第34話 血(ハイマ)掌握

 裏社会ハイマ掌握しょうあくして数日が経過した。薬・女・人身売買・武器商売と色々とやらかしていたハイマに対し、私は薬だけ介入した。薬から得られる財源は莫大な物だが、アシュヴィッタ王国が薬漬けになるのは困るのだ。その代わり、新薬の人体実験を始めることにした。勿論、被験者は犯罪者に限るが…

 地球に戻って医学書や薬学書、人体模型、医療キットや顕微鏡などをハイマのアジトの一つに持ち込んだ。

 ウォーズの世界では医学はあまり発展してない。代わりに神聖魔法が発展している為に病気に関しては弱いのだ。

 薬を生成していた者達を集めて私は病気に効く薬を作ろうと思った。

 「先ずは医学書を分用意したからそれを読み込め。分からない部分が出てくるだろう。その際はノートにメモをして後で訪問した時に教えてくれれば、私が調べて教える。」

 私の言葉に

 「あの…薬を作るんじゃ?」

エルフの少女が不思議そうな顔をして質問してきた。

 「薬を作るには先ずは人体構造を把握しなくてはならない。医学書も人族のしか用意してない。エルフや獣人、魔族、ドワーフの物はないからな。どの種族でも犯罪を犯した者を捕らえたら薬の治験テストを行う。死ねば解剖に回すから遺体は破棄するなよ。」

 冷酷非道な指示に皆の顔が強張る。

 「この世界の病に関する症例と薬の生成方法が纏められた書物も置いておく。私の国の薬学書に記載されている薬と同じ効果な薬を作ることをお前達に求める。薬が作れるようになれば、外科手術の練習をする。こればかりは経験になる。」

 「外科手術とは何ですか?」

 「簡単に言えば切って縫うことだ。例えば腹を掻っ捌いて悪い部分を取り出して縫う。頭だったら頭蓋骨を外して患部を除去して元に戻す作業だな。死体で練習したら生きた人間で鍛錬を積む。」

 私の言葉に

 「あ、悪魔だ…」

ボソっと誰とも知れず零れ落ちた言葉が彼等の心境を如実に語っていた。

 「医学の発展に犠牲は付き物だ。麻薬だって医療として使われるからな。」

 他にも医療道具の使い方を一通り教えてアジトを後にした。

 その後、ちょくちょくアジトを訪問して病気や薬の研究の進捗を確認するのであった。



 巨大裏組織というだけあってハイマは沢山の情報が入って来た。質の良い諜報員が多い為、私はそれを使って世界中に諜報員を放った。

 特に国内では私に敵対している者に対しての弱みを探るべく情報収集は欠かせない。

 ハイマを操って借金漬けにして奴隷に落としたのも片手では収まらない。またハイマ傘下の娼館には待遇改善のためにルールを決めた。上級娼婦は勿論だが、末端の娼婦にまで読み書き算術・礼儀作法・世界情勢・国内情勢を徹底的に叩き込んだ。

 彼女が努力して掴み取った情報の分だけ謝礼が振舞われる。また避妊は勿論のこと衛生面でも十分に気を配った。

 避妊に関してはコンドームやピルを常備した。子供が出来た場合は、堕胎せずに産休を設け出産を促した。堕胎すると母子共に危険だからだ。子供は娼館の離れに娼婦卒業した者達によって育てられる事になる。男であれば諜報員か護衛か奴隷、女であれば諜報員か娼婦か奴隷のどれかになるだろう。

 また梅毒のような性病に関しては各部屋にシャワー室をこさえて消毒液で性器を洗うように義務付けた。

 それでも性病を発症した者達は離れに隔離して地球産の投薬で治療を施す。これによって死亡者が0になったので、娼館からの私の支持率は高い。

 「ヒヨリ様、もう行ってしまわれるのですか?」

 ハイマ一の娼館であるアポカリプスの看板娼婦であるミーヤの声に

 「此処は居心地が良いけどね、私にも仕事があるんだ。」

薬の開発も進んでいるしねぇ、と嘯けば

 「ヒヨリ様のお陰で娼館は見違えるほど暮らしやすい場所になりましたわ。わらわにはヒヨリ様が神様に思えるのです。わらわ達は男を楽しませるだけしか能のない女だったのが、ヒヨリ様が知識や技術を与えて下さり男を手玉に取ることが出来るようになったのですわ。」

神を見るような視線で崇拝された。

 「ミーヤ、些細な情報でも良いからなるべく多くの情報を集めてくれ。それが私の為になる。」

 「はい、ヒヨリ様。」

 ミーヤの頭を軽く撫でて私は娼館を後にした。

 


 カールに先導され、私は違法奴隷を見に来ていた。

 「エルフや魔族が多いな。」

 違法奴隷の待遇は悪くなかったので、そのままにしている。

 「はい、隣国のケメティエルや魔族領のタウミエルから浚ってきた者達です。」

 「ん?魔族領は分かるが、ケメティエル神聖国は人族主義じゃなかったか?」

 確かケメティエル神聖国は人族主義で亜人や魔族を排除する国だったはず。ついでにアシュヴィッタ王国と小競り合いがある。そんな国からエルフがいるとは思えないのだが?

 私の疑問に

 「ケメティエル神聖国とアシュヴィッタ王国の堺に迷いの森があるんです。そこにエルフの集落があったはずですが…そこから捕らえられたエルフがケメティエル神聖国で高値で取引されていたのを浚って来た者達です。」

淡々と説明するカール。

 「ふーん、エルフの集落から拉致された奴等が多いってことか…困ったなぁ。」

 私の言葉に

 「何を憂いていらっしゃるんで?」

疑問を持つ彼に

 「今いる子達は何でも出来る諜報員に仕立て上げたいと思ってたんだが、ケメティエル神聖国がまた浚ってしまうと彼等の知識が流れてしまうから癪なんだよね。」

完結に思っていた事を述べた。

 「いたちごっこになりますからねぇ。」

 「そうだよね、エルフの集落に行くしかないかなぁ。」

 「それなら手下に探らせましょうか?」

 「良い人材でもいるの?」

 「諜報員に仕立てた奴がいるので、そいつに任せればどうですかね?」

 カールの提案に

 「それもそうだな。エルフの里には私の代表として行って欲しい。彼等も安住の地が欲しいだろう。まぁ、用意出来るのは衣食住だけだけどな。」

 自然豊かな場所は今の私では用意出来ない。

 しかし私の庇護下に入れば衣食住の用意はする。

 「どうしてエルフを集めるんです?」

 カールの疑問は当然だ。

 「エルフに伝わる医学に興味があるんだ。草魔法が得意な彼等が病気に効く特効薬を作るのは有名な話だと思う。私の国の技術とエルフの医療知識を合わせれば医学は大きく発展すると思うんだよね。まぁ、私の道楽さ。」

 彼等の草魔法で貴重な薬草を栽培して欲しいからね。ついでに日本から持ち寄った米を栽培してくれるともっと嬉しい。

 「そうなんですね。じゃあ、直ぐにでもエルフの里に向かわせます。」

 「頼んだよ。」

 数ヶ月後にはエルフの里の者達が彼女の配下になり医学発展を後押しするのであった。

 

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