第14話

時は、7月21日の朝7時過ぎであった。


英二えいじは、ものすごく怒った表情で旅支度をしていた。


くにで暮らしている両親から『スエノオトウトガレイプジケンヲオカシタ…ダイシキュウカエレ!!』と言う内容のデンポーが届いた。


英二えいじの実家にいるきょうだいは女男合わせて20人いるが、英二を含めて19人がくにを出て海外や大都市圏地域へ出たので、末の弟(23歳・牧場従業員)しかいなかった。


末の弟は、都会からひとりで来た若い女性を友人とふたりで犯した末に大ケガを負わせた。


だから、両親はきょうだいの中でただひとりの既婚者・英二に帰ってくれと求めた。


英二えいじの実家は、男の子のきょうだいはひとりしか結婚を認めないとめている…


だから、レイプ事件を起こした末の弟は嫁をもらうなとまっている…


末の弟が犯したレイプ事件の責任は、既婚者である英二えいじに全部ある…


こんなことになるのであれば、結婚なんかするのじゃなかった…


英二えいじは、ものすごく怒った表情でつぶやきながら旅支度をしていた。


午前9時過ぎであった。


旅支度ができた英二えいじは、ボストンバッグを持って家から出ようとしたが里英りえに止められた。


止められた英二えいじは『オレは急いでいるのだぞ!!』と言うて里英りえを怒鳴りつけた。


英二えいじに怒鳴られた里英りえは、ものすごく困った表情で言うた。


「あなた!!」

「なんぞぉ!!」

「これからどこへ行くのよ!?」

「オレはくにへ帰るのだよ!!」

「なんで帰るのよ!?」

「末の弟がレイプ事件を犯したから帰る!!」

「レイプ事件…」

「ああ!!…都会からひとりで来た若い女性に対して、友人とふたりで森林で犯した!!…女性は大ケガを負った!!…末の弟がレイプ事件を犯した責任は、既婚者であるオレにあるのだよ!!」

「どうしてあなたが全責任を負うのよ!?」

「やかましい!!うちの実家は男の子が嫁はんをもらっていいのはひとりだけで、あとはダメなのだよ!!男の子のきょうだいは、オレを入れて18人いる…」

「それじゃあ、あとの17人は結婚するなと言うこと!?」

「そうだよ!!あとの17人は結婚できないようになっているのだよ!!むらの決まりごとでもあるのだよ!!」

「そんなでたらめな決まり事のためにあなたがギセイになる必要はないわよ!!」

「オレは、末の弟に代わってケームショに行くかもしれない…もう行く…亜香里あかり美奈みなに言うておけ!!…おとーさんが『おかーさんを大切にするのだよ…』と言うていた…って…子どもたちを頼む!!」


その後、英二えいじはボストンバッグを持って家から強引に出た。


「あなた待って!!待って!!」


里英りえは、強引に家から出た英二えいじに『待って!!』と言うた。


しかし、英二えいじの耳に里英りえの声は聞こえていなかった。


その後、里英りえは広間に置かれている白濁色のハウディ(プッシュホン)の受話器をあげたあと、英二えいじのスマホに電話をかけた。


この時、ゴミ箱から英二えいじのスマホの電話の着信音が聞こえた。


しかし、里英りえはそんなことよりも英二えいじに電話に出てほしいとひどくあせっていた。


(ガチャーン!!)


里英りえは、一度受話器を置いたあと再び電話をかけ直そうとした。


その時であった。


(ピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロ…ピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロ…ピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロ…)


この時、電話の着信音が鳴った。


もしかしたら…


英二ダンナかもしれない…


スマホを忘れて困っているみたい…


そう思った里英りえは、電話に出てみた。


「もしもしあなた!!あなたスマホを忘れたの!!…もしもし!!…」


この時、受話器の向こう側から女性のあつかましい声が聞こえた。


電話は、華保かほのお見合いの仲人の奥さまであった。


里英りえは、ものすごくおたついた声で言うた。


「すみませんでした!!…木俣きまた…いえ、仁村にむらでございます!!…与田よだの奥さまでございますね…すみませんでした…あ、…妹は…ちょっと…気持ちにゆとりがないのです…えっ?…ゴハイリョ願います…ゴハイリョ願いますってどう言うことでしょうか?…この前にしたお見合いは…なんの問題もありませんでしたよ…ゴハイリョしてますよ!!…ゴハイリョしているのになんでゴハイリョ願いますと言うのよ!!」


(ガチャーン!!)


思い切りブチ切れた里英りえは、受話器を置いたあと両手で髪の毛を思い切りかきむしった。


この時、和義かずよし里保りほとふたりの子どもたちと華保かほは家にいなかったので、里英りえの怒りがさらに高まったようだ。

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