38話


 とある日、僕はアテナの眠っている墓地に訪れていた。

 彼女の眠る墓石は立派で、綺麗だった。きっと上原さんが掃除しているのだろう。

 僕は持ってきた花を生けた。

「買ってきたんだ。綺麗な花だろ? エーデルワイスっていうんだ」

 僕は墓石に話しかけた。

「………………」

 墓石は黙ったままだ。

「ここにきたのはお別れを言いにきたんだ。まあ、フラれた僕が言うのも違うと思うけど……」

「………………」

「でも、きっと永遠の別れじゃない。いずれ僕も死ぬんだからさ」

「………………」

「その時は仲良くしてくれよな」

「………………」

「それと、僕はきっとアテナの分まで生きることを約束するよ。それと、大切な思い出と教訓をくれて、ありがとう」

「………………」

「じゃあ、もう行くよ」

「………………」

 不意に強い風が吹いて、落ち葉が舞い上がった。

 僕は不意にアテナがそこにいるような気がした。

「バイバイ」なんて言っているかもしれないと思った。

 なんとなく、ちょっと心が締め付けられる。言葉にするには難しいけど、ほろ苦さが胸の内に広がった。だけど、清々しい気分だった。僕はたぶん上手く、思い出を仕舞うことができそうだ。

 さて、これから僕はみなもと、さくら先輩の件で貸しを返すために、デートをしなければならない。みなもと二人きりで出かけるなんて、今さらな気もするが、アイツのことを楽しませなくちゃ、男が廃るってもんだ。

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