少年研ぎ師ウサギと呪いのサビつき

黒姫小旅

第1話 気づくとそこは

 真っ暗闇だ。

 上から下まで黒一色で、目を開けているのか閉じているのかもはっきりしない。

 ブーンという低音が何重にもなって鳴り響き、鉄を噛んだようなニオイが鼻腔を満たす。体の表面にはモゾモゾとくすぐったいものが動いており、手足を動かせないことから箱か何かに狭いところ閉じ込められているらしい。

 温かく、布団にでもくるまれているような夢見心地でボンヤリしていたが、ずっとそうしてはいられないかった。

 突如として、足元から煙が上ってきたのだ。


「っ!? けほっ。ごほ、ゴホッ!」


 甘ったるく鼻の奥を突き刺す煙に巻かれて咳き込む。すると、箱の外で誰かが息をのむ気配がした。

 乱雑な震動と金具をいじるような音が伝わってきて、次の瞬間、差し込んだ陽光が目をくらませる。真っ白に染められた視界の向こうから分厚い手袋をはめた腕が伸びてきて、マコトをふん掴むと光の下に引っ張り出した。


「ゲホゲホ……うげ!?」


 光に目が慣れてきたマコトは、自身を見下ろして凍りついた。

 洋服にこびりついているのは、数えきれないほどの蜂ではないか。光沢のある漆黒の体で、ナイフのように光る羽を持ち、大きさは親指サイズにもなる。

 背後を見やると、ちょうど子ども一人が入れるくらいの箱が設置されていて、中では何百匹もの蜂が羽を鳴らしていた。


「暴れるんじゃないよ。蜂が怒るからね」


 手袋の主がマコトをなだめた。女性の声だ。腕だけでなく全身を宇宙飛行士のような防護服で包んでいる。霧吹きみたいな道具を持っており、それで煙をシャコシャコ吹きかけると、蜂たちは嫌がって逃げていった。


 髪の毛やリュックの中など、蜂が残っていないことを念入りに確かめてから、女性はマコトを抱えて蜂の巣箱から十分に遠ざかって、それからようやく防護服を脱いだ。

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