迷宮のタルタロス
乾杯野郎
第1話
「仕方ない」なんて誰が言いだしたのだろう
仕方ないで貫いた本音は己の迷宮奥へ引きずられていく
その本音を「見栄と矜恃」が邪魔をする
まさに本音の番をする門番
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夜23時 六松原交差点
「十代女子で帰るところ、行き場の無い娘たちは私たちのところに来て!身体なんて売る必要ないように支援するから!」
男の欲望の街六松原のビル一角で派手なノボリを立てて少女達の保護を訴える団体いた。
交差点の信号か赤に変わり車列が止まった
「ねー?あれ何?」
「んー?なんでしょう?あ!なんか家出少女を保護するとかなんとか聞こえますね」
先頭の車の後部座席に座るの総合商社ピースカンパニー代表 松田 啓介
横に座る銀髪のメイドは執事兼護衛 名城 椿
「家出少女を匿うって色々引っかかりそうですけどね」
運転席に座るのは運転手兼護衛 弟村 史
「こんな繁華街であんな事大っぴらにできちゃうんだ?平和だねぇ日本て〜アメリカ繁華街とかであんな事してたら即連れ去られるんじゃない?」
「平和な日本だからこそともいえますね」
「しかし…この繁華街であんな事してたら地回りの連中がすぐ来そうなもんですが…」
名城と弟村が答えた
「2人とも詳しいねぇ〜ん?ちょっと待って?少女だけなのかな?困った男の子とかダメなのかな?」
「どうなんでしょう?そこまで詳しくありませんし…そもそも家出なんて帰る家があるだけマシという事が分からない事が…」
「帰る家があるだけマシ」という名城の言葉には重みがある
「うーん?弟村君、信号変わったらそこつけて停めてて」
そう言うと松田は車から降りた
「ちょっと!社長!」
名城が引き止める事を言い切る前にドアがしまったよう
「ねーーー?君達なにしてるの?」
繁華街とはいえ夜に薄色サングラス、ハイブランド物のキャップ、パーカー、ストレートデニム、スニーカー、腕時計だけパテック・フィリップというアンバランスな男はどう見ても怪しい
「なんなんですか?!貴方は?!妨害行為ですか?!気持ち悪いんで離れてください!」
保護を訴える女性は松田を見るなり喧嘩口調でまくし立てた
「いきなり気持ち悪いて…誤解させちゃったらごめんね?こんな繁華街で何にしてるのかな?って思って聞いてみたんだ」
「貴方にいちいち説明する必要無いです!!妨害やめて!気持ち悪い気持ち悪い!」
「あのさ?1個だけ言わせて、気持ち悪い気持ち悪いって結構失礼よ?僕この辺に越してきた住民として不思議に思って聞いてみただけなんだけどさ、これのどこが妨害なの?」
「我々の邪魔をしてるから妨害なんです!!」
「妨害ってのは君達のしている事を邪魔することだよ?ここの「女の子入口」って書いてる所に僕が通せんぼみたいな事したら妨害だけど君に疑問を提起してるだけだよ」
「貴方みたいなのがウロウロしてると入れない女の子がいるから妨害なの!」
「そう!それなんだよ、僕が謎なのは。女子限定なのはなんでなの?不遇な男の子だっているじゃない、それに…」
サイレンが遠くから聞こえてきて誰かが通報したのかパトカーが2台松田の後ろで止まった
「はいはい、お兄さん、暴れちゃダメだよ」
駆けつけた警官が松田に言った
「え?僕が?」
「キャップ被った男が暴れてるって通報入ったから、ほらとりあえずこっち来て」
「ちょっと!僕がいつ暴れたのさ?痛い!離せよ!」
警官に抑えられパトカーに押し込まれようとしたその時
「っとそこまで、この人何したんです?」
「弟村くーん」
「貴方お知り合い?」
「いえ?全然」
「名前呼ばれましたが?」
「俺の名前なんてどうでもいいでしょ?俺ずっと見てましたがこの人暴れてなんてないですよ?ほら?」
そう言いながらスマホを見せた
どうやら録画していたらしく松田の一部始終が映っていたよう
「これでもこの人引っ張ります?」
「この人の容疑は晴れたみたいですね、社長帰りますよ」
名城は半笑いだ
「社長?」
「君達遅いよ!助けるの!離せよ痛いな、そうだよ!僕が社長なんだよ!あっち行け!」
警官達はスっと離れたが囲んだままだ
「この事は君達の所の総監様にちゃんと伝えておくからな!あ!そこの団体さん、僕はやられたら事は忘れないからね、文句があるならピースカンパニーの名刺渡しておくからこの名城を通すか僕はクライトンベイホテルにいるからいつでも来ていいよ、でも僕忙しいから会えるかわかんないけどね、じゃあ気持ち悪い「お兄さん」は帰るわ、椿ちゃん、弟村君行くよ〜」
名城が集団のリーダーと思われる女に名刺を渡し車に戻った
「ったく…どうせ君ら笑ってたんだろ?!」
「そりゃあ世界を飛び回り武器を売ってる社長が不審者扱いされてるのは最高に面白ですからね、ね?名城さん?」
「だから余計な事に首突っ込むからこうなるんですよ?」
「あれ?僕が首突っ込んで助かった人もいたような気がするんだけどね?椿ちゃん?」
「アレは勝手に社長が…」
名城は顔赤くして答えた
「アハハハ、はいはいこの話終わり!てか2人とも気がついてた?」
「何がです?」
「僕が話かけた女の3時の方向に少女保護には向かないオッサンが2人立ってた」
「よく見てますね〜そういうのは」
「弟村君が地回りの話したけどたぶんあれが地回りだよ、あれは仲間だね」
「しかし…少女保護と地回りか…どういうつもりなんだろうな…ちょっと暇つぶしになるかな?」
「社長…?面白半分で口挟むと痛い目合いますよ?」
「何言ってるの!そのための椿ちゃんじゃない!僕のメイドは最強だからね!それに…」
「それに?」
「面白半分なんかじゃない!面白全部だw」
弟村はヤレヤレと頭を振り名城はクスッと笑っていた
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この日はクライトンベイ17階 天麩羅「花月」で松田は取引相手と会食、もちろん貸切だ
「いやー社長は本当になんでも用立てくれるんですね!」
中年の男性が綺麗に揚がった海老の天麩羅を頬張りながら言った
「僕は言わば何でも用立て屋みたいなもんなんでね、欲しい物を欲しい日に用立てしてこうやってご飯食べられから」
松田はメゴチの天麩羅を食べながら答えた
「頼めば…なんでもなんですか?」
「うん、でも物にもよるよ?」
「おや?何でもではなかったのですか?」
「お薬とか僕は扱ってないよ、アレはダメ、デメリットの方がデカいし意外と儲からない、そもそも僕は半分は優しさでできてるお薬以外信用してないから」
「アハハ、クスリなんか手を出すのは間抜けですよ。私が欲しいのはパスポートと船です」
「パスポートなんて役所に申請すればいいじゃん」
「社長…?お互いこんな商売です、表立って動かしたくない物もお互いあるでしょう?」
「なんか君勘違いしてるけどウチは真っ当な総合商社だよ?日本国内で登記もしてるし納税もしている会社。何でも用立てるけどその国々の非合法的な物は僕は用意できたとしても売らない、ごめん、ちょっと人払いお願いできる?…うーん、やっぱり帰るか」
そう言うと一礼して花月の料理人や給仕係が裏へ入った
「ちょっと!帰るだなんて!」
「だって話が面白くないんだもん、あ、支払いもいいよ僕払うから」
「社長…私はね?今まで相手にNOを言わせた事がないんですよ」
「へー?そうなんだ、じゃあ今日が記念だね!記録は破る為にあるから、ね?高川組フロント企業のカプスエンタープライズの小宮社長さん」
「…ほぅ?素性も調べ済みと?それを分かった上で私の申し出を断るのですか?」
小宮がそう言うと護衛のような人間が4人出てきた
「うわ、怖ーーい!椿ちゃん!助けて」
松田の斜め後ろにいた名城が松田の前に
「ハハッ!こんな小娘に何ができるんだい?」
「そういうなら試してみたら?一応止めろと言っとくね」
名城が足に装備してある特殊警棒に手をやり暫しの静寂...
「お前達!下がれ!」
小宮が命じた
「お?やらないの?なんだぁ、つまんないの」
「社長、どうしてもお願いできませんか?」
「い、や、だ、ね。僕は確かに何でも用立てるけど相手は選ぶさ。それに相手にNOを言わさないなんて後々怖いし、もう小宮さんとは会わない気がするから今回の代金はロハでいいよー」
「何故です?きちんとお支払いしたいのですが」
怪訝そうに小宮が話した
「うーん、取引実績にしたくないからかな、フロント企業って隠してくる人とは。後々買ってやった的な恩着せがましい事は嫌だからね」
「…ふん、用立て屋風情がいきがりやって」
「お?本性出たね」
「ウチがフロント企業って分かってやってるんだろ?いいよ、それで、後で後悔すんのはお前だ」
「あー、僕そういうの後悔したことないんだよね。話が済んだみたいだから帰るわ、アディオス!」
松田が 花月 を去ったあと小宮は拳でテーブルを叩いた
「なんだあの野郎は!舐め腐りやがって!帰るぞ!」
そういい小宮も店を後にした
「いやー弟村のおかげだね、別に本職相手に取引すんのはいいけど隠されちゃ面倒だもんね」
「ですね、弟村さんってビックリするくらい情報調べるの凄い早いですよ。それにしてもいいんですか?小宮さんをあんなに煽って」
名城はタブレットを操りながら松田に聞いた
「別にどうってことないよあんなの、それに今回の高級外車4台ぶんなんてくれてやる、マフィアに比べたら日本のヤクザなんてたかが知れてる、それにさ?」
「弟村さんと私がいるからって仰りたいんでしょ?」
「正解!分かってるね!」
1階でエレベーターを降りたら1人の今風のファッションに身を包み少女さが抜けきれてない女が松田に話しかけてきた
「あんたがピースカンパニーの社長?」
「ん?誰君?」
名城が割って入る
「すみません、何方かは存じ上げませんが社長はお約束の無い方とはお話しません。こちらの名刺をお渡ししますので後日ご連絡をお願い致します。」
「文句があるなら来いって言ったのそっちじゃん?!だから来てやったんだ!」
少女は食いかかってきた
「ん?いつの話?あーーー!六松原の時か?!君あの時あの場に居たの?」
「いたよ、だから来た」
「ですから、お約束の無い方は…」
「はぁ?いつでも来いってのは嘘かよ、この野郎!」
「君凄い口きくね、なんか服装といい猛獣みたいだな」
「てめぇ!誰が猛獣だ!」
騒ぎを聞きつけたホテル警備員が駆け足で寄ってきた
「大きな声を出さないでください、お客様、こちらへ…」
「アタシに触るな!こいつに用事があってきたん…」
別のエレベーターから小宮社長と付き人が降りてくるのを見て少女は松田の影に隠れようとした
「んー?警備員さん迷惑かけたね、この娘は僕に用事あるみたいだから大丈夫だよ、手間かけてごめんね」
そういい見えないように警備員の胸ポケットにチップを渡した
「…松田様、困りますこのような…」
「いーからいーから、取っといてよ、とりあえず君…話すにしてもここじゃ嫌でしょ?僕の部屋来ない?それかご飯がまだならなんか食べる?」
「部屋は嫌だから違う所がいい」
「わかった、君の好きな食べ物は何?移動するの面倒だからここのホテル内で選んで」
「社長?この後が…」
「椿ちゃんこの後キャンセルで、どうせ評議員の金の無心だから、適当に理由つけちゃっていいよ」
こうなると誰も言う事を聞かせられないのを名城は知っている
「わかりました…では「若い女の子に入れあげてるのでお時間取れませんでした」とお伝えしておきます」
「ちょっと!それはダメ!もう少しいい理由にしてよ」
「ハイハイ、体調不良とでもお伝えしておきます、もちろん受け渡す物は取りに来られるのであれば私がお渡しする形でよろしいでしょうか?」
「うん、任せるよ」
派手目ファッションの娘は口をポカンと開いたままで
「あんたら何者…?」
「ん?小さい零細企業の社長とメイドだよ?ねー!椿ちゃん」
「はい、社長」
「で君は何食べたいの?何でもいいよ、天ぷらは今食ったばっかりだから…懐石って感じでもないよね?寿司か肉か中華か…込み入った話しがしたいなら中華か懐石かも?個室あるしね」
「アタシになんかする気だろ?!」
「なんもしないよ、僕は子供に興味はないから」
「アタシは子供じゃない!」
「子供じゃないってムキになる時点で君はまだ子供って事」
松田のカウンターパンチ
「…肉か寿司…」
「ん?何がいいんだい?」
「肉か寿司が食べたい」
「誰かに聞かれちゃうけどいいの?」
「…嫌だ」
「んー?じゃあ僕の部屋しかないよ」
「おま…!」
「大丈夫、この人が貴方に邪な事したらこの人の…を私が切ってあげるから」
「はぁ?!何言ってんだよ」
「私はメイドだけど貴方に不利益な事をしたら社長でも許さないからご安心を」
「とりあえずここじゃなんだから僕の部屋においでよ、はい行くよー、嫌なら来ないでいいから、僕は無理強いはしないよ」
「行けばいいんだろ!コノヤロウ!」
「わかったわかった、とりあえず落ち着こうね」
そういいエレベーターに3人乗った
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