第28話 无(前編)

 無数の火炎弾がアエギルに降り注いだ。

 だがアエギルは鼻で笑うと、厚い水壁をつくり全部を防いだ。

 ジナイダも怯まず、構えを見せる。


「並以上か……上級に近い魔導師ですね、お嬢さん。ワタクシには効きませんけど」


 この時になって、やっとジェロムたちがやって来る。

 ジェロムはアエギルと顔を合わせるなり、斬りかかろうとした。しかし、すぐに刀がないことに気がついた。


「おや、殴りかかるつもりですか? 賢明な選択とは言えませんね」


「む……」


「何をアホやっとんねん。ホレ!」


「え!? カレンか? 何やってたんだよ!」


 カレンがジェロムに渡したのは村雨。最強と言われる程の名刀だ。


「何て……そのおっさんが呼んだドラゴンと戦っとってんで。いきなり襲って来よって、危なかったわ、ほんまに」


「ほう……するともう倒してしまったのですね。お見事」


「貴様は黙っとれやぁ!」


 ジェロムの攻撃……しかし村雨は空を斬った。

 次いでカレンの攻撃は二回ともアエギルの肩を斬り裂く。

 そのスキを突いたリディアのグングニルもアエギルの腹を貫いた。


「今やワレ! 早よ撃て!」


 カレンがジナイダに向かって叫ぶ。


 前もって打ち合わせをしておいたらしく、ジナイダはジェロムたちの方にウインクすると、最強の爆発魔法ニュークリアブラストをアエギルに撃つ!


「ひどすぎますよ、お嬢さん!!」


 そう言い残してアエギルは散った。残りはスルトと……リヴァイアサン!?


「何であの海龍……消えねえんだ!? 召喚したアエギル本人が死んだってのに……」


「細かいことは気にしないで……これからどうするわけ?」


「トールさんにはカタキを取らせたいしな……それとフレイは……あ……!!!!!???」


 何かが割れる音……そう、スルトがグラールを踏みつけ、破壊した音……


「ガハハ……これで聖騎士もただの騎士だな! ざまあ見ろ!!」


「てめ~をぶっ殺せばそんなもん……関係ねえんだよ!!!」


 ジェロムがスルトへ向かって走る。

 その間、スキを見せたスルトの脳天をフレイがシグルスヴェルズでぶち抜く。


 そしてジェロムは両腕ごとスルトの胴をブツ斬りにする。力まかせの攻撃で村雨にヒビが入る。

 しかしもう、そんなことはどうでもいい。敵……六魔導は倒れたのだから。


「勝ったな……思ったよか弱かったじゃねーの、スルトも」


「そうじゃなくて、あなたが強くなったんじゃないの? 勇者ジェロム」


 戦いは終わり、勝利したジェロムにリディアの声。雰囲気・・・になって、これはチャンスとばかりに、ジェロムは馴れ馴れしくリディアの肩に手を回そうとする。


 が……しかし……


「村雨ぶっ壊しよって、どないしてくれんじゃあ!! このボケがあっ!!」


 カレンの左ストレート……ジェロムは鼻血を吹き出しながら吹っ飛ぶ。


「せっかく貞宗二振りと交換して手に入れたのに……」


「だ……だからって少しやりすぎじゃないの!?」


 リディアの反論。そしてまた、カレンの言いたい事を言う。


「ジェロムとはしばらく離れとったよって、あんたらがどーゆうカンケイになっとんか、うちは知らんけどな~……」


「でも……でもジェロムは私の事、大事だって言っくれたもん……」


「甘い甘い!! あれは三歳の時やった……うちがジェロムと結婚してもええか聞いたら『え……? ……あ……』言うとったで!!」


「そんな返事じゃはっきりしないじゃないの!!!」


「あのよぉ~……」


 二人の口論のさ中、意識を取りもどしたジェロムが口をはさんだ。でもやっぱり……


「そうかジェロム、わかったで。こういう事はきちんと勝負で決めろ言うんやな?」


「おい……まだ何も言……」


「よっしゃ! 行くで、リディア!! 向こうの山で勝負つけたるわ!!」


 リディアもコクリとうなずき、カレンの後について行ってしまった。


「……あ~あ、行っちゃいましたねジェロムさん」


(困った……どうしてだ!? 一分前までは全然モテなかったのに……)


「はっ!? あれは……みなさん、見て下さい!!!」


 急にローエングリンが声を上げる。

 彼の指さす物……それはスルトの死体だった。

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