第6話 少女二人旅
翌朝、目を覚ました二人は再び馬に乗って、草原を駆け抜けていく。
「それで、どこに向かってるの?」
「んー? 機械種の国だよー!」
どこに向かうのか知らないシオンの問いに、イリスは明るく答える。
「機械種っていうと確か……未知の技術を持つ種族だったよな? 何しに行くの?」
「それは……」
「それは?」
「……着いてからのお楽しみ!」
「えー!? 今露骨に話逸らしたでしょ? 気になる―!!」
和気藹々と話しながら、着実に進んでいく二人。
「あ、そうだ。昨日の話の続きしよっか。どうせまだ、道のりも長いし」
「怪しい……怪しいけど、その話も聞きたいから聞かせてください」
「えへへ、了解!」
不満げなシオンのお願いを、イリスは上機嫌で受け取る。
「昨日、精霊種と霊魔種が他の種族を生み出したって言ったけど、彼らが生み出したのはそれだけじゃないの。何かわかる?」
「んーっと……国……?」
「おー。大体正解! 正解は大陸そのものだよ」
「た、大陸……?」
「そう。彼らは、自分が住みやすい大陸を、自分たちの持つ力を使って、一から創り出したの」
「力って……?」
「──精霊術と魔法よ」
「精霊術と魔法……」
お伽噺やファンタジーの中でしか聞かないような単語に、シオンは息を呑む。
「この世界には微精霊と霊脈っていう二つの力の源泉があるの。微精霊の力を借りて、発動するのが精霊術。霊脈から霊力を吸い上げて、圧倒的な力を行使するのが魔法。ちなみに、どっちの種族がどっちの力を使うのかは、何となく分かる……?」
「んー、まあ……? 精霊種が精霊術で、霊魔種が魔法……だと思う」
「そうそう! まあ、この話もまだ細かい話があるんだけど、今はそれだけ分かっててくれれば大丈夫」
言葉のイメージだけで答えただけだったが、彼女の質問に正解できたことにシオンは安堵する。
「そんな精霊術を使って、精霊種が創り出した大陸はフィエルデ大陸。霊魔種が魔法を使って生み出したのがイルスタリア大陸。イルスタリア大陸は霊脈が集結しているっていうくらいしか特徴がないんだけど、フィエルデ大陸は、面白い特徴があるの」
「面白い特徴……?」
「うん。フィエルデ大陸はね、空に浮遊しているの……!」
「え……!?」
彼女の言葉に驚き、シオンは空を見上げる。
「ふふっ。肉眼じゃ見えないよ」
シオンは、頑張ったら見えるのではないかと、遠い空を見つめるが、イリスの言う通り、肉眼では蒼く澄み切った空しか見えなかった。
「一体どれだけ上空に浮いてるんだよ……」
「霊陽よりは低いと思うけど、大分上空だよ。あと、現在地を捕捉されないために結界も張られてるからね」
「滅茶苦茶だな、精霊種……。……ところで、霊陽って?」
精霊種がでたらめな種族であることを理解したシオン
それと同時に、聞き慣れない単語の意味を問い尋ねる。
「え……? 頭上で私たちを照らすてくれてるでしょ……?」
「あー……」
イリスの心底不思議そうな説明で、霊陽とは太陽のことを指すのだと理解出来た彼女の頭の中には、次の疑問が浮かび上がる。
「じゃあ、月……じゃなく、夜の間、空に浮かんでる光の球は何て言うの?」
「ん? 魔月のこと、だよね?」
「ふむふむ……。ちなみに、星は星……?」
「う、うん。そうだけど……。シオンって、本当にこの世界の人じゃないんだね……。改めて実感しちゃった」
「あはは……」
呆れとも哀れみとも取れる、何とも複雑なイリスの反応に、シオンは苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「えーっと……何の話だっけ?」
「今、イルスタリア大陸とフィエルデ大陸の話をしてたところだよ」
「あ、そうだった!」
「じゃあ、今オレたちがいるのってイルスタリア大陸ってこと?」
「ううん。今私たちがいるのは、オルベリア大陸。最初からこの世界に存在してた大陸で、精霊種に生み出された種族たちが住む大陸だよ」
「つまり、この世界には大陸が三つあるってことか……」
「そういうこと!」
「何か、色々聞いてごめん……。迷惑じゃない……?」
何も分からない状態からは脱したシオンだが、聞けば聞くほど疑問が湧いて出てくる。
彼女のたびに同行させてもらっているうえに、質問ばかりして、迷惑でしかないのではとシオンは思っていた。
「はぁ……シオンって、自己肯定感低い……?」
そんなシオンの疑問に、イリスはため息をつきながら、彼女の方を振り向いた。
「私はね、そういう苦労も全部ひっくるめて、君を助けるって決めたんだよ? この世界のことを何も知らないし、他の世界から来たなんて言われた時から、こうなるのは分かってたしね」
その言葉とは裏腹に、イリスは楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「それでも申し訳ないって思うなら、あなたがいた世界のことを私に教えて……? 私、シオンが昨日寝言で言ってた、けーき、って言葉が気になるの」
「え? オレ、そんなこと言ってた……?」
「言ってた言ってた! 『んー……。それ、オレのケーキ……』って」
「えー!?」
自分の間抜けな寝言を聞かれたことに照れるシオン。
「ふふっ。──それで、私の言ってること、間違ってるかな……?」
そんな照れるシオンを真っ直ぐ見つめるイリス。
「……ずるいなぁ、イリスは。そんな風に言われたら何も言えないよ……。それに、イリスの言うことは間違ってない。……でも、本当にそんなことでいいの?」
「むぅ……。じゃあいいよ。そこまで言うなら、もう一個付け加える」
「な、何……?」
まだ躊躇するシオンの態度が不満なイリスは、拗ねたような反応を見せる。
彼女のその反応に、一体どんな無理難題が飛び出すのか少し怯えるシオンだったが、彼女の口から零れた言葉は、シオンをの予想とは違うものだった。
「──いつか、私が困ってたら、その時は私のことを助けてくれる……?」
「──」
それは、シオンをからかったり、ふざけて言っているわけではないことはすぐに分かった。
その言葉の奥に隠れた彼女の本心は分からない。
でも、きっと彼女はいつかそういうときが来ると分かっているような気がした。
「──分かった。絶対に君を助ける。どんなことが起きても、必ず君を助ける。約束するよ」
「……えへへ。ありがとう、シオン」
シオンの真っ直ぐな誓いの言葉に、イリスは心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべた。
そして、緊張感が解けるようなお腹の鳴る音が響いた。
「……そろそろ、お昼ご飯にしよっか! お腹空いたよね」
照れ笑いしながら、イリスはシオンに昼食にしようと提案してきた。
「それは確かにそうだけど、何食べるの……?」
彼女の提案を断る理由はなかったが、一体何を食べるのか疑問だった。
昨日の夜は川魚や木の実、果物を食べていたが、今いる位置からはそういったものは見つけられない。
何か非常食みたいなものを持っているのだろうか。
「それはもちろん……その辺にいる魔獣をハンティングするんだよ!」
「え……えぇー!!」
そんなシオンの疑問に、イリスはとんでもない解答を返すのだった。
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