第25話 葬具の真実
「俺は、リベラ・ブラキウム。君たちを殺す、霊魔種の名前だよ」
クレスの身体を乗っ取り、悠然と立ち上がるリベラと名乗る存在。
先ほどまで彼の身体から迸っていたのは刺すような殺意だった。
だが、今は違う。
カノと対峙したときに似た、しかしそれ以上の圧倒的な威圧感。
この場の誰よりも格上の存在であることは明らかだった。
「第二ラウンド、ってところか……? 勘弁してくれよ……」
恐怖での震えを誤魔化すように、苦笑いを浮かべるシオン。
実際、魔力も体力も限界が近いことは事実だった。
この状態で、今まで以上に強力になった敵と戦うなど、無茶にもほどがある。
「というより何で、葬具から霊魔種が……!? 葬具は霊魔種を殺して創るもののはずでしょ……!? 生きてるはずがない……!」
そして、カノもまた目の前で起きた出来事に困惑していた。
葬具とは、霊魔種の死骸から創り出された兵器。
彼らがどれだけ強大な存在だとしても、武器にされた状態で生きているなんてありえない。
イリスの話では、葬具の素になった霊魔種は怨嗟の声を上げ続けているらしい。
だが、そうだとしても、クレスの身体を乗っ取り、この世に再び蘇ることが出来るものなのだろうか。
「ふむ……。どうやら君、あるいは君たちは、いくつか勘違いをしているらしい」
そんなカノの困惑を見て、リベラはシオンたちが葬具についての認識を謝っていることに気が付いた。
「枷を壊してくれた礼に、葬具がどういったものなのか教えてあげよう」
リベラは、ゆっくりと二人の方へと近づきながら、淡々と呟く。
「葬具が、霊魔種の死骸から創り出された武器、というのは間違ってはいない。ただ、正解でもない。その情報は、最新のものではないからだ」
二人が瞬きする間に、リベラは彼女たちの傍まで移動していた。
「っ!?」
驚き後方へと飛び退く二人に見向きもせず、話を続ける。
「長い戦いの果て。不老不死を奪われた我々は、それでも死から遠い存在になるため、肉体を捨て、魂だけの存在となった。今の霊魔種に、肉体を持つ者はほぼおらず、対抗手段も少ない」
彼は、足元に転がる葬具だった、金属片を手に取った。
「そして、その対抗手段の一つがこの葬具と呼ばれる兵器だ。これは、我々を完全に閉じ込める檻であると同時に、動力源として魂をすり減らすことで抹殺するための処刑器具。つまり──」
リベラは、金属片を地面に落とし、そして欠片全てを粉々に粉砕する。
「葬具は生きている。最新のものになればなるほど。彼らの魂は、檻から抜け出そうと、強く反発しているはずだ。そこで倒れている彼女の持つ葬具のようにね」
「……!? じゃあ、このまま葬具を使い続けたら、イリスは……」
「ああ。確実に、あの中に眠る霊魔種の魂に喰いつくされ、依り代にされるだろうね」
シオンは、愕然とする。
このままでは、イリスは近いうちに死ぬ。
この戦いがどうなろうと、彼女の運命は決まっていると、リベラは推察したのだ。
「あなたみたいに、ってこと?」
「まあ、正確には少し違うが、こういう形になるだろうね」
「……? どういうこと?」
カノは彼の言い方に引っ掛かりを覚えた。
まるでリベラは違うような言い方だった。
「この男の使っていた葬具の素になった霊魔種は俺ではない。俺は、人間種の王に憑りついていたところを、この葬具の中に封じ込められ、葬具の威力向上のために使われていただけだ」
その罵る口調からは本気の殺意と憎悪を感じられた。
だが、そこにあるのは葬具に封じ込められた怒りだけではないような気がした。
「それで、お前は何が目的なんだ……?」
黙って話を聞いていたシオンは、彼の目的が一体何なのか疑問に感じた。
人間種の王に憑りついて、何を為そうとしているのか。
「──カギだよ」
「カギ……?」
「そう。各種族の王の身が持ち得る特殊なカギ。これらを集め、封じられた不老不死を取り戻し、再び神として君臨する。それこそが霊魔種の絶対の目的だ」
彼の、霊魔種の壮大な目的に、シオンは理解できなかった。
そして、隣で彼の言葉を聞いていたカノもまた、理解できずにいた。
同じ霊魔種でありながら、肉体を捨てる在り方も、不老不死を取り戻す目的にも、何も共感が出来なかった。
自分と彼との差は一体何なのだろうか。
「さて、話はここまでだ」
しかし、カノの思考を遮るように、リベラは話を終わらせる。
「この男をここまで追い込んだ君たちの力は正当に評価し、敬意を表している」
彼の身体から、膨大な魔力が迸り、シオンとカノはすぐに一体化し、攻撃に備える。
リベラの瞳に光輪が浮かび上がり、魔法が発動すると同時に、シオンは駆け出す。
様子見をする余裕など、今のシオンにはない。
攻撃が放たれる前に、彼を打ち倒す。
また、それが無理だったとしても、並大抵の攻撃なら傷つくことはない。
クレスとの戦いで、鎧の防御性能は把握できている。
今はとにかく先手を打つことが優先。
短期決戦を狙うシオンを目掛けて、彼の手から放たれたのは緑色の斬撃。
横一文字に放たれた斬撃は、範囲こそ広いものの、速度自体はクレスの斬撃よりも遅い。
これならば余裕で回避し、一気に距離を詰めることが出来る。
「がっ!?」
そんなシオンのほんの少しの油断を突くように、シオンの胴体に斬撃が襲い掛かる。
「故に、君たちを目的達成のための障害と認定し、全力で殺してあげよう」
腹部から血を流し、吹き飛ぶシオンを見つめながら、リベラは無慈悲な殺戮を開始した。
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