第二話 「狼獣人と盲目奴隷、 生活する」

 


 ......朝か。

 洞穴の入り口から光が差し込む。

 毎日特に予定がある訳ではないが、 これが俺の起きる合図となっていた。

 すっかり隠居の野生生活も板についてきたという事か。



「おはようございますご主人様」



 そんな寝起きの頭に声が飛び込んでくる。

 そうか使用人か。

 主人の起床を近くで待っているとは殊勝な心がけだな。


「朝食の準備も出来ています。 どうぞお召し上がりください」


 オマケにそれに合わせて食事も用意しているとは。

 中々出来た使用人のようだ。

 まぁ高い給金を払っているんだ。

 当たり前と言えばそうなのだがな。


 さてさて、 今日の朝食は何か。

 最近は狩りをした獣をほぼそのまま食べていたからな。

 魔王軍時代の豪華な料理が恋しくなってきた頃だ。

 そりゃ食うものは新鮮に越した事はないが、 味のついた調理してあるものも美味なのは間違いない。

 俺はグルメも分かる誇り高き幹部なのだ。


 主食はパンだろうか。

 目玉焼きやスクランブルエッグがあるといい。

 勿論肉は欠かせないが、 朝はソーセージぐらいが丁度いいだろうか。


 ああ、 そんな事を考えていると魔王軍時代の豪華な思い出す。

 あの頃は良かった。

 戦いに身を投じ連戦連勝。

 それだけで褒美が貰え、 贅沢出来た。

 人間だって気軽に食い放題だった。

 俺の実力とそれに見合う結果があった。

 魔王様にお褒め頂いた言葉、 今でも鮮明に思い出せる。

 それが今や洞穴暮しか。

 今更人間を恨む事はないが、 腹は立つ。

 勇者とか言う者が魔王様を倒しさえしなければ今もまだ......。


 ん? 待てよ、 何かがおかしい。


 魔王軍の生活は過去の栄光だ。

 あの頃の屋敷はとっくに追い出されている。

 ならば先程の使用人は誰だ?

 とっくに解雇された筈だが。


 そこまで考え、 用意された朝食を目にして現実に引き戻された。

 目の前にあるのは豪華な食事ではない。

 その辺に落ちている木の実や果実だった。

 そして思い出す、 昨日買った盲目の奴隷の事を。


「何だこれは。 こんなものが食えるわけがなかろう」


 しかし口から出るのは寝惚けて回想した時代の贅沢な思考。

 まぁ現実的に狼の獣人の俺がこんなもので満足出来る訳がないのだが。

 だがこういう事はハッキリと言っておかねばならない。

 これからこの奴隷は、 俺の使用人として働くのだ。

 主人の好みぐらいは把握しておいて貰わねば困る。


「俺の食事はしっかりと調理したものを用意しろ。 それが無理ならその辺の動物を狩ったものでもいい。 料理の次に生肉、 それが俺の食事だ」


 久しぶりにあの頃を思い出して偉そうに言ってみる。

 どうだ。 この威厳たっぷりの立ち振る舞いは。

 こんな態度を見せれば自ずと言う事を聞きたくなるだろう。

 そう考え女の方を見たのだが。


「そうは言われましても、 わたくしは目が見えないもので......洞穴近くに落ちているものを拾うので精一杯です」


 コイツは事もあろうか主人に口答えした上に、 ただ首を傾げて困り顔を見せるの留まっていた。

 なんて奴だ。 コイツ、 本当に奴隷として今までどう過ごしてきたのか。

 テンシュめ、 本当に厄介払いに俺を使いおって。

 まぁ俺が食う為にと狩った訳だから向こうに落ち度がある訳ではないだろうが。

 それでも全てはテンシュのせいだ。

 いつか食ってやる。


 しかしコイツは相変わらず不気味だ。

 さっきの困り顔以外はずっとニコニコと微笑んでいる。

 少しは、 失敗した事で叱られる恐怖、 とかを感じないのか。

 いやしかし俺は威厳に満ちた獣人だ。

 その偉大さを感じているおかげで恐怖が和らいでいるのかもしれん。

 ならもう少し分かりやすく怖がらせてやるか。


「いいか、 これからは失態の内容によっては処罰も考えるぞ。 俺を怒らせれば何をするか分かったものではないからな」


 俺はそう低い声で告げながら、 わざと鋭に爪で頬を軽く突いた。

 それだけで女の頬にぷつりと傷がつき血が溢れる。

 どうだ、 これなら恐怖を感じたろう。

 さぁ俺に恐れ戦き敬意を払うが......。


「まぁ! この爪で殺してくださるのですね! ありがとうございます! ありがとうございます!! 」

「いいっ!? 」


 予想外の反応に情けない声を上げてしまう。

 なんだこの女! 今ので恐れを感じないというのか!

 それどころか爪に頬ずりをしては嬉しそうに微笑んでいる。

 逆に俺が恐怖を覚えてしまった。


 ......いや、 違うか。

 臭いの中に僅かに怖がる気持ちが混じっている。

 爪に触れる手は震え、 その微笑みはひくついていた。

 コイツ、 本当は怖いのか。

 それは無意識なのか、 それとも隠しているのかまでは分からんがな。

 何にせよコイツは壊れている。 普通じゃない。

 早く何とかしなければ。

 俺の欲しい絶望や恐怖もこんなものではないしな。


「ふんっ! 処罰するから俺が決める。 精々楽しみにしてるんだな! 」

「今じゃ、 ないんですね......ですが、 はい! 楽しみにしております!! 」


 その場を誤魔化すようにそう言ってみたものの、 それに対し一喜一憂する女。

 全く、 何を考えているのか。

 臭いである程度の感情は分かるものの、 本音までは見抜けないからな。

 いつか本性を暴き、 本当の絶望を与えてやろう。


 そこまで考えて俺は洞穴を出た。

 当然、 あんな木の実では腹を満たせないからだ。


「それはお前が食っておけ」


 そう言い残して森に入る。

 結局自分の獲物は自分で狩るしかないか。

 ま、 あんな女に期待など最初からしてはいないがな。

 目が見えない上にただの餌にしか過ぎんのだ。

 いつか必ず幸福にしてやり、 そこから絶望の底へと落としてやる。

 その為には先ずは腹ごしらえだ。


 こうして俺は獲物を追いかけた。

 しかしそんな中で考えてしまう。


 あの女、 置いていった木の実などは食えるのか?


 これは決して心配している訳ではない。

 太らせ幸福にさせる為には奴にも十分で適切な食事が必要と考えただけだ。


 俺は料理の美味さを知ってはいるが、 何より生肉を好む。

 しかし人間は違うだろう。

 木の実と言ってもテキトーなのを選んでは毒にやられる。

 生肉も確か食えなかった筈だ。

 ならば火を起こして焼く必要があるか。


 ......ええい! 何故俺があんな奴隷の面倒を見なければならんのだ!

 本来ならばそっちが世話をする立場だろうに!

 誇り高き魔の戦士がこんな......!


 いかん、 落ち着け。

 これは最高の食事にありつく為の準備だ。

 そこに手を抜いてはいけない。

 決して女の為ではない。

 俺の食事の為に努力をせねば。


 こうして俺は、 自分の分だけでなく女の分まで獲物を狩って帰った。

 特別サービスとして火まで起こして焼いてやったりもした。

 それを夢中になって食う女。

 よっぽど腹が減っていたのか。

 それを主張しないとは、 やはり奴隷としての教育は行き届いているらしい。

 己の立場が分かっているという事か。


 しかしこれならば簡単な話だな。

 こういう事を繰り返していけば女の幸福な気持ちが大きくなる。

 それが最大限に達した時、 絶望させて食ってやるのだ。

 フフフ、 楽しみだな。


 何と容易い、 何と単純。

 俺はこの日、 女を食う事を想像しながら眠りについた。


 ◇◆◇


 が、 話はそう簡単ではなかった。

 この女、 奴隷のくせして贅沢が過ぎるのだ。


 まずは食事の事。

 生肉が食えないから焼いてやるぐらいは許容範囲だった。

 しかしそんなサービスをしてしまったもんだから調子に乗り始めた。


 やれ肉ばかりではいけない。

 やれ綺麗な飲み水が欲しい。

 その他色んな食材を求められた。

 自分で狩りも出来ないクセに生意気な奴だ。


 次に寝床について文句を言われた。


 地面が痛い、 冷たい。

 トイレがない。

 身体を洗えない。

 寒い。

 などなど。

 人間とは洞穴も快適な居住に出来ないのか、 情けない。


 そして極め付けは服の事だ。

 服が欲しい、 靴が欲しいなどと煩かった。

 これから食われる立場の奴がよく言えたもんだ。


 まぁつまりは衣食住に関して散々っぱら不満を言ってきたのだ。

 本当に生意気で呆れた根性した女だ。


 しかしこれを無視する訳にはいかなかった。

 これから幸福にした後に食ってやろうというのだ、 望みを叶えなければそれが実現出来ない可能性があるからだ。

 本当に腹が立つが、 ここは言う事を聞いてやるしかない。


 肉は動物のものだけでなく、 魚なども用意してやった。

 当然焼いて提供してやる。

 他にも臭いで判別し、 女が食えそうな野菜などを持ってきてやったりもした。

 これも焼くぐらいはしてやる。


 洞穴の地面には木の葉や藁を敷いてやった。

 外に穴を掘ってトイレにしてやり、 たまに埋めて場所を変えてまた掘ってやる。

 近くの池に連れて行き水浴びもさせてやった。

 洞穴の入り口から風が入らないように大きな歯を垂らしてやった。


 服は入り口と同じ大きな葉を使わせた。

 俺の毛皮が欲しいなどと言われたがそれは断固拒否した。

 今度立場を弁えなければ追い出すと付け加えて。

 その代わり、 狩った獲物の皮を使って靴も作ってやった。


 このように、 俺は数々のものを女に与えてやったのである。


 ここまですると俺は自分の行動に疑問を持った。

 まるで立場が逆ではないか。

 女を食う為とは言え、 情けない話である。

 今の俺を魔王様が見ればお嘆きになるだろうな。

 しかしそうでもしたおかげか、 女は文句を言わなくなった。

 と言うかそうでなければ困るのだが。


 ここまで至るまでに数日を要した。

 この女を幸福にしてやるのには、 今度こそこれを続けていけばいい事だろう。

 後は俺の我慢がいつまで持つかと言う話だろうか。

 何にせよ順調に共同生活も慣れてきたように思えた。


 だが、 今度は別の問題が発生する。



「ええい! やめぬか! そんな事はせんでいいと言うのに! 」

「ご主人様! いけません! 手入れをしなければ折角のもふもふの毛並みが荒れてしまいます! 」



 これである。

 この女、 事あるごとに俺の身嗜みを整えようとしてくるのだ。

 確かに魔王軍にいた頃には気にしたりもした。

 しかしそれが部隊を率いる統率者として、 魔王様に謁見する時に立派な部下として、 その立場に恥じぬよう心がけていたからだ。

 だが今はただの野良の獣人。

 何をそんなに気にしなければいけないのか。


 まぁそれは百歩譲って許そう。

 しかし極めつけのこれはどうにも容認出来ん。


「ふふふ。 ご主人様のもふもふ。 これがあれば気持ちよく眠れます」


 事もあろうかこの女、 俺が用意したら寝床を使わず、 俺をベッド代わりにしているのだ。

 あの身嗜みを整える毛ずくろいはこの為だった訳である。

 生意気で図太い根性をした上に悪知恵が働くとは本当にムカつく女だ。

 魔王軍に居れば役に立ったかもしれん。

 それがまた無性に腹が立つ。


 オマケにそれに対して文句を言えば、


「ああっ! 遂に終わらせてくれるのですね! 殺して頂けるのですね! ありがとうございます! ありがとうございます! さぁ食べてください! 」


 などと、 期待と的外れの恐怖の感情を見せてくるのだ。

 毎回このような懇願をされれば気が狂うだろう。

 だから俺はコイツの言葉に従うしかないのである。


 しかし俺も丸くなった。

 魔王様がいた頃の俺なら、 このような失礼極まりない女など即効殺していただろう。

 それに今は大きな目的がある。

 その為には我慢も必要なのだ。


 必要、 なのだが......。


 ◇◆◇


「知りませんよそんな事。 文句も返品交換も一切受け付けてませんからね」


 気づけば俺は、 街に出て「テンシュ」に抗議しに行っていた。

 あのような奴隷を売りつけたからには最後まで責任を取ってもらわねばなるまい。

 所謂愚痴をこぼしに来たのだ。

 それでもこんな態度を取ってくるものだから余計に腹が立つ。

 俺の部下だった事を忘れているんじゃないだろうな?

 まぁ貧乏人の俺の相手をしている暇がないからだろうが。

 それでもだ。

 ここの店であの女を買ってから、 気づけば一ヶ月が過ぎていた。

 一ヶ月だぞ? その間俺は、 あの口煩く壊れた女の相手をしてきたのだ。

 そろそろどこかに不満をぶちまけたくなるというもの。

 そしてそれをぶつけるにはコイツしかいないと正当な理由で訪れた訳だ。

 欠陥品を売りつけてきたのだ、 こっちが文句を言われる筋合いは......。


「お客じゃないなら憲兵を呼びますよ? 」

「あ、 いや待て。 今日は日用品をだな......」

「へへへ! 毎度ありです! 」


『憲兵』という言葉に思わず弱気になってしまった。

 前に街で大人数に囲まれてエライ目にあった事がある。

 出来るなら呼ばれたくはない。

 元魔王軍の幹部が情けない話ではあるが、 誇りだけでは戦いには勝てないのだ。

 それぐらい、 この10年で嫌という程に学んだからな。


 それにしても買い物をせぬと話も聞いてくれないとはな。

 元部下に舐められっぱなしだ。

 教育的指導を間違ったと言うべきか、 それともたくましく生きている事に感心するべきか。

 何にせよ、 買い物も誰かに口をこぼすのもここでしか出来ない。

 だからコイツを敵に回す訳にはいかないのだ。

 立場が弱くなったものである。


「というか、 そんなにむかつくんならさっさと食べちゃえばいいじゃないですか」


 愚痴の中であの女をどうしたいかを話したが、 どうやら足りない頭では理解出来なかったらしいな。

 俺の目的はそう簡単なものではないのだ。

 最高の食事をする為には最高の幸福を与え最高に絶望させてやらねばいかんのだからな。

 その拘りが分からんとは......まだまだだな。

「それで苦労していたら本末転倒ですよ」などと言われたが気にしない。

 至高の喜びを得る為にはそれ相応の痛みを伴うのだ。

 出来る魔の者である俺はそれが分かる男なのである。


 そんなやり取りをしながら俺は日用品を買った。

 あれは方便ではなく、 本当にあの女の為に必要なものを揃えに来たのだ。

 俺の技術では服や靴などには限界がある。

 文句を言われる前に用意しておくのも出来る主人と言うものよ。


「あー、 この金額だと大したものは買えませんけどね」


 いつもと同じく、 狩りの際に出た不要物を売って金にしたが、 そんな事を言われた。

 本当に余計な一言が多い奴だ。

 とは言ったものの、 買えた物で充分に思える。

 人間の感覚というものは未だに分からん。


「そうだウォンさん! 仕事を斡旋してあげましょうか! 獣人向けの力仕事ならいくらでもアテはあるんですよ! 」


 急に嬉々として何を言い出すかと思えば、 実にくだらん。

 俺が人間に紹介された仕事を? 馬鹿げている。

 元魔王軍の幹部だぞ? その誇りを捨てるようなものだ。


「......ふーん。 ま、 いいですけどね。 後で困るのはウォンさんですから。 その気になったら教えてください」


 そしてこの態度だ。

 俺を無下に扱うのも大概にして欲しいものだな。

 困る? 何をだと言うのか。

 食うものも住む場所も困ってはいない。

 あの奴隷の世話だって何とかなっている。

 少し衣服や日用品に金はかかるが、 それも狩りの時の副産物を売ればなんとかなる。

 今更金を稼ぐ必要性など見い出せん。

 俺はあの女に与えてやっているのだ。

 それを繰り返せばいずれ幸福にも至るだろう。

 その時こそ思い切り絶望に落とし、 表情を見ながら食う事こそ今の俺の......。


「じゃあ用が済んだなら帰ってくださいね」

「......」


 説教をしていたら軽く流された。

 本当にコイツは腹が立つ奴だな。

 いつか必ず食ってやる。


 俺は恨みがましくテンシュを見ながら店を後にした。

 その時、



「早く帰った方がいいですよ。 だと思いますから」



 などと言われたが、 意味は全く分からなかった。


 ◇◆◇


 洞穴に帰宅すると女の様子がおかしかった。


 食欲がなく、 元気がない。

 寝床の藁の上からあまり動かず、 自分から何かをしようとはしなかった。

 何より、 あの口煩さがなりを潜めているのだ。

 遂に自分の立場というものが分かったのだろうか。

 いや、 そういう訳でない。

 いつもと同じような行動も取るのだが、 全体的にどんくさいというかフラフラしているというか、 そんな感じなのだ。

 流石にこれはおかしいと思い、 調子でも悪いのかと尋ねたが、


「大丈夫でございます。 見ての通り健康そのものですよ」


 などと言う。

 人間の身体の事はよく分からん。

 しかし本人が大丈夫だと言うのだからそうなのだろう。

 それに、 買ってきた服を渡すと大層喜んでいた。

 ボロ布よりも、 葉っぱよりも暖かいと言って早速着ていた。

 少し嫌味っぽく聞こえたがそこは俺も出来る獣人だ、 グッと堪える。

 それにしてもこんな地味で、 俺の白銀の毛皮に見劣りするような服で喜ぶとは、 やはり人間は分からん。


 結局俺は、 その事に気を取られ、 女の体調の事など直ぐに忘れてしまった。



 数日後、 やはり女の様子がおかしかった。

 最初に気づいた時よりも明らかに衰弱しているように見える。

 何よりも、 こうなってから今まで以上に、 寝る時にくっつかれるようになったのだが......身体が熱いように感じられた。

 種族の違う俺でも分かる。 これは、 熱がある。

 しかし本人は、


「これぐらい直ぐに治りますので。 どうかご心配なく」


 というものだから放っておいた。

 獣人は人間のように簡単に弱ったり病気になったりはしない。

 だから感覚が分からないのだが.......やはり本人が大丈夫だと言うのでそのままにした。



 しかし更に数日後、 女は完全に動けなくなった。

 熱も上がり、 食事どころか水分もほとんど取れなくなった。

 そこまできてやっと分かった。


 コイツはこのままでは、 数日のうちに、 死ぬのだと。


 原因が全く分からなかった。

 だからそうしたらいいかも分からなかった。

 どうしてこうなったのか。

 環境が合わなかったのか? いやそんな筈はない。

 俺はコイツの望み通りに住処や生活を変えた。

 それなのにどうしてこんな。

 それに、 この前まで平気だと言っていたじゃないか。

 一体何がいけなかったのか。

 とにかくこのままではコイツが死ぬ。

 なんとかしなければ。


 ......なんとか、 しなければ?


 俺は何を考えているのか。

 何故コイツにそこまでしてやる必要がある。

 この女はタダの餌。

 少しばかり手を加えて高級品にするつもりの食事だ。

 どの道こいつは俺に食われる。

 それを少しばかり延命させてなんになる。

 ......いや、 これはまだ仕込み途中の料理がダメになりそうだから動揺しているだけだ。

 そうに違いない。


「ご主人、 様......」


 女が弱々しい声を上げ、 手を伸ばしてきた。

 腕を動かすのもやっとといった感じだ。

 俺は思わずその手を支えてしまう。


「ご主人様、 申し訳、 ございません。 どうやらもう、 わたくしは、 ダメな、 ようです」


 死期を悟っているのだろう。

 何も見えず、 ただでさえ虚ろだった瞳をさらに虚ろわせそんな事を言ってくる。

 この時、 何かが胸を締め付けた。


「これで、 これでやっと」


 女は何かを言う度にその締め付けは強くなる。

 この感情は何なのか。

 そこに思考を持っていこうとした時、



「これでやっと、 ご主人様に、 食べていただけますね」


「......は? 」



 コイツの言葉で全てが吹き飛んだ。

 思わず素っ頓狂な声が出る。

 コイツ、 何を言っている?


 俺に食べてもらえる、だと?


 ここは情けなくも死にたくないと延命を願うか、

 死を受け入れて穏やかに時を待つかのどちらかではないのか。

 それを俺に食べられる事を望む? 意味が分からん。

 何故わざわざ痛みを伴うような事を考えるのか。


「さぁ、 早く、 ご主人、 様。 わたくしが、 死んでしまう、 前に......食べて、 くださいまし」


 そんな事を考えていると、 女は手探りで俺の身体を探し出し、 掴まり、 起き上がってきた。

 それだけでもやっとの事だろに、 事もあろうか俺の口に手を突っ込んできたのだ。


「先ずは、 腕からなどどうでしょう? ここまでの生活で......少しは肉もついたかと思いますが」


 確かに、 舌に触れる女の腕は多少肉付きが良くなっていた。

 これなら出会った頃よりも美味くはなっているだろう。

 思わず唾液が溢れてくる。


 ん? ちょっと待て。


 俺はそこで、 恐ろしい事に気づいてしまう。


「まさか貴様。 最初から己の死期を悟っていて、 その上でこの俺にあれこれ要求してきたのではないだろうな? 」

「......」


 女は答えなかった。

 それを肯定と取る。

 しかしだとしたらこの女、 やはり壊れている。


 もしそれが事実だとするのなら、

 この女、

 最初から死ぬ間際に俺に食われる事を想定していた事になる。

 その為に少しでも健康体になろうとしたとでも言うのか。


 分からん。 益々分からん。


「何故だ! 何故そこまでする! 確かに俺は貴様を食う為に買った! だがそれを......死にそうになっている貴様が望む通りはないだろう! 」


 思わず叫んでいた。

 恐怖にも似たその感情。

 全く持ってコイツの考えている事が理解出来ない。

 それを問い質したくなるのは至極当然の事だろう。


 触れている部分から伝わってくる熱い体温。

 浅く短い呼吸。

 何も見えていない虚で正気のない瞳。

 それらを感じながら、 俺は女の反応を待った。


 そしてコイツはとんでない事を口走る。



「だって、 嬉しかったんですもの。 わたくしを、 道具としてではなく、 餌として見てくれた。 のですから。 そんな方に身を捧げたくなるのは、 当然でしょう? 」



 更に理解が出来なくなった。

 困惑する俺を感じ取ったのか、 女は力なくもポツポツと語り始める。



 女の故郷は遥か遠く、 二度と帰れぬ場所にあると言う。

 コイツはそこから何らかの方法でこの地に飛ばされ、 右も左も分からないうちに人攫いに攫われ奴隷になったのだとか。


「故郷に帰りたい、 帰ろうとは思わなかったのか? 」

「勿論、 思いました。 ですがそれは不可能なのです。 それこそ、 などしないと無理でしょう。 それに、 その時すでにわたくしの目は光を失い、 奴隷になっていましたから」


 故郷に帰れないという事実。

 奴隷に落とされたというその身。

 慣れない環境で病を患い、 見えなくなった目。

 そして己を道具のように扱い終いには捨てる買い手の主人たち。

 話を聞けば、 コイツが人生に絶望した理由が理解出来た。


 そんな壮絶な環境の中、 女は何度も死のうとしたらしい。

 奴隷となった時から自死を封じられた為、 何とか主人や周りに人間に殺してもらおうとしたと言う。

 しかしコイツは死ねなかった。

 どれだけ周りの人間を怒らせても殺される事はなかったようだ。


 今の俺にとっては、 まだこれまでの主人たちの気持ちの方が理解出来る。

 なまじ人間の雌としては美しいからと言うのも一つの理由だろう。

 俺はそれは食欲として見ているが、 人間の主人ならそれを性欲として感じるに違いない。

 目の見えない奴隷を手元に置いていたのだ、 つまりそういう事だろう。

 しかしそれ以上に、 恐怖を感じたのだと思う。


 コイツのこの狂気、 壊れている心。

 それと死にたがりがどちらが先かは分からないが、 それに恐怖し、 今までの主人は殺すに至れなかったのだと思う。

 この俺がそうなのだ、 人間など耐え切れる筈がない。

 それが重なり、 最終的にはコイツを手放していったのだろう。

 そして巡り巡って俺の所にきた、 そういう事か。



「今までのご主人様は、 わたくしを道具としてしか見なかった。 けれど、 貴方様はわたくしを......命あるものとして食べようとしてくれた。 殺そうとしてくれている。 それが堪らなく嬉しいのです」


 結局コイツの言ってる事は理解出来なかった。

 けれどその背景にあるものは分かった。

 絶望の理由も何となくだが知る事が出来た。


 ......だが、 だからなんだと言うのだ。


 俺はコイツを絶望与えてから食いたい。

 今この女が感じているそれとは違う絶望を。

 それに、 今コイツは幸福すら感じているではないか。

 しかも本心かも分からないような歪んだものを。

 そんな女を、 今ここで食う道理はない。

 だがならばどうしろと言うのか。

 このままでは女は死ぬ。

 コイツに絶望を与える機会も、 食うチャンスも逃す事になる。

 一体どうすれば.....。


「ああ、 ご主人様。 お早く、 このままでは、 わたくしは、 食べていただく前に......」

「っ?! お、 おい!! 」


 しかしそんな事を悠長に考えている暇もなくなった。

 遂に女は完全に意識を失ったのだ。

 迷っている暇はない。


 このまま見殺しにするか、

 それとも食うか。


 今の俺にはこれしか選択肢がなかった。

 俺の力ではコイツの身体を癒す事は出来ない。

 しかし、 しかしだ。


「ふざけるな! 勝手にお前が俺の行動を決めるな! 俺はまだ貴様を食わん! だから死ぬな!! 死ぬんじゃない!! 」


 無茶苦茶な事を言っているのは分かっている。

 だが諦めきれない。

 俺はコイツの、 先を見ていない。

 俺に絶望させられるコイツの姿を。

 それまでこの女を、 食う事も死なす事もする訳にはいかんのだ。

 しかしどうすれば......。



「ああ、 やっぱりこうなってましたか」



 そんな時、 薄暗い洞穴に一つの声が響いた。

 それはこの女のものでも、 ましてや俺のものでもなかった。


「そろそろだって言ったでしょう。 どういうことか分かりましたか? ウルフォン様」


 それは、 あの店の「テンシュ」だった。


 ◇◆◇


 少し時間が経ち、 女の容態は安定していた。

 熱は少し下がり、 呼吸も安定している。

 意識はまだ戻ってはいないが落ち着いて眠れているようだ。

 それもこれも、


「これでとりあえずは大丈夫そうですね」


 このテンシュが施した処置のおかげだった。

 投薬や的確な医療行為のおかえげで一命を取り留めたのである。


 どうやらこのテンシュ、 こうなる事を予見していたらしい。

 なのでわざわざ出向いてやったと自慢げな表情を見せてきた。

 なるほど、 あの時言っていた事はそういう事か。

 しかしだったらあの時もっと具体的に教えて欲しかったものだ。

 この俺がテンシュに対し、 珍しく恩を感じているというのにこれでは素直に礼を言う気にもならん。



 テンシュは昔から多才だった。

 戦うこと以外ならなんでも出来た。

 だからこそ、 人間でありながら俺の配下として迎え入れた。

 飲み込みが早い為色々教えてやったりもした。

 俺にとっては娘のような相手だが......最近は生意気過ぎて手に余る。

 俺が指名手配になっている中、 コイツはちゃっかり人間社会に溶け込んでいる。

 今では立場も逆転している程だ。

 これを子供の反抗期や巣立ちと見るべきか......。

 まぁそんな事はどうでもいい。


「何故そろそろだと思った? コイツの死期をどうやって知った? 」


 今問い質すべきはそこだ。

 もしかしたら、 最初から死期が分かっていて売りつけたのかもしれん。 どうせさっさと食うからと。

 駆け付けたのも、 俺に文句を言われない為に先手を打ったのかもしれんしな。

 だとしたら、 俺には批判をする権利がある筈だ。


 だがそんな考えも先んじて一掃される。


「そりゃウルフォン様のせいですよ。 まぁそのおかげとも言えますがね」


 俺の、 せい?

 それはどういう事だ。


「ちなみに、 今は落ち着いてますがこのままだとこの女、 結局数日のうちに死にますよ? 」

「なっ!? 」


 あまりの衝撃で固まる俺に、 テンシュはやれやれといった感じで話し出した。



 そもそも。

 この女は身体が弱いらしい。

 何故だかは分からないが、 普通子供の頃に罹り免疫が出来ているような病気にさえ簡単に侵されてしまうそうだ。

 それが分かったのも、 店で管理している時に同じような状況になったからだとか。

 それからは体調管理に気をつけていたようだが......。


「それをウルフォン様は! こんなベッドもないような硬い地面で寝かせて! 食事もまともなものを与えず! 服もテキトー! 衛生面も杜撰! こんな環境私でも死にそうになりますって!! 」


 テンシュの話では、 どうやら人間は俺が思っているより何倍も弱いらしい。

 こんな洞穴暮らしではまともに疲労も回復出来ず、 俺の与えていた食事では必要な栄養も得られず、 免疫力が落ちた所に不衛生な環境で病気になってしまうのだとか。

 一時人間のような豪華な暮らしをしていた時、 何故ここまでする必要があるのかと思った事もあったが......そういう理由があったのか。

 しかしだとしたら、 売り手としてそこら辺を伝える義務があるのでは?


「これだから獣人は困るんですよ! 私を養ってくれていた時、 同じような事言っていたので分かってると思ったんですがね! 」


 ......ああ、 確かにそんな事もあった気がする。

 忘れていたのは俺か。

 この話を聞くと、 この奴隷が色々と注文してきたのも、

 俺に食われる為だけでなく自衛の意味もあったのかもしれんな。


 ん? 自衛?


「フフ、 フフフフ! 」

「な、 何ですかいきなり気持ち悪い。 元部下に説教されてプライド崩壊でおかしくなっちゃいました? 」


 思わず笑いが込み上げてくる。

 蔑むような目でテンシュが見てくるが気にしない。

 俺はとんでもない事に気づいた。


 この奴隷の女、 俺に嘘をついたな。

 いや嘘ではないかもしれんが、 食べられる為だけに健康になろうとしていた訳ではないとたった今証明された。

 例えそうだったとしても......コイツには生きる意志があった。

 そういう事だ。


 ならばやはりここで殺す事も食う事もする必要はない、

 生きる意志があるなら生きる希望を見出せる筈だ。

 ならばここで生かし、 それを与えてから絶望に突き落としてやる。

 食うのはそれからだ。


 よし、 俺の気持ちは決まった。

 後は......。


「おいテンシュ。 コイツはこのままだと死ぬと言ったな? どうすれば生かせる? 」


 俺の問いかけに、

「はぁ?! まだ食わないんですか? そもそも今回は特別サービスでウルフォン様の食事のサポートをしようとしただけなんですけど! 」

「そもそも私の名前は......」

 などと余計な事を言ってきたが黙らせた。

 俺が聞きたいのはこの女を生き長らえさせる方法、 それだけだ。

 そこまで突き通すと、 テンシュは渋々語り出す。


 この奴隷、 どうやら毒に身体を蝕まれているらしい。

 さっきまで死にかけていたのは、 疲労と栄養失調により病気に罹ったからで、 それはテンシュの投薬や処置のおかげで何とかなった。

 こちらに関しては、 これからの生活改善としばらく薬を飲み続ければ改善されるらしい。

 しかし毒の方はこのままではどうにもならない。

 即効性のものではないものの、 投薬では取り除けずゆっくりと死に至るのだとか。

 そもそも何故こんな事になっているかと言うと、 まともな服や靴を与えなかった為に森で傷が出来そこから毒されてしまったらしい。

 ええい、 また俺のせいか。

 そんな事よりも毒を取り除く方法はと聞くと、 それは魔術による治療しかないと言う。


「ちなみにその魔術を貴様は使えるのか? 」

「勿論です! 」


 でかした! と褒めてやりたいがこの自慢げな表情に腹が立つ。

 おまけに、


「ちなみにここからは追加料金が発生しますけど、 どうします? 」


 などと言ってきた。

 やはりこれでは礼を言う気も失せる。

 まぁそれはいいとして......俺の答えは決まっていた。


「やってくれ」


 合図にテンシュが動き出す。

 寝ている女の前に座り、 手をかざして詠唱を始めた。

 途端にテンシュの身体や手が光だす。


「ご、 主人様? 一体何が......」


 そこまでした所で女が目を覚ました。

 先ほどまでの死にそうな様子はない。

 魔術の光すらその目には映らないようで、 何が起こっているのか分からずキョロキョロしている。

 大方詠唱の声で起こされたんだろう。

 俺を探してを伸ばしては、 テンシュに気づき更に混乱しているようだ。


「食べては、 くださらないのですか......? 」


 そしてやっと捻り出した言葉がこれだった。

 状況が分からない中、 それだけは理解出来たようだ。

 絶望したように表情が歪んでいる。

 それはそれで心地よい顔だが......俺が与えたい絶望はこれではない。

 だから言ってやる。


「ああ、 まだ食わん。 貴様は俺の所有物だ、 貴様の最後は俺が決める。 だから今回は、 生かす事にしたよ」

「そん、 な......」


 おうおう、 相当絶望しているな。

 コイツにとってこの世こそ地獄、 生きると言う事はそれだけ苦しいのだろう。

 だが俺は知っている。 この女に生きる意志があると言う事を。

 そしてやはり、 俺が与えたい絶望はこれではない......!


「生きろ、 女。 俺が貴様に生きる意味を与えてやる。 俺が食いたいと思うその日まで、 死ぬ事は許さん......! 」

「ご主人様......」


 殆どその場の勢いで出た言葉だった。

 だが案外女には刺さったようで、 それ以上文句も何も言わなくなった。

 しかしそうだな、 先ずは希望を見出して貰う為に、 本当に生きる意味を与えてもいいだろう。

 後で考えておかねば。


 そうこうしているうちに詠唱が終わる。

 テンシュは囁くように呪文を発動した。


「『浄化ピュリフィケーション』......! 」


 こうして、 女の毒は身体から綺麗さっぱりきえさったのだった。


 ◇◆◇



「おはようございますご主人様」



 次の日の朝、 女は何事もなかったかのように俺を起こしてきた。

 今回は流石に寝ぼけて回顧などはしない。


「もう身体はいいのか? 」

「はい、 おかげさまで」


 見る限り、 言葉通り充分に回復したようだった。

 見えない目は相変わらずだが、 それ以外は健康そうに見える。

 まだ多少痩せ気味だが。


「あの、 ご主人様」


 まじまじと女の身体を見ていると、 なんだか気まずそうに話しかけてきた。

 見られ過ぎて不快に思ったか? いやコイツは目が見えないんだった。

 そもそもそうだとしても俺には関係ない話だが。


「この度は、 誠にありがとうございました......! 」


 そんな事を考えてるうちに、 女は頭を下げてきた。

 立ったまま腰を折り頭を垂れる姿。

 それは俺の知らない作法だったが、 感謝と尊敬が込められているのは匂いで分かった。


「このご恩は一生をかけてお返し致します。 もう自ら死にたいなどと申しません」


 どうやら今回の事が効いたらしい。

 少しは考え方が変わったようだ。


「あ、 いやでも、 食べてくださるのならいつでも大歓迎ですが......」


 前言撤回。

 やはり壊れていて危ういな、 この女。


「とにかく! わたくしはこれから、 より一層ご主人様に忠誠を誓いお仕えしたく......」


 それにしても堅苦しい。

 恩を感じ忠節を持って接しようとしてくれているのだろうが、 俺はもう魔王軍の幹部でもない。

 これでは毎日が息苦しくて仕方なくなるだろう。

 ふむ。


 俺は女の方に手を置いた。

 ビクッと震え見えな目でこちらを見上げてくる。

 ええい! 「食べてくださるのですか? 」みたいな期待した表情を見せるな!

 これはそういう事ではない!


「そういえば名乗っていなかったな。 俺はウルフォン・ワードナー。 これから貴様に、 希望と絶望を与える者だ。 貴様、 名は? 」

「......奴隷になった時に名は剥奪されました」


 なるほど、 そういうものか。

 しかし呼び名が必要だな。

 そうだな......コイツは『浄化ピュリフィケーション』で生き長らえた。

 そこからとって......。


「ならばこれからは、 『リフィ』と名乗るがよい」

「っ! あ、 ありがとうございますご主人様! このような奴隷に名など......」

「ああ、ああ堅苦しい。 そういうのは求めておらん。 もっと自然に喋るがいい」

「......それならば」


「これからもよろしくお願いします! ウルフォン様! 」


 女は、 リフィは笑った。

 これまで見せた事のないような透き通った笑顔を見せてきた。

 そこにあの、 張り付いたような無理をしているような歪みはない。

 俺はその笑顔に、 最初にあった時の衝動を覚えていた。


 美しい。

 食いたい。


 必ずコイツを幸福で満たし、 そこから絶望に落としてやろう。

 そう思った。



 こうして一つの危機は去った。

 しかし問題は山積みだ。


 まずは生活環境を変えねばならん。

 ここで暮らせばまた同じ事が起きるだろう。

 ならば普通の人間のように暮らすしかあるまい。

 しかしそうなると、 必要なものがあるか。

 ......ううん、 気が進まんが、 これも美味い人間にありつく為だ。

 やってやる。 やってやろうじゃないか。


 新たな決意も胸に、

 今日も新しい一日が始まろうとしていた......。



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