながらそう聞いてきた。

「それがわからないんですよ」

俺は、昨日の夜に起きた出来事ザキさんに伝えた。

ザキさんは、いつもの調子で「うん、うん」と頷きながら話を聞いてくれたが

最後には「そうなんだ~」と素っ気ない返事されて、会話は終わってしまった。

俺の話を聞いた後で、ザキさんは今日出勤している社員に事情を説明してくれた。

これで少なくとも自分の状況を理解してくれる人間がいることが嬉しい。

もっと嬉しいことに、この状況なら困るだろうと言うことで、みんなが少しずつではあるが

お金を貸してくれた。

貸してくれたというより「動画出演のお給料だから大丈夫よ」ということでお金をくれた。

いつもは「ミミズクだから、お金をあげても仕方ないよね」ということで

食べ物をもらっている。これが、給料の代わりだ。

この後、書店のスタッフルームで少しゆっくりしていたが、とくにすることがなかったので書店の近くをブラブラしてみた。

あるお店の前を通り過ぎようとした時に、突然声をかけられた。

「ちょっと、ちょっとお兄さん。困ってるでしょ?いや~絶対困ってるよね?顔に書いてあるもん。困ってる困ってる」

「これ店なのか?」というぐらい横幅のない店舗から店主がこちらを見ていた。

気にしていなかったら通り過ぎてしまいそうなぐらい横幅のないお店だ。

店の看板には“おもしろ文房具”と書いてある。

「おもしろ文具店?文房具屋?こんなとこに文房具屋なんてあったか」

店主はカウンター越しに手招きしている。

「こっちこっち」

俺は「困っているでしょ」という言葉に導かれてお店に入ってしまった。

「お兄さん。困ってるでしょ。凄く困ってるでしょ」

「ええ、まあ」

「じゃあこれを」

店主はそう言うと、“バスの降車ボタン”に似たボタンを俺に手渡した。

「なんですかこれは?」

「願い事が叶うボタンですよ。本当に心の底から願ったことだけが叶うボタンです」

「は?そんなボタンあるわけ・・・」と言いかけて自分の胸から足、両手を見つめた。

こんな不思議な状況になっていて「そんなものあるわけがない」とは言いづらかった。

「これ文房具なんですか?」

「ええ文房具ですよ。本以外は文房具って言うでしょ?」

「どこかで聞いたセリフだな。でくれるんですか?」

「もちろん、500円ですけど」

「500円?高っ!」俺は、思わずいつも調子で返事をしてしまった。

「お兄さんどうします?」

「わ・わかった買います買います」

俺はザキさんたちから頂いたお金から500円を払い、そのボタンを受け取った。

「ほんとにこんなもんで叶うのか?」心の中でそう呟きながら俺は店を出た。

店を出てすぐに人気のない路地裏を探した。

とにかく元に戻らなければ話にならない。

「元に戻してくれ」そう頭の中で何度も念じながら俺はボタンを押した。

「・・・・・」

なんの変化も起きなかった。

「もう一度」

「・・・・・」

何度も「元に戻りたい」と念じながら、何度もボタンを押したが、一向に変化がない。

何度自分の両手を見たが羽に変わる様子さえない。

「なんだよこれ。500円だぞ。500円」

俺は、なんとも形容し難い気持ちを持ちながら、さっきの文房具店へ向かった。

店に着くなり俺は、店主を問いただした。。

「これ不良品じゃないの?全く変化ないんだけど。どういうこと?」

店主は「またこの質問かよ」というような顔をしながら俺に答えた。

「それは、あなたが心の底から願っていないからですよ」

「は?」

俺は、ユーチューブでザキさんが変なことを言った時のような返答をした。

「どういうこと?俺は・・・」

店主は、俺の言葉を遮るように

「お兄さん。そういうことなんですよ。うちではこれ以上できることありませんよ。ちなみに不良品ではありませんからね」と答えた。

店主はそれ以上俺に何も言わなかった。

俺もこれ以上何を言っても無駄だなと感じたので、それ以上何も言わなかった。

俺はこの後、ブラブラと街を歩きお昼過ぎぐらいに伊勢佐木町本店へと帰って来た。

今日も動画撮影がある。本来なら俺は動くだけ、声は中の人が担当するわけだが、今日はどうなるんだろう?

スタッフルームで今日の動画撮影の打ち合わせが始まった。

結局、ブッコローのぬいぐるみを用意し、その声を俺が担当するというよくわからない形で動画を進行することになった。

書店の営業が終了し、夕ご飯を軽くここで食べた後、いつものように動画撮影が始まった。

今日のテーマは「岡崎弘子しか知らないおもしろ文房具ベスト3」というものだ。

打ち合わせには参加しているが、素のリアクションが撮れるようにということで、詳しい内容については、いつも知らされていない。

本番が始まり、いつものように動画は進行していった。

3位から発表が始まり、2位の文房具についての話が一通り終わった。

ザキさんが「1位はね、これ」と行ってポケットから、見たことがあるボタンを取り出した。

俺は目を疑った。

「ザキさん、それ・・・」

「そうこれね。 これはね、なんでも叶うボタンなの。昨日、ブッコロー人間になれ~って思ってボタン押したらほんとに人間になっちゃった」

ザキさんは笑ってそう言ったが、こっちはたまったもんじゃない。

やっぱりザキさんは、知ってたんだ。俺がこうなるって・・・

「ザキさん、早く戻してくださいよ!俺困っているんですよ」

俺は、動画の撮影中だということを忘れて、声を荒げてしまった。

「大丈夫。もう一回押したら、おもしろいことになるかもしれないから」

「適当に押したらだめですって!」と言おうしたが・・・・・

“ドン!!!”

俺の体に強い痛みがはしった。

「いてててて、くっそ~カラスのやつか、それとも・・・」

俺は、その言葉を言おうとしたが、言葉を飲んでしまった。

自分で同じ言葉を言ったことぐらい覚えている。

俺はすぐに気づいた。

「昨日と同じだ」

なんだこれは、俺は、昨日と全く同じ行動をとってしまった。

自分の羽に目をやり、5本の指があることを確認し、自分の体に目をやり

スーツを着ていることを確認する。驚きはなかった。

そりゃそうだ。突然あのタイミングで衝撃が来たこと以外、何も変わっていないのだから。

とにかく俺は“混乱”という人事で言い表せない精神状態になっていた。

「とにかく落ち着こう」自分に何度もそう言い聞かせても落ち着けるはずもなく

昨日と同じ公園に来て昨日のベンチ座り込んだ。

「何が起きているんだ?有隣堂しか知らない世界なのか?それとも、俺しか知らない世界なのか?」

頭の中で色々考えてはみるものの答えはでない。

昨日と同じように公園で一夜を過ごし、翌朝、開店と同時に有隣堂に入った。

早速ザキさんを探し、昨日と同じように声をかけ、同じように返答をされ、事情を話した。

ひとつ違うことと言えば、ボタンの話をしたことぐらいだ。

「ザキさん、今日の動画で使うボタンあるでしょ。あれは押さないで欲しいんですよ」

「ボタン?」

「これぐらいの大きさで、バスの降車ボタンみたいな」

「何言ってるの?」

「だから、今日の動画撮影で使う文房具の」と言いかけたところで

「今日は、新しいガラスペンの紹介よ」とザキさんは言った。

「え?これぐらいの大きさのボタンの」

「だから、ガラスペンだってば」

ザキさんが嘘ついているようには見えない

おかしい、ザキさんがボタンを持っていない。そんなはずはない。

「そうだ、とにかくあの店に行ってみよう」

俺は“おもしろ文房具”へと急いだ。

店とは反対側の歩道を歩き、店が見えるところまでやって来た時に

俺は衝撃の光景を見てしまった。そこにいたのは“郁さん”だった。

俺は思わず、店が見える路地裏へ隠れてしまった。

「なんでここに郁さんが?」そう考えながら、ひとつの仮設が頭をよぎった。

「郁さんだ。ザキさんにボタンを渡したのは郁さんだ。ザキさんが見つけたんじゃない」

郁さんに声をかけようかと思ったが、俺は声がかけられず

ストーカーの様に後を付けてしまった。

郁さんが向かった先は、当たり前からもしれないが、さっきまで俺がいた有隣堂の伊勢佐木町本店だ。

俺は、少し戸惑いつつ、時間をおいてから店の中へ入った。

俺は郁さんを見つけると、ボタンのことを聞いてみた。

「郁さん、おもしろ文具店って店に行きませんでした」

「え?、おもしろ文具店?そんなところには行ってませんよ」

「でも、さっき」

「人違い人違い。仕事があるからまた後で」

郁さんは、そう言うと俺に背中を向け部屋を出て行ってしまった。

「なんで嘘をつくんだろう」

モヤモヤした気持ちのまま時間だけが過ぎて行った。

動画撮影の打ち合わ時間になり、いつものように・・・というか昨日と同じように俺は参加していたが肝心な内容は知らされないまま本番を迎えた。

書店の営業が終わって動画撮影が始まった。

隣にはザキさんがいる。ここまでは昨日と同じ流れだ。

しかし、動画が始まってザキさんが発した今日のテーマを聞いて耳を疑った。

「岡崎弘子しか知らないおもしろ文房具ベスト3。パチパチパチパチ」

「え?ザキさん、今日はガラスペンじゃ・・・」

「ごめんね。最初は、そうだったんだけど、郁さんから変更しましょうって提案があったの」

「郁さんから?」

「そう、ガラスペンをやめて今日はこっちにしましょうって。驚かせたいからブッコローには内緒ね♪って言われて。あははは」

ザキさんは、可愛く笑ったが、俺の顔はひきつっていたと思う。

カメラの後ろにいる郁さんに目をやると、両手を合わせて「ごめんね」とこちらに合図を送っている。

「え?じゃあ何か、昨日もこの流れだったのか。でも、待てよ。郁さんがボタンを購入したのは、ザキさんがボタンを押した後になるじゃないか」

俺の頭の中は、混乱しまくっていた。

そんな考えながら商品に対してコメントをしていたから、何を話したかあまり覚えていない。

3位、2位の文房具の紹介が終わり1位の発表となった

「1位はね、これ」

そう言って、例のボタンを机の上に出した。

「ザキさん、そのボタンは?」と聞こうと思ったが

「ザキさん、そのボタン押す気じゃないですよね?」と聞いてしまった。

「押さないとわからないでしょ」

「それ押したら・・・」俺は頭を抱えながら叫んだ。

“ピンポーン!次止まります”

「ね、このボタンおもしろいでしょ?バスに乗った気になれるの」ザキさんは嬉しそうに答えた。

「なんですか?これ。単なるバスの降車ボタンんじゃないですか」俺は思わず笑いながら言った。

「おもしろいから、もう一回押してみますね」ザキさんが、ボタンをもう一度押した。


ドスン!

また体に衝撃がきた。

「いててて、くっそ~カラスのやつ・・・・・嘘だろ・・・・またか」


「あなた。ちょっとあなた。大丈夫?」聞き覚えのある声がした。

「え?ここは?」

「ここ?何言ってるの、あなたの家じゃないの」

目の前には、妻がいる。見慣れたミミズクの姿をした妻だ。

周りを見渡すと見慣れた物ばかり。ここは間違いなく自分の塒だ。

「あなた、大丈夫?夢でも見たの?」

「夢?あ、夢ね。そっかそっか夢か」

「あなた、とにかくご飯食べちゃってね」

「そっかそっか夢か。よかったよかった。夢か夢か。よかったよかった」

俺は、喜びのあまり何度も何度も「夢か」という言葉を頭の中で繰り返しながら

妻が出したご飯に手をつけた。

「なんて素晴らしい世の中なんだろう。ここは有隣堂でも知らない世界だ」と

心の中で呟き、元に戻れた幸せを俺は嚙み締めた。

昼過ぎまで塒でゆっくりと過ごし、動画撮影の打ち合わせのために有隣堂伊勢佐木町本店へ向かった。

いつものように裏口から店内へと入りスタッフに挨拶を済ませると

嬉しさのあまり今日見た夢のことを語り始めた。

喜びのあまり周りのスタッフのことなど気にせず話をしていたので

スタッフルームの隅で話す郁さんと問仁田さんのことなど全く視界には入らなかった。

「ちょっと、渡邉さん渡邉さん」

「なんですか?間仁田さん」

「渡邊さん、いつまであのボタンで遊ぶつもりですか。そろそろやめておいたほうが・・・」

「おもしろい物を見つけたって言ったのは問仁田さんのほうですよ、ユーチューブを続けていくのは大変なんですよ!もう少し遊ばせてもらいますよ・・・次はどんな世界がいいですかね」

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私の文房具見~つけた♪ 鳳来寺小道 @komichi_horaiji

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