第23話 お泊りの定番と言えば恋バナやトランプ
「私達を差し置いてお風呂を楽しむとか酷い先輩達ですね」
服を着てテントの方へ戻った俺達をジト目の氷上が迎えてくれた。
「俺達が入り終わった後に教えるつもりではあったぞ?」
単に先に入りたかっただけで。
「でも先に教えておいて欲しかったなあ…」
「あっ、覗き魔」
「違うよ⁉︎もうっ!」
まだ若干赤い顔をしながら気不味そうな吉崎をからかってみる。するとプリプリ怒りながら頬を引っ張ってきた。
「痛いんだが?」
「知らないっ!」
普段より余裕のない吉崎はちょっと凶暴だ。
「まあまあ、落ち着けよ。風呂でも入って落ち着いたらどうだ?」
新しい扉を開きかけていた夏川が吉崎を宥める。夏川は普段通りなので目覚めはしていないようだ。
「えっ⁉︎で、でもやっぱり外で裸になるのはちょっと…。他に誰もいないとはいえ…」
風呂には入りたいようだが、やはり外で裸になるのは抵抗があるのか女性陣は躊躇している。
「水着を着ればいいんじゃね?」
「それもそうですね。それじゃあ行きますか」
「わーい!お風呂だー!」
「早く行くのです!」
躊躇していた女性陣だが水着を着ればいいと言ってやればすぐに向かって行った。やはり風呂には入りたいらしい。
「……吉崎は行かないのか?」
未だに俺の頬を引っ張っていた吉崎に声をかけたら溜め息を吐かれた。
「全員一緒には入れないだろうし、誰かさん達が覗くかもしれないから見張りは必要でしょ?」
「あ?見損なうなよ吉崎!オレ達がそんなことをするとでも⁉︎」
「夏川の言う通りだ。もっと俺達を信用しろ」
そうやって抗議すると吉崎はジト目でこちらを見つつ口を開いた。
「中学の修学旅行で女子のお風呂を覗こうとしてなかった?あなた達だけじゃなくほとんどの男子がだけど」
その言葉にバッと目を逸らす俺と夏川。
「記憶にないな〜?ハルは覚えてるか?」
「いや?俺もそんな記憶はないな」
吉崎のジト目から目を逸らし白々しい会話をする俺達。修学旅行ではしゃぎまくって、誰かが言った「修学旅行と言えば覗き!まさしく青春の1ページ!」って言葉に乗せられてテンションのままに女風呂に突撃なんかしてないよ?当然の如く先生達が見張りしてたし。
「見張りがいなかったら覗いてたんだ?」
「それはもちろん…って、痛いんですけど」
うっかり本音が漏れたら吉崎が両方の頬を引っ張ってきた。
「覗きは犯罪だよ?」
「実行してないからセーフ…イテテッ!本気で覗く気なんかなかったって!修学旅行で女風呂を覗こうとしたっていう思い出作りをしただけだって!」
つねる力が強くなったので弁明をする。漫画とかでよくネタにされることを俺達もやろうぜ!ってノリだったんだよ。本当に覗こうとしてた奴は(多分)いない。
そうやって弁明してると吉崎は溜め息を吐いてようやく俺の頬から手を離した。
「はあ…なんで男子ってそんなバカなことするの?一歩間違えば大問題だよ?」
「なんでって言われてもな…前も言った気がするが思春期の男子なんてバカな生き物だし…」
「その場のノリで生きてるからなぁ」
そう言うと吉崎はもう一度溜め息を吐いた。さっきから溜め息ばかり吐いてるけど幸せが逃げるぞ?
「誰のせいだと思ってるの?」
親切心で忠告したら再び頬を引っ張られた。解せぬ。
あの後俺達を信用したのか単にバカバカしくなったのか吉崎も風呂に向かった。
「なかなか貴重な体験でした。普通の露天風呂とはまた違った趣がありますね」
「かいほーかんがすごくて気持ちよかったのです!」
しばらくしたら氷上達が戻ってきた。満喫してきたようでなにより。
「あれ?お兄さん頬が赤くなってない?」
吉崎に引っ張られていたせいで赤くなっていたのか近くに寄ってきた彩音が俺の頬を見て首を傾げる。
「吉崎にやられた。氷上といい吉崎といい俺の頬を引っ張り過ぎじゃね?」
「お兄さんがアホなこと言うからじゃない?というかお兄さんだってよく私の頬を引っ張るじゃん」
「それはお前の頬がぷにぷにしてるのが悪い」
「なにそれ!」
「待て。お前まで俺の頬を引っ張ろうとするな」
俺の言葉に納得出来なかった彩音が俺の頬を引っ張ろうもしてくる。しょうがないだろ?彩音の頬はつい引っ張りたくなる。何かやらかさないと引っ張らないが。
あしらおうとしてもムキになったのか彩音がひたすらに頬を引っ張ろうと手を伸ばしてくる。俺の目の前でチョロチョロしている彩音からはシャンプーの良い香りがしてくる。風呂上がりの女子ってなんでこんなに良い香りがするんだろうね?
「戯れ合うのもほどほどにしておかないとせっかく風呂に入ったのに汗かくぞ?」
彩音と戯れ合ってるとライトをいくつな設置していた夏川が嗜める。
「はーい」
俺の頬に手を伸ばしていた彩音は手を下ろしてそのまま抱き着いてくる。なにしてんの?
「んー」
なにが楽しいのか上機嫌で俺の胸に頬擦りする彩音。さっきまでムキになって人の頬を引っ張ろうとしてたのにこの変わり様。
「相変わらず仲が良いですね」
呆れた表情でそう言う氷上の手にはトランプが。
「夜はまだまだこれからです。トランプでもしましょう」
「おっ、いいな!修学旅行の夜みたいで!」
ライトを設置し終えた夏川がそう言いながらやってくる。
「そうですね。私は修学旅行の夜はトランプも恋バナもしないでさっさと一人で寝ましたけど」
「「「「「………」」」」」
その言葉に俺達は何も言えない。時々ぼっちネタ放り込んでくるなこいつ。
「ま、まあトランプや恋バナだけが修学旅行の楽しみじゃないからな!」
「夏川先輩は先輩や他の人達とバカなことやって盛大に楽しんだようですね。あいにく私は一緒にバカなことやってくれる友達はいませんでしたが」
「「………」」
夏川がフォローしようとするが、再び何も言えなくなる。
俺達の学校の修学旅行は京都だったんだが、バスの中でカラオケして盛り上がったり、仏像とツーショット撮ろうとして怒られたり、清水の舞台から飛び降りてみようとしてみたけど高すぎてビビったり、女風呂覗こうとしたり、罰ゲームありでトランプしたり、枕投げしてて見回りに来た教師の顔面にぶち当ててしまったり、恋バナしたり、舞妓さんをナンパしてみたり、道を聞いてきた外国人を案内しようとして迷子になったり、そのまま食べ歩きしたり、お土産屋で買った木刀でチャンバラしたり、お土産に買った八つ橋を帰りのバスで食べたりと好き放題していた。
楽しかったけど思い直してみるとロクでもないな。
「まあ別に気にしてませんが。一人でも楽しめましたし」
実際に気にしてなさそうなので反応に困る。今からでも同学年で友達をつくるように言った方がいいのだろうか?
「そもそも私の学年の人達はみんな割と真面目で面白味がないんですよね。トランプくらいはしてましたが先輩達みたいにバカなことはしてませんし。普段から」
先輩達が卒業してからウチの中学は平和でつまらないです。そう言う氷上に複雑な表情をする俺達先輩組。反面教師にされたのかな?
「まあそんなことよりトランプしましょう」
「そうだね!いくらでも付き合うよ!」
この後めちゃくちゃトランプした。
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