母という人

瀬戸はや

第1話

母は誰とでもすぐ仲良くなってしまう。デイサービスに行けばデイサービスの職員さんたちが母の来るのを楽しみに待ってくれているほど、仲良くなってしまう。病院に行っても看護婦さんたちが 母が来るのを楽しみにするほど仲良くなってしまう。あんな 短い時間でほとんど喋ることもないのになんでなんだ 、どういうわけか どこへ行っても母は誰とでもすぐ仲良しになってしまう、不思議な人間力だ。

週に3回ぐらい行っていたデイサービスでもそうだ 職員さんはもとより 同じデイサービスの利用者の方たちともすぐに仲良くなってしまう。デイサービスに行くと みんな すぐ 母の方を振り向いて手を振り待ってましたよ、と声をかけてきて大歓迎してくれる。どこへ行ってもそうなのだ、まったく何の変哲もないおばちゃんなのにどうしてだろうといつも思っていた。人柄とでも言うのか 一体どんな魅力があるのか考えてみた。一言で言うと 母は面白い人なのだ。別に大したことは言っていないのに みんなすごく笑って、喜んでくれる。 そうやって母が来るのを楽しみにしてくれ、大歓迎してくれる。そんなに大したことは言っていないのに である。

母を大歓迎してくれるのは家の外の人ばかりではない。身内の中にも母を大歓迎してくれる人がいる。妹の旦那がそうだ。母の大ファンだ。母はちょっとした 認知症になり介護が必要になった時にも率先して介護してくれた。少しも 嫌がらずに それどころか喜んで母の介護をしていてくれた。全く気の繋がりもない赤の他人の旦那さんが である。本来なら 長男である 息子の私が母の介護 全般をするべきなのに息子じゃない赤の他人の妹の旦那さんが率先して介護してくれたのである。妹の旦那さんはいつも母のこととても楽しい人だと言ってくれていた。だから介護も少しも嫌じゃなく むしろ 楽しかったと言ってくれていた。ありがたい話だ。妹の旦那さん 私から見たら義理の弟になるわけだが私より10歳近く 年上で 剣道の達人だった。彼は日本に数名 しかいない 剣道8段の腕前で、週末になるとあちらこちらから 審判を頼まれていた。私は全くの門外漢で剣道の世界は知らないのだけれど妹の旦那さんは剣道の世界ではすごい人らしかった。人柄はすこぶる温和で温かみのある人だった。特に冗談などは言わないのだけれど、会って話していると とても 和やかな暖かな気持ちになれる人だった。その辺りの感じは母にちょっと似ているかもしれない。全く うちは繋がっていないのに不思議なものだ。私はよく 初めて会った人に、母そっくりだと言われるが、それはあくまで外観上のことで中身は全く別人なんだろう。私は母のように人に喜ばれたりするタイプではなかった。母のように楽しくさせたり笑わせたりするのはどちらといえば苦手だった。

母に似ているのは大阪の親類たちだった。特に 三男のおじさんが一番似てる感じだった。叔父もよく人を笑わせたり楽しくさせたりするのが得意だった。その叔父は若い頃はとても女性にモテたそうだ。 面白くて、見た目もテレビにでも出ているような 2枚目で女性人気の出ないわけがなかった。母も若い頃はそれなりに綺麗だったようだ ものすごく細くて折れそうな感じだったらしい、その辺は祖母に似ているのかもしれない。祖母もとても細くて 可憐な感じのお姫様だったらしい。だが祖母の容姿を一番強く受け継いでいたのは妹 のよしえおばさんだろう。評判が立つほどの美人で2つとなりの町の人たちまで叔母を見に来る人がいたそうだ。父も若い頃はとても女性に持ってたらしい。三男の叔父のように明るい楽しい感じの2枚目ではなかったが、とてもおしゃれで恰好の良かった祖父の血を受け継いでいたらしく、ダンスホールにも女性を連れて行ったりしたこともあったらしかった。ただ祖父のように夏に白い麻のスーツを着て、 山高帽にステッキを持ってというようないでたちはしなかったと思うが。

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母という人 瀬戸はや @hase-yasu

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