なぜこんなことに!?~帝国内務省 第三外局物語~
和扇
婚約破棄は突然に
それはまさに青天の
その場にいた誰もが驚愕した。
高級な酒の香りも、極上の美食の味も、その存在を消す程の衝撃。
その原因は、皇太子の一声だ。
『コンスタンツェ・フォン・フィンゼフトとの婚約を解消する』
誰も何も発せず、身動ぎ一つもしない。
そんな中で狼狽え震える人物が一人。
年の頃は皇太子と同じく十と八。
百五十半
年を追うごとに女性らしさを増すシルエットが彼女の魅力を示す。
背中まで伸びた
二つが合わさり、宝石のような
白のフリルブラウスはそんな彼女によく合っている。
青
青の布地に銀装飾が施された
スカートから伸びる黒の編み上げブーツがよろめいた。
婚約当事者の片割れ、フィンゼフト公爵家の娘、コンスタンツェだ。
「な、なぜ?何故なのです、ジークハルト様!」
しかし、皇太子ジークハルトの紫の瞳は彼女を冷酷に映すばかり。
柔和で人の良い普段の彼を知る者ならば、余計に違和感を覚える表情と目つき。
疑い、恐れ、軽蔑する、魔獣を見るかのような目だ。
なぜ?
なぜこんなことに?
コンスタンツェは衝撃によろめきながらも思考を巡らせる。
だが彼との思い出の中で、思い当たる節が全く無い。
仲
二人は喧嘩はおろか、意見の相違すら無かった。
ここ一ヶ月は多忙で会えなかったが、そんな状態からの突然の婚約破棄。
理解が追い付かない。
足下の床が崩れ落ちるかのような、現実感の無い寒気が身体を支配する。
だが、コンスタンツェは考えた。
そこらの人間とは違うのだ。
彼と仲違いは無かった。
公爵家は
つまり、彼との仲や家の問題に起因する話では無い。
となると、何が原因だ?
人が良い皇太子は他人を疑う事を知らない。
他者を信用しやすく、そこに付け込んだ人間に騙されているのではないか?
彼の意思ではあるが、その根拠は異なる。
誰かの入れ知恵だ。
そうだ。
そうに違いない。
それ以外、あり得るはずがない。
コンスタンツェは
だが、皇太子はそれを意に介さず、彼女を
初めての言い合い、喧嘩。
それがこんな場で、取り返しのつかない事態で発生するなど、誰が考えるだろうか。
目に涙を浮かべながらもコンスタンツェは周囲を
皇太子に入れ知恵をした人間は、絶対にこの場にいる、いるはずだ。
混乱し、困惑し、狼狽える貴族達。
そんな中で一人だけ。
ただ、一人だけ。
柱の陰にいる女だけは違った。
罪人を見るような鋭い目でコンスタンツェを見ていた。
奴だ。
奴こそが皇太子に入れ知恵をした元凶だ。
公爵令嬢コンスタンツェは女を睨む―――
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