第9話 最強の師弟現る

「おい、聞いたかまたあの二人金箱を取ったそうだぜ。」

「ああらしいな。けどあの『スリーSのくれない』だろ前回は一人で攻略したんだ、当然だろ。」

「いや今回は、連れている後輩という小娘が討伐しているようだぜ。」

「ええ、そうなのか?いくらなんでもそりゃ嘘だろ。俺たちでも5人パーティーで未だ15階層を行ったり来たりだというのに。」

「素質が違うんだろ。色々な属性魔法が使えると聞いたぞ。」

「俺はミノタウルスを素手で倒したと聞いたぞ。」

と隣の冒険者が話に入ってくると、続けて

「俺は腕を切り取られて死にかけていた時に助けられたんだよあのお嬢ちゃんに。」

「嘘言うんじゃねえ!お前の腕ついてるじゃねえか。」

「だからあのお嬢ちゃんが、魔法でパーッと治してくれたんだよ。」

「大法螺吹が!教会の神官でもそんな魔法は一人いるかどうかの大魔法だぞ。小娘ができたらそりゃ聖女様だろ。」

などと酒のつまみになりながら二人の噂は、有る事あることで話題に尽きなかった。


今回の合宿10日目にして50階層を攻略した二人は、最終日に60階層主とラスボスに挑んでいた。

「部長コイツが最後の敵ですか?」

「ああそうだ、ラスボス不死竜だ。簡単に復活できないように頭と心臓を細切れか爆散すればOKだ。」

と軽く攻略法を伝えると後ろに下がった。


「分かりました。重力魔法100倍発動!身体強化MAX、身体剛化MAX、魔法耐性MAX・・・行きます!」

と叫びながら、重力魔法で自分を含む空間全てを100倍にしたため、質量の大きな不死竜は動きが制限されていた。

全速力で不死竜の胸目掛けて一本の槍と化した恵は、竜の硬い鱗を突き破りその心臓を破壊した。

その勢いのまま背中から飛び出すと、空を蹴って不死竜の頭に拳を振り下ろす。

「あの子意外と肉弾戦が得意だよな。」

「ゴーンンン」

部長の声が掠れるほどの衝撃音が空間を震わせた。


頭の原型をなくした不死竜が力無く首を地面に倒して動かなくなる。

[不死竜の討伐を確認しました。ダンジョン踏破二人目です。]

と言う合成音が響く。

「部長、今の聞きました?二人目ですよ!今まで部長しか踏破していなかったんですね。」

と言いながら恵は後方の開いた扉からプラチナ色の宝箱を開いていた。



ここは冒険者ギルド特別室


ここでは貴重な素材や宝を鑑定買取するところ。

「これが今回の鑑定額と買取予定額です。宜しかったらサインをお願いします。」

と言う職員の硬い口調に恵は、鼻歌まじりにサインを書き込む。

「冒険者証に振り込んでいきますので、確認をお願いします。」

と言うと職員は新しい冒険者証を恵に手渡した。

「ん!これは新しい冒険者証?色が違うわ・・・SSと刻まれている!」

と言いながら部長を振り向くと

「当然だろうあのダンジョンは今まで俺しか攻略していない高難易度のダンジョンだ。それをほぼ一人で踏破したんだからSSぐらいにはなるさ。」

と言いながら席を立つ部長に続いて私も冒険者ギルドを後にした。

「部長!お風呂お願いしますね。」

と言う私の手を掴んだ部長が一瞬ブレたような感じを受けた次の瞬間、周囲の風景が変わっていた。

「ここは?・・・部長の屋敷のある街ですか?」

と言う私の問いに

「ああそうだ。王都セガールの貴族街の一角だ。目の前の屋敷が俺の屋敷だ。」

と言う屋敷は地上3階建ての豪邸だった。

門を守る私兵が機敏な動きで門を開ける。

すると屋敷側から3人ほどが小走りで近づくと

「おかえりなさいませ旦那様。」

と頭を下げると屋敷までの移動中に簡単な報告を部長にしていた。

私はと言うとメイドのような二人の女性に簡単に採寸されたようで、二人は小走りで屋敷に戻っていった。


玄関というには大きすぎる扉に着くと、中から扉が開かれて広いホールが目に入ったがそれ以上に並んだメイドや執事のような人の列に私は驚いた。

「「「おかえりなさいませ。」」」

揃った挨拶に片手をあげて応じる部長。

「3時間後に食事にしよう、それまでお風呂を楽しんでくれ。」

と言われてメイドさんに連れられる私

「3時間もお風呂に時間かけるはずないのに。」

と独り言を言っていた私、後から納得する。


広い浴場は銭湯やスーパー銭湯を思い起こさせる、それに5人ほどのメイドさんが手取り足取りで私の体を隅々まで美しく磨き上げそしてマッサージをしてくれて身も心もほぐれた私は、心地よい疲れと共に美しいドレスに袖を通し化粧をされて・・・これ誰?と言うほどの化け方をしていた。


ソロソロと慣れぬハイヒールを履き階段を降りる私、食堂に案内されてまたビックリ。

3時間で用意したとは思えぬほどの豪華で大量の料理が並んでいた。

「さあー、食事にしようかお嬢様。」

少しおどけた口調の部長が私に席を勧める。

その後は初めて食べる料理に夢中で箸を動かした私、ナイフとフォークはまだ慣れなくて箸を用意してもらったのだ。

「ああー、美味しかった。ごちそうさまでした部長。」

お礼を言う私に部長は

「君も屋敷を買うかい?今なら余裕で揃えるほどのお金があるよ君。」

と言う言葉に一瞬考えた私は

「可能であれば部長の屋敷を使わせてください。私じゃこれだけの人を使いきれません。」

と言う私に「それもそうか」と答える部長。


寝具も特上の羽毛布団で5分の経たずに深い眠りと旅だった。



「おはようございます。お嬢様。」

『何処かでお嬢様がメイドさんに起こされている見ただな・・・!私のこと!』

慌てて飛び起きた私に3人のメイドさんが頭を下げて

「お着替えと朝の準備に参りまいた、お嬢様。」

と声をかけてきた、私、お嬢様と呼ばれているんだ。

とぼやけた頭で考えながらされるがままに準備が進む。


食堂に降りて行くと、コーヒーを片手に何かを読んでいる部長の姿。

「おはようございます。何を読んでいるんですか?」

「ああ、おはよう。これかい?これはいわゆる新聞みたいなものだよ。」

と言うと見せてくれた。

中身は王都内の情報誌、どこどこ〇〇に評判の店があるとかどこどこの街道は盗賊被害が多いなどの情報が1週間単位で書かれているようだ。

「どこの世界も同じような情報誌があるんですね。」

と口にした私の言葉を拾った部長が

「君のことももうすぐ載るんじゃないかな。[SS冒険者あらわる]と言うような表題で。」

と言われて、私は思わず思考が停止していた。だって異世界の情報誌に自分が載るなんて、考えてもいないこと。

「顔写真がないだけ良かったかも。」

と言いながらテーブルにつき、メイドさんの用意してくれる朝食を口に運んだ。

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