中条星菜の第二の人生

仲仁へび(旧:離久)

中条星菜の第二の人生



 ある所に、中条星菜という学生がいた。

 平均的な見た目で、平均的な学力。

 人より少しだけ運動に優れているという、どこにでもいる普通の少女が。


 友達の数は多くもなく、少なくもない。

 非行はないが、目立つほどの功績もない。

 辺りを見回せば、中条星菜と同じようなカテゴリの人間は多くいるだろうことが分かる。


 その少女は、そんな平凡な少女だった。


 




 そんな少女は、ある日文房具を買うためにデパートへ向かった。


「お買い物に行って、必要なものを買ってこなくちゃ」


 自宅から十数分ほどの距離にある、近所のデパートに。


 学生らしい小遣いの入った、財布を持って。


 そんな星菜は、そのデパートで何者かに刺されてしまう。


 相手は、罪を犯すことをためらわない人間。


 そんな人間と目があった瞬間、星菜の運命は決まってしまったのだった。






 痛みとともに意識を喪失した星菜の人生は終わった。


 しかし、その記憶は新たな生へと引き継がれる。


 意識を取り戻した星菜は、白い空間にいた。


 そこは、厳かな雰囲気の満ちる宮殿のような場所だった。


 荘厳な建物の中にいたのは、この世のものとは思えない美貌の持ち主。


 男性にも女性にも見える中性的な容姿をしたその存在は、輪廻転生をつかさどる神。


「引き受けていただきますね、悲しい転生者よ」


 神様と出会った星菜は、大罪人を倒して世界を救うという使命を引き受け、別の世界で新たな人生を歩むことになった。






 彼女が次に気が付いた場所は、自分が以前やっていた乙女ゲーム「勇者に恋する乙女」の世界だった。






 その世界で、星菜はステラ・ウティレシアという少女になった。


 元のステラがどうなったのかは分からない。


 消えたのかもしれないし、どこかに行ったのかもしれないし、共存しているのかもしれない。


 けれど気にしていられる余裕はなかった。


 星菜には、神に頼まれた内容があったからだ。


「私は私の価値を証明しないと」


 自分が有用であることを証明しなければ、星菜は不安でたまらなかった。






 星菜は、その世界では貴族令嬢だった。


 特別に名前の家でもなく、だからといって没落寸前でもない。


 そこそこのお金持ちのご令嬢だ。


「鉄道も飛行機も家電もないような世界だけど、お風呂に入れるのは贅沢よね?」


 庶民には難しい事だが、冷たいものが食べたいと言えば食べれるし、砂糖を使ったお菓子だって好きに食べることができた。


 それでもお小遣い程度のお金しか使ってこなかった星菜にとっては、すすんで贅沢をする気にはなれなかった。






 その世界での星菜の役割は、悪役令嬢だ。


 ヒロインや攻略対象に嫌がらせをする役割。


 しかし、星菜はそんな嫌がらせをするつもりはなかった。


 ただ神の頼みごとをこなすため、わき目もふらず強さを求めていった。


「強くならなくっちゃ。強さはあればあるだけ良いはずだもの」


 星菜は悪役令嬢だったので、ヒロイン+攻略対象数人を同時に邪魔するだけのポテンシャルはあった。


 剣を振るようになったら、次第に星菜は、めきめきと腕を上げていった。


 世界を救うため、大罪人を倒す。


 それまで星菜は自分の事を後回しにするつもりだった。






 だから、剣術を学ぶために入った騎士学校で、ツェルトという平民の少年が話しかけてきても。


「仲よくしようぜステラ! なあ!」

「私は別にそうしたいとは思ってないわ」


 星菜はそれにあまり応えたりはしなかった。


 悪役令嬢だけあって、人を寄せつけないオーラがあったのか、ほかの人間はあまり寄ってこなかった。


 一部の親切な物好きは話しかけてくるが、何も対応しなければ自然と人との距離は開いていった。


 だからツェルトにも、冷たくしていれば、同じように離れていくと思っていた。


 それでも、星菜のつれない態度にめげなかったツェルトは、彼女の周囲にい続けた。


「どうしてそんなに私に構うの? 私は、他の人みたいに貴方に接してあげることはできないのに」

「何でか分かんないけど、どうしてか気になっちゃうんだ。見てると放っておけなくなるっていうか」

「あなたってすごく変な人ね」


 それでもツェルトを強引に遠ざけようとしなかったのは、星菜が心の底ではそれを望んでいたからだろう。







 そんな星菜の前に、ある試練が訪れる。


 それは、騎士学校を卒業した後の事だった。


 星菜は、剣の腕が見込まれて、国の中心部である王宮にスカウトされていた。


 初めは、自分の剣の腕が人の役に立つ事を喜んでいた。


「神様のお願いを叶えるために修業した剣だけど、人に役に立つにこしたことはないものね」


 困っている人を助ける騎士の仕事は、星菜に新しい夢を与えてくれたからだ。


 同僚の騎士、アリアやクレウスは良い人間で、友人関係にも恵まれていたため、星菜の日々は充実していた。


 しかし、しばらくするとその環境はひっくり返った。


 クーデターが発生して国がひっくり返り、王座に暴君が座るようになったからだ。







 市民の生活は重くなる税に圧迫されて、思想や言論の自由もなくなり、監視される日常になった。


 騎士達の仕事は、困った人々の助けなどではなく、私腹をこやす貴族や悪党を守る事となった。


 星菜もそんな悪い人間の一人として、睨まれ、石を投げられるこ事があった。


 彼らに弁明しようにも、悪役のオーラが人を遠ざけてしまう。


 コミュニケーションを最小限にして生きてきたせいで、かける言葉も思い浮かばない。


「私達騎士は、こんな事をするために今の立場になったわけじゃないわ」


 過酷な任務で気力と体力をすり減らす星菜は、初めて自分の願いで動いた。


 騎士として成すべき事を成し遂げる。


 そのために、辺境で潜伏していた抵抗組織と合流して、暴政を終わらせるために動くようになった。


 様々な準備をととのえた星菜は、乙女ゲームの知識を利用して、便利な道具を回収していく。


 最後に乙女ゲームのシナリオでキーアイテムとなる、伝説の剣を手に入れた。


 悪役でも、努力をすれば何でもできるのだと、少し希望を持てた。


 勇者の剣を手に入れて、力をつけた星菜は、暴政を終わらせるための作戦を始めた。






 ツェルトやアリア、クレウス。


 頼もしい仲間達と共に、反旗を翻した星菜は、暴政を行う国王の背後に大罪人の姿を見た。


「あなたが元凶だったのね。ちょうどいいわ。ついでに倒してあげる。もともとはそのために力を見に着けていたんだもの」


 死力を尽くして戦った星菜達は、見事勝利。


 暴政の時代を終わらせたのだった、


 平和になった世界で星菜は、自分の夢だと自覚した騎士の仕事を行いながら、第二の人生を平和に過ごしていく。


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中条星菜の第二の人生 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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