ショートショート集(恋愛・ギャグ・シリアス系)

藤崎 柚葉

愚かな乙女は一生分の恋をする

「今回は大丈夫だった?」


 私には、昔から強力な妖力を持つ妖怪が取りいている。その妖怪を私からはらうために、祓い屋のお兄さんが毎週私の家に来ては解放術をかけてくれるのだ。

 妖怪は自信たっぷりに答えてみせた。


「当たり前だ。あんなしょぼい術など、私には一生効かないさ」

「それは良かった」


 私はふんぞり返る妖怪に微笑む。

 私と妖怪の間には、確かな絆がある。他人には知らせていない、ひそかな繋がりだ。


「ねえ、約束を破らないでね。私はまだ……」

「ああ、約束は守ろう。私はお前の寿命を少しずつもらう代わりに、お前から祓い屋の男を奪わないよ」


 この呪いに縛られるのを望んだのは、他でもない私自身だった。

 だって、一生に一度かもしれない。恋は盲目というでしょう?


「命短し恋せよ乙女、かあ……」

「ほう……。人間界にはそんな言葉があるのか」

「ええ、そうよ。人間は妖怪と違って寿命が短いからね。後悔しないように生きないと」

「そうか。ならば、お前は愚かな女だな。その恋は報われないかもしれないだろう?」


 この恋心ごと破滅してもいい。

 あなたのそばにいられるのなら、命を削る代償も悪くない。


「……そうかもね」


 妖怪さん。私の時間をあげるから、私が死ぬまであなたのそばにいさせてね。

 願わくば一緒にあの世へ行けますように。

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