ムルと沙羅

「さて、私はこれから行かないといけない場所があるので……」

『ムルも行く!』

「え、でも……ムルがここを離れるのは良くないのでは?」

『へーきへーき!ムルも新しい聖女に会いたいし!』

そう言うとムルは、私の服に隠れてしまった。

ムルが平気と言うのだから大丈夫なのかもしれないけれど、ちょっとだけ不安だなぁ……

そんな事を考えながら私は、森を抜けて沙羅の屋敷に向かうのだった。

沙羅には、あらかじめ連絡をしていて、あの人がいない事は確認済みだ。

けれど、早くしないと帰ってきてしまうかもしれないし……

「はぁ……あの人が帰ってきてなければいいのですが……」

『あの人ってアルマの事?』

「えぇ、ムルはアルマ様の事知っているのですか?」

『もちろん!でも、ムルあの人きらい~』

「あら?何故ですか?」

「ルカの事いじめてたし、力ないくせに聖女のこと馬鹿にするし……』

「まぁ、アルマ様ったら随分と嫌われていますのね」

『ムル以外の子も多分みんな嫌いだって思ってるよ」

「そうなんですか……」

精霊にすら嫌われているアルマ様を、少しだけだけれど可哀そうだと思ってしまった。

だって、精霊に嫌われた人間はこれから一生精霊の加護を受けられないのだから。

力がない人間にも精霊は付いていて、何かしらの加護を受けることができるのだけれど

精霊に好かれていないと、その恩恵も受けられず力も弱いままなのだ。

だからあの人は私の力に気が付いて無かったのかもしれないけれど……

そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか沙羅の屋敷の前まで来ていた。

門の前に立つと、屋敷の中から執事が出てきて、私に頭を下げてきた。

「ルカ様ようこそおいでくださいました」

「いきなりでしたのにありがとうございます。沙羅さんはいらっしゃいますか?」

私がそういうと、彼はにっこりと笑って中へと案内してくれた。

私達が初めて会った部屋に入ると、沙羅が緊張したような顔でソファに座っていた。

なんだか、あの時と同じだと思ったら思わず笑みが出てしまい、沙羅に不思議そうに見つめられる。

「ごめんなさい、緊張してる沙羅がなんだか可愛らしくて」

「だって~ルカがここに来るなんて緊張するよ…それで、話って?」

「えぇ、実は……」

『わぁ~!君が新しく来たっていう聖女?』

「ふぇ!?な、なに!?」

「こら!ムルいきなり飛び出したらダメでしょう?」

『だって~』

「ルカこの子は……?」

「えっと……湖の精霊様かな?なんか私に協力したいって…」

そんなやり取りをしている間も、ムルは沙羅の周りをくるくると飛んでいた。

沙羅は、突然現れたムルに驚いているみたいで、固まったまま動けなくなっていた。

沙羅は、ムルの方を見ながら私に話しかけてくる。

その目は、どうしてこんな事に?と言っているように見えた。

私はそんな沙羅に、ムルとの出会いから今までの経緯を話した。

「そんな事が……」

「うん……って!今日来たのはこの話じゃなくてね、沙羅学園に興味ない?」

「学園?この世界にもあるの?」

「もちろん、もし興味があるなら学園に入るのはどうかしら?学園長には話してあるから、沙羅が

行きたいって言えばすぐに入れると思うわ」

「学園か……興味はあるけれど……」

「あの人の事?」

「…………うん」

「大丈夫よ、あの人は学園までは追ってこないから……ねぇ?どうかしら」

「少し考えてみる……」

「分かったわ。もし気持ちが決まったら私に教えて頂戴」

「ルカ、色々とありがとう」

「いいえ、それじゃぁ……私達は帰るわね、あの人が帰ってきたら面倒くさいだろうから」

「ふふっ、そうだね。じゃあ、また」

「うん、またね沙羅」

そう挨拶を交わして、私達は沙羅の屋敷を去った。

帰り道もムルは楽しそうにしていて、とても機嫌が良さそうだった。

そんなムルを見ていて、私も沙羅が喜んでくれれば良いなと思いながら家路に着くのだった。

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