日用品の天使
雨森灯水
1人目
この世界には天使がいる。死んでしまった人を運ぶわけでもなく、神様の使いであるわけでもなく、ただ、人間に幸せを届けてくれる。
「おはよう、天使ちゃん!」
「おはようございます」
この家にいる天使は、かわいらしい見た目の割には物静かだ。昨日来たばかりで緊張しているのだろうか。
「コーヒー用意しておきました。良ければどうぞ」
「ええっ私頼んだわけじゃないのに…!ありがとう!」
「いえ、私がやりたかっただけなので」
天使はソファーにぽすっと座り、テレビを眺めていた。
「…天使ちゃんも、私のことを幸せにしたら戻るの?」
「もちろんですよ」
「どうして?」
「…なんででしょうね」
「天使ちゃんもわからないなら仕方ないっか」
彼女は天使の隣に座った。
「次のニュースです。__」
テレビからは変わらず声が流れる。
「…あなたの願い事、教えてください」
天使はまるで独り言のように言った。彼女はぽかんとした顔のまま答える。
「お父さんとお母さんに、会いたい」
「…わかりました」
天使は立ち上がり、ふにゃっと笑った。彼女が驚いて瞬きをしているううちに、天使の姿が消えた。代わりに、彼女の両親がいた。
「!ほん…とに…?」
両親は悲しげに微笑むと、まるで幽霊のようにふっと消えていった。
「…天使ちゃん、ありがとう。ありがとう」
「私はやることをやっただけです。それでは」
それから、彼女の声を聞いていない。
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