2#7



バイトを終えて帰路。自宅のアパートが見えてきた。


外から俺の暮らす部屋の窓を見ると、普段はついてるはずの無い明かりがついている。聖歌ちゃんが既に部屋に居るのだろう。ちょっと不思議な感覚だ。


ガチャリと扉の鍵を開けて中に入る。


俺が帰ってきたのに気がついたのか、軽い足跡が聞こえて、聖歌ちゃんがひょっこり姿を現した。



「おかえりなさい!」


「あっ·····えっと·····。た、ただいま·····」



満面の笑みを浮かべて俺を出迎えてくれた聖歌ちゃんにおもわず感情が溢れてきた。


気がついたら俺は聖歌ちゃんに抱きついていた。


俺の突飛な行動にも聖歌ちゃんは嫌な顔ひとつせず、そっと優しく抱き返してくれる。



「どうしたんですか、急に抱きついてきて。そんなにママが恋しかったんですか?」


「いや·····うん·····。多分そうかも·····」



家に帰って「ただいま」というのはおそらく普通の事なんだろう。だけど、俺はこれまでの人生でその言葉を一度も言ったことが無かった。


誰もいない暗い家に帰り、自分で部屋の明かりをつけて、ずっと1人ですごしてきた。


俺にとってはそれが普通で当たり前の事だった。


ギュッと腕の中のぬくもりを抱きしめる。



あったけぇ。



「さっくん」


「なに?」


「帰ってきたらまずやらなくちゃならない事があります!」


「やらなくちゃならないこと?」


「おかえりなさいのちゅーですっ!」


「んっ·····。わかった」



目を閉じて口を突き出してくる聖歌ちゃんに併せて俺も目を閉じて唇を重ねた。


そっと触れるだけのキス。柔らかい。それに甘い匂い。聖歌ちゃんの匂いだ。


唇を離して聖歌ちゃんを見る。頬を赤く染めて嬉しそうにはにかんでいた。可愛い。



「もう1回いい·····?」


「いくらでも、好きなだけ、さっくんが満足するまで·····いいですよ?」



聖歌ちゃんのその言葉に、今はすんなり甘えさせて貰うことにした。


何度も何度も啄むようなキスを繰り返し、繰り返す。


何度しても飽きない。それどころかする度にもっとしたくなってくるから不思議だ。



唇が離れた隙をついてぺろぺろと聖歌ちゃんの舌が俺の唇を舐め始めた。お返しとばかりにその舌を自分の舌で絡めとる。


ちゅぱちゅぱと水音が鳴る。


お互いの舌を絡めあわせて、触れるだけだったキスがあれよあれよとみだらものに変わっていった。


呼吸も忘れて夢中になって聖歌ちゃんの口を貪った。絡めて、すって、お互いの唾液を混ぜて、捏ねて、飲んで、飲ませて、のめり込む。気持ちいい。


もっとしていたかったけど、お互い息が続かなくて口をはなした。名残惜しげに混じった唾液が橋を作って途切れる。



「はぁ·····はぁ·····」



お互いの荒い呼吸が重なった。


見つめ合う。とろんと蕩けて蒸気した表情は完全に出来上がっている。熱い視線が俺を捉えていた。



「さっくん·····」



甘えた声で俺を呼ぶ聖歌ちゃん。ただ名前を呼ばれただけなのにいろんなモノがはち切れそうになった。



「ママ·····お仕事頑張ってお疲れのさっくんの為にお風呂を沸かしておきました·····。だから、ね?ママと一緒にお風呂入りましょ·····?」



プッツンと俺の中で何かがキレた気がした。



「きゃっ·····!」



ママをお姫様抱っこで抱える。小さな悲鳴が上がったが、それに構わず、そのままママを風呂場に連れ込んだ。







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