くたびれたおっさんサラリーマン、ダンジョンでペット配信者となる。バズったおかげで会社を辞めて、モンスター牧場でスローライフを満喫する
水間ノボル@『序盤でボコられるクズ悪役貴
第1話 くたびれたおっさんサラリーマン、スライムを拾う
午後11時。俺はまだ会社のオフィスにいた。
外を見ると、まだ部屋の灯りがついているのはうちの会社だけだ。
俺は斧田系一郎(おのだけいちろう)。WEB制作の会社に新卒で入社して、7年になる。29歳の独身の独身男だ。
納期が迫っていて、帰りたくても帰れない状況。最初は辛かったが、今ではすっかり慣れてしまった。いや、慣れてしまっていいのか……
ともかく、俺は会社に飼い慣らされているということだ。人はそれを、「社畜」という。要するに「会社のペット」って意味だ。
「ふう……やっと終わった」
俺が退社したのは、結局、午前1時だった。
立派な「会社のペット」の俺は、会社の近くに引越した。同僚はそんな俺を「意識が高い」というが、上司からは家が近いからという理由で無茶な仕事を任されるようになった。
夜の道を自転車で走る。
朝9時から午前1時まで働いていたから疲労とストレスで目がだんだんと霞んでくる。
「やべえ……家まで辿りつけるかな……」
目をこすりながらペダルを漕ぐと、
「うわああああ!」
俺は思いっきり転んだ。
何か柔らかいものが前輪に当たったような……?
幸い、左足から転んだから怪我はなかった。
「いったいあれはなんだ?」
電柱の影に隠れている、あの青いぷにぷにの物体は――
スライム。
住宅街の道端の、スライムがいる。
ダンジョンに住まうモンスターだ。
今から20年前、世界中にダンジョンと呼ばれる迷宮が出現した。ダンジョンは入る度に、内部の構造が変化し、危険なモンスターと呼ばれる生き物が生息していた。
「こんなところにどうしてスライムが……?」
普通、モンスターはダンジョンの中から出てこない。
モンスターは、ダンジョンに眠る魔石と呼ばれる鉱物から放たれるエネルギー、マナがなければ、生きられない。
スライムは今にも息が絶えそうだ。
「ぎゅるるるる……」
スライムはつぶらな瞳で、俺を見つめていた。
どうやら、助けを求めているようだ。
「悪いな……。俺のマンションはペット禁止なんだ」
俺はふと、子どもの頃を思い出す。
……小学生の頃、俺は、帰りの通学路で捨てられた子猫を拾った。
小さな三毛猫で、このスライムと同じくらいの大きさだった。
親に泣きながら頼んで、俺は子猫を家で飼うことにした。
名前は、シャオ。
オスで生後3ヶ月だった。
シャオを抱き上げて時、本当にすげえかわいくて、世界で俺だけを頼りにしている感じが、子どもの俺は嬉しかった。
だけど――
「すぐ、死んじまったんだよな……」
子猫は一週間で死んでしまった。
俺が学校帰ってきた月曜日、シャオは冷たくなっていた。
「あの時みたいな思いは、もうしたくない……」
20年前に成立した、ダンジョンモンスター規制法で、モンスターをダンジョンの外で見つけたら、警察に通報しなけばならない。
警察に捕まったモンスターたちはその後、保健所に連れて行かれて、殺処分される。
「自力でダンジョンに戻ってくれ……」
俺はスライムに背を向けて、自転車に乗った。
ゆっくりとペダルをこぎ出す。
せめて、俺は通報しないでおこう。
「ぎゅるる……」
スライムは俺に着いてきた。
「……追いかけないでくれ!」
俺はペダルを強く踏み込んで、走っていた。
◇◇◇
「ふう……。なんとか巻けたか」
マンションの駐輪場で、自転車に鍵をかけたその時、
「ぎゅるるる……」
俺の背後に、スライムがいた。
「追いかけてきたのか」
かなりスピードで走ったはずなのに。
今にも死にそうだったけど、いったいどこにこんな力が残っていたのか。
「うわ!」
スライムは俺の右足に飛びついた。
生暖かいスライムの体温が、伝わってきた。
「ぎゅるるるる……」
ひどく悲しげな声を上げる。
「仕方ない、か」
俺はスライムを抱き上げた。
子どもの頃、シャオを抱き上げた時みたいに――
「さて、どうしようか?」
もちろん俺は、スライムなんて飼ったことがない。
とりあえず、ダンジョンに近い環境を作ることにした。
「タンスの中に、入れておくか」
タンスの中なら、ジメジメして暗いから、ダンジョンに近い環境……だと思う。
「エサとかどうしようかな」
俺は動画投稿サイト、ミーチューブを見てみた。
「ダンジョン配信者で、スライムの飼い方とか解説している人いないかな?」
ダンジョン配信者。
ダンジョン配信者は、探索者としてダンジョンに潜りながら、ミーチューブで動画配信をしている。
20年前、世界にダンジョンが出現してから、探索者と呼ばれる危険なダンジョンに潜る者が現れた。
探索者は、ダンジョンに眠る魔石や、レアアイテムを集めて、それらを高値で売って稼いでいる。完全な実力主義の業界で、己の力だけを頼りに生きている。
俺のような社畜とは、まさに対極の存在だ。
「ダンジョン配信者でも、モンスターを飼っている人はいないな……」
モンスターは探索者の敵だから、わざわざモンスターを飼おうなんて変わった人はいなかった。
「きゅるる……」
タンスの中で、スライムは力のない声を出す。
「やっぱりダンジョンに返してあげないとな……」
俺はスマホで「東京 ダンジョン」でググった。
「東京にあるダンジョンは、上野ダンジョンか……」
ウィキペディアンによれば、かつて「上野公園」と呼ばれていた場所にできたダンジョンだ。
日本では5つのダンジョンが発見された。
東京の上野ダンジョン、神奈川の箱根ダンジョン、滋賀の琵琶湖ダンジョン、北海道の釧路ダンジョン、そして沖縄の那覇ダンジョンだ。
上野ダンジョンは日本最難関のダンジョンと言われる。低層から高ランクのモンスターが出現する。
モンスターは危険度によって、FランクからSランクに分けられている。
Fランクのモンスターなら子どもでも倒せるが、Sランクのモンスターは一流の探索者パーティーでも苦戦する。もしSランクモンスターがダンジョンの外に出てきたら、自衛隊が出動することになっていた。
スライムは最弱のFランクモンスターだ。
飼っていても危険じゃないだろう。
……おいおい。なんで飼うことが前提なんだ。俺はこの子をダンジョンへ帰してやらないといけないのに。
「ぎゅる……」
いつの間にか、スライムはタンスから出て俺の足にすがりついていた。
か、かわいい……
ブルーの流線形のボディはぷにぷにして柔らかい。
俺はスライムの頭を撫でた。
「うお……! ぷるんぷるんしてる……」
気持ちよくてずっと触っていたい。癖になりそうだ。
「きゅるる……?」
スライムも俺に触れられて、喜んでいるみたいだ。
――プルルルルル!
スマホが鳴った。
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